彼は目覚め、そして子の幸せを願い眠りについた。
ヘムンドゥのマリス身体から太陽光よりも更に激しく、世界を塗り替える程の目映い光が広がる大爆発が起こった。それはヘムンドゥのとっておきというべき、彼女が今出来る最高のタイミングの一手だったのだろう。
だが、その大爆発は光だけを見せるだけで終わったのだ。
一瞬、何が起こったかわからない。
大爆発は阻止されたのは確かである。
けれど、その大爆発を阻止したのはユキではない。
リゼットでも、リゼットの鎧と化した『迷宮の核』がやった訳でもない。
「ナ、ナゼ姿ガ……?」
「気配モ、ナイ」
「ドウイウコトダ……」
ヘムンドゥ側のマリス達でさえ、この状況が理解不能になっていた。マリス達は司令塔でもあったヘムンドゥが居なくなったことにより、動きが止まったのを見逃すことはなくリゼットはマリス達を更に吹き飛ばす。
そして吹き飛ばされたマリス達は黒い泥と化してこの場から逃げ出してしまう。現状として瓦礫の隙間などに入って素早く巧妙にバラバラに散らばって逃げた為、追撃は難しそうだ。
「……あなたは」
ユキは白蓮華を降ろし、まるで先程までヘムンドゥが居た場所に血塗れで倒れている人物に警戒しつつ、近付いていく。その血塗れで倒れている人物は男性だ。
もし、ユキが前の彼を見ていたらこの変わりように酷く驚愕しているだろう。何せ、まるで精気を吸い取られたかの様な酷くガリガリに痩せ細っていたのだから。
「ゴホッ……ぐ……」
口から血反吐を吐き、身体も自由に動かすことも儘ならないのだろう。片腕は特に酷く、皮膚が幾つも裂けて赤黒く染まっている。そして彼の呼吸も浅く、小さい。今にも消えそうな灯火の様に、彼の命も終わりの一途を辿っている。
"死"
生きている以上、避けられぬ運命。
生物の執着地点。
生けるもの全てが恐れながらも、"死"ぬ為に生きている。
"死"は何時起こるかわからないものだ。
そして、"死"の中には決して叶うことのない願いを残したままこの世を去る者もいる。
「……貴方が『ジーク』、ですか」
「ようやく……会えました。はい、そうです……私が、ジーク。あの子の父……とは、呼べませんね」
「まさか」
「どうやら……気付いていた、みたいです、ね。かれこれ、数十年……あの子と話せず、身体を支配されていた……ですが、私を殺そうとした彼女には感謝しなければなりませんね。致命傷を受けた時に、私の中にいた彼は、どうやら痛みに耐えられずに気絶している様子です。その際に、私は、何とか……彼女を、跳ばせました」
「……ジーク、さん」
「わかって、ます。もう私は助からない……いえ、助かってはならない。私の意思ではないとは言え、私は、ただ一人の息子を。そしてこの国を……」
ただ後悔に囚われていたジークは、頭だけを動かし周りの現状を見て唇を噛んでいた。もし、身体が自由に動かせていたのなら自害をも躊躇わなかっただろう。
すると、瓦礫から無事に這い出てきたのか何名ものこの国の騎士達がジークを取り囲む様に剣を構えたのだ。恐らく狙いは、ジークただ一人。
その騎士達の中から一人の騎士団長が前へ出た。
「久しい……ですね、レオ」
「貴様……っ!」
「待て下さい、この人は」
今にも剣を鞘から抜き放ち斬りかかりそうになる騎士団長レオナルドだったが、それを止めに入る。
彼等は知らない。
ジークは十数年、己の身体を後から入ってきた別人格によって身体を支配されていたことを。
「もう、いいんです。これは、私が受けるべき罰なのだから」
「……潔いな、ジーク。まあいい。貴様が、『勇者』であるお前が、この国を、崩壊させた元凶だ」
「えぇ……だから、殺しなさい。今、ここで」
「な、に?」
「今ここで、私の首を跳ねなさい」
ここで殺せ、とジークはレオナルドに訴える。
レオナルドが知るジークではなく、むしろ真逆だ。もし、本来のジークならばみっともなく命乞いをして、隙を着いて人質を使いこの現状を打破し、自分が王の座を守ることも考えていただろう。
ユキは止めようと動くのだが、ジークは目で止める様に訴えた。そして、レオナルドが引き抜いた剣の刃がジークの首に触れる前にユキに声には出さず、口だけを動かして最期にこう伝えたのだ。
『アルトを御願いします』
それを最期に、レオナルドの剣はジークの首を斬った。
同時に、ここから離れた場所から巨大な爆発が起こる。
この場から見ても爆発は規模は小さいように見えているが、それは距離が遠いから。爆音と爆風、そして衝撃波は間近で起こったかと錯覚してしまう程の威力。
「(これが……あなたの力、なんですね)」
ただの屍となったジークをユキは眺めるしかなかった。他の騎士達もこの場に到着し、『勇者』ジークを倒した事で歓声が湧く中、ユキは今になってジークを殺される瞬間、止められなかった事を悔いていた。
止めなかったのは、既にジークは覚悟を決めていたから。
何れ助からない状態になっていたから。
そして何より、彼は自分自身の罪を償う為、己の命を自ら差し出したのだ。
恐らく、ジークが他の別人格によって身体を奪われ支配されていたと言ったとしても理解してくれないだろう。騎士団長レオナルドだけではなく、他の騎士達もジークに向けるのは敵意のみ。そして極悪非道の悪人を見る目だった。
これからジークは、歴史の中で悪人として語り継がれるのだろう。
「(何が……正しかったんだろう……)」
ユキは静かに安らかに眠るジークの顔を見下ろしながら自問自答するのであった。
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あの世、というべき場所。
そこで、一人の女性が立っていた。
「その姿、久々ね」
「ルーシェ……」
女性の目の前に現れたのは、エルフの女性は少し困った様子であったが、それでも何処か嬉しそうであった。
「……ごめん、私は」
「もう死んじゃったでしょ。仕方がないよ。それにしても……」
「ん?」
「あの子に、渡したのね『古代魔具』を」
「見ていたのかい……?」
「えぇ。貴女が私と結婚する為に世界中探したものだもの。同時に二つも手に入れられるとは思わなかったけどね。まさかアルトに持たせるなんて」
「本当はそれを売ればかなりの値になると思っていてね。本当にギリギリだったんだ……まさか、あんな森に跳ばされるなんて」
「けど、良かったわ。女の子になって、そしていい人と出会って」
「それだけが救いだよ。ルーシェ、一人にして……ごめん」
「わかってたから……あれが、貴女じゃないってことくらい」
ルーシェは泣き崩れる女性を抱き締め、子供をあやすように頭を撫でていた。
かつて、ジークという『勇者』だった男は、本来の姿、女の姿で悲しみの感情を露にして無き続けた。愛していたルーシェを一人にし、最愛の、唯一の息子まで救うこともできなかったのだから。
「ね、ジーク。あの子ね、母親になるの」
「……ぇ」
「私達の、孫よ」
「…………そっか。アルトは、幸せだった?」
「えぇ、勿論。だからジーク。ここから見守りましょう。アルトを。女の子になっても、あの子は私達の大切な子なんだから」
「うん。でも……少し、このまま……」
ジークはうつらうつらと瞼が重く、そして閉じていく。そして今まで支えていた身体は、まるでガラスにヒビが入って亀裂が広がり、そして指先から星屑の様に崩れ消えていく。
「……頑張ったのね。自分の力を悪用されない様に……そして、自分を止める為に自ら身体を少しずつ破壊していたんだもの……それでも」
既に魂だけとなったにも関わらず、ジークの瞳には既に生気はない。魂そのものが壊れた末路だ。身体が一つに魂が一つ。それが身体という器の限界であり、二つの魂が別々に暴走し合えばどちらの魂にも影響が起こる。
「ルー……シェ……」
「貴女を一人になんてしない。ずっと……ずっと、一緒にいるから……」
「あり……が、と……」
ジークは力無くルーシェに微笑む。しかしもう、彼女は何も見えなかった。ただ、愛するルーシェの声だけしか、聞こえない。全てが闇に葬られ、ジークは肉体的に死ぬだけではなく、魂としても輪廻転生されることなく、ここで消滅する。
しかし、直ぐに起こる訳ではない。
ゆっくりと、確実に……時間を掛けて。
二人は寄り添い合い、子の幸せを願い見守る。二人は共に消滅する運命となった。
だからこそ、彼女二人は最期の時まで共にいる。
設定について。
ジークは元女性です。
ルーシェと出会い、一目惚れをしてしまいますが、同性との恋愛・結婚は厳しいものでした。なので、ジークは性別を帰られるアイテムがあるかもしれない、と考えて旅をします。そこで幸運にも二つの性転換が出来る魔導書を入手して、ルーシェの元へ。ルーシェ自身もジークの人柄に惚れており、男となったジークも女のジークも同じだと考えています。
因みにジークの能力は触れた相手を自分の知る場所へ飛ばす『転移魔法』の使い手です。別人格が使えなかったのは、『転移魔法』を使用する際に中から魔力のプチ暴走をさせていたからです。その結果として、自らの命を縮める結果となりました。
今回は後味が悪いかもしれませんが……
余談ですが、ジークの身体を支配していた別人格の魂は……(笑)
実はジークの子はルーシェのと子だけ。別人格が、他の女を作り兄……とかいますが、実はジークの子ではなく、他の男の子です。
ジークは恋人になった時にルーシェと呪いの様な契約をしている為、子供を作れる身体ではなくなっています。
と、以上が裏設定、という訳ではありませんが、そういう設定です。
今回はわかりにくいと思い、後書きで書かせていただきました。
これからもどうぞ、宜しく御願いします。




