神を倒す者
シキは黒き片翼の剣を左手で握り締めると、ゼンによる"五護封印"と『大焦熱の番神』、『雷纏う猿獅』、『白き聖霊王』によって完全に動きを封じ込められ大ダメージを受けているバハムートに向けて駆け出す。
片翼の剣は更に刀身が倍に伸びて、大太刀へと変化を遂げていた。
「これで───終わらせるッ!!!」
シキと同じく横へ仮面女も駆けていた。しかも手に持つのは薙刀ではなく、巨大な大剣だ。
その大剣は通常の物とは異なり、両刃ではあるがその中心が分かれて空いている。まるで片手剣の刃を左右に着けた様なものだ。左右によって刃の色は白と黒で分かれている。その白と黒の刃、その互いの背の空いた空間には螺旋に渦巻く力が放出させていた。
「なんだ、それは……!」
「今の私は機嫌がいいわ!───教えてあげる、これは『絶冠剣エーテル』!あの蜥蜴だか神だかどっちかわからないアレを切り離すわ!着いてこれるかしら、アンタ」
「ハッ!ほざけ!」
『絶冠剣エーテル』は仮面女の奥の手なのだろう。近くからでもその力は身体まで引きずり込まれそうだ。
シキと仮面女は同じタイミングで、バハムートの顔面に向けて飛び立った。
<おの、れぇェェェエ!!!!>
バハムートは完全に動きを封じられたとはいえ、やはり数多の神々を喰らいその力を宿しているからか"五護封印"を力尽くで押し退けようとしている。
「ぬっ!?神獣の力を行使した"五護封印"でも、ここまで抗うか……っ!!!」
ゼンは"五護封印"を何とか維持させながら耐えていた。"五護封印"というのは五体の神獣の力を借りて行使する大封印結界。神獣は神と遜色ない獣であり、その力を借りて行使する者はゼンのみしかいない。ゼンが保有する最強の封印。それは数多の神々を喰らい己の力の糧にしたバハムートであれ、簡単に壊すのは難しい。
しかし、バハムートは光の剣を両手に持つとシキと仮面女に向けて薙ぎ払おうとするのだ。だが"五護封印"が邪魔をして動きが鈍くなってしまう。それでもバハムートはこれで敗北するとは思っていない。まだ勝てると確信して諦めないのだ。
<消え失せよッ!!!人間共!!!>
己の力全てを光の剣へ込める。
そして強引に"五護封印"に拘束されながらもシキと仮面女に斬りかかろうとする。既にバハムートは"五護封印"は壊せないと判断したらしい。しかし、"五護封印"に封じられながらも動けはする。だが、身体を蝕む様に過度な負担をかけてしまう。
それでも、バハムートは動いた。
最後の一撃を。
「消えるのは───」
「アンタよ───」
「「クソ蜥蜴が────!!!!!!」」
シキと片翼の大太刀、仮面女の『絶冠剣エーテル』とバハムートの光の剣が衝突する。
刃が交わった瞬間、強大な力がぶつかった事で当然膨大なエネルギーが発生してしまう。下手すれば周りに被害が出てしまうのも仕方がない程。だが、その事も予測を立てていたゼンは"五護封印"の上に"五護封印"を三重にして重ね、発動したのだ。
「────ッ!!!今度、シキ君につまみを作ってもらおうかのっ」
三つも重ねかけた"五護封印"でもギシギシと今にも罅が入ってしまいそうだが、それでも壊れる様子はない。が、その反動かゼンが合わせた両手から血がポトポトと流れ落ちていた。しかしゼンは余裕そうな表情で、この三重にした"五護封印"の代価に何かお酒の足しになるものを作ってもらおうと考えていた。
恐らくシキも快く承諾するだろうが、一体何を作ってもらおうか考え中であった。
<ぐっ───、人間風情がァァァア!!!!>
両者の剣は拮抗していたのだが、直ぐにバハムートの光の剣が押され始めていく。
バハムートは咆哮する。
弱小種族である人間に負けるなど、あり得ないと。
しかし、この二人の人間はどうだろうか。
一人は守るべきものの為に次々に新たな力に目覚め、己のモノとして顕現する人の領域から既に外れた麗人。
もう一人は、"神々を喰らいしもの"であり神化したバハムートとの戦いを高揚されて笑う女。
その両者を目定めながらバハムートは思う。
この二人はもはや、人の理から外れた己が憎むべき神とは違うがそれと同じバケモノなのだと。
遂に、決着が着く。
バハムートは思う。
中々愉快にさせてくれる人間共だ、と。
~~~~~
「Gruuu────」
決着は着いた。
バハムートは呻き声を上げながら翼をはためかせ、見下ろす先に立つ二つの存在に睨み付けていた。
「まだやるか?」
「次こそは───確実に殺すわよ?」
シキと仮面女は大きな傷を負いつつも未だに倒れる様子はない。
シキは右肩から左脇腹まで光の剣で斬られたのか、出血をしている。仮面女はというと右横腹に光の剣が刺さっており貫通しているのだが、特に気にした様子も無く、躊躇なく刺さった光の剣を抜いて捨てていた。
一方のバハムートは"神々を喰らいしもの"の状態ではなく、元の姿に戻っていた。身体中から今まで喰らった神々の力が抜けていく様に白い靄が煙の様に放出していたのだ。
力を失った原因は仮面女が持つ『絶冠剣エーテル』にある。
『絶冠剣エーテル』、それは集約されたものを分離させる力を保有しているのだ。今回であれば数多の神々を喰らった"神々を喰らいしもの"のバハムートだが、その力は喰らった数多の神々のもの。バハムートのものではないのだ。つまり、"神々を喰らいしもの"はバハムートを元にその他の神々の集約されたもの。バハムートにとって神々の力は本来あるべきものではないのだ。
だからこそ、バハムートは『絶冠剣エーテル』に効果絶大だった。他にも神等から与えられし、本来持つべきではない力もその対象となる。異世界から召喚され、その時に力を持った者にも効果絶大だろう。特に身の丈に合わない能力にも。
「Gruuooo────!!!」
バハムートは咆哮を上げる。
大気を震わせ、自らの身体に風を纏わせるのだ。
しかし、それは攻撃の意思はない。
シキと仮面女をジッと見たかと思うと、己の翼をはためかせ風と共に空へ飛び立ったのだ。
空は黒雲に染まっていたが、その発生源であろう渦巻く中心にバハムートは突っ込んだかと思うと黒雲は晴れる様に消え去った。バハムートと共にだ。
戦いは───終わった。
しかし。
「(晴れて敵となった訳だが……どう仕掛けてくるか)」
バハムートとの戦いは確かに終わった。
だが、女神クシャル、仮面女達との戦いは終わっていない。共闘は終わり、敵同士となったからにはどうなるかもわからない。
シキは黒き片翼の大太刀を肩に乗せながら様子を見て警戒するのであった。




