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魔王様が世界を滅ぼしそうです。  作者: くろくろ
おかしと恋のレシピ
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むしろ、逆ですからっ!?

フライパンの上に、お玉一杯分の生地をうすーく伸ばす。

泡みたいなのが出てきたら、裏返して少しおく。

で、まな板の上にひっくり返したら完成です!


ちなみに、裏返すときに竹串を使うとフライ返しを使うよりも楽に生地が摘まめるんだよね。

生地が薄いから、フライ返しだとシワになるし、そこで時間を掛けちゃえば焦げちゃうし。


「それならそうと、早くいえ!」


「えぇ、もう少し早く知りたかったです」


「すみません…」


焦げたものが、ちょっとした山になってお皿の上に鎮座していた。

うん、もちろん作成者は恥ずかしさから怒り気味のモンブランと、しょんぼりしてるプリンの二人だ。

料理はフツーに出来る二人だけど、お菓子作りは勝手が違うからか四苦八苦した挙げ句、この現状だったりする。


ちなみに、別のお皿に乗ってる二人の半分くらいの量で焦げてないのは私作のもので、その倍量でいまも量産されてるのがオムレット作のものだ。

見本で最初に焼いたのを見て、それだけでオムレットは意外に難しい薄い生地を難なく焼いている。


「さすがですね」


「ふふっ、ありがとう」


さすが、たった二人で魔王の屋敷を維持するだけあるわ〜

手際といい、焼き加減といい段違いだよ。


「くっ、私が本気を出せばそんな薄い生地ぐらいっ!」

「まあまあ」


プリンにたしなめられるモンブランは、拗ねながらレタス…のような何かを引きちぎってザルにたっぷり準備してくれる。

たしなめながらも包丁の動きを止めないプリンは、タマネギ…もどきの薄切りが早くも終わり、次のショッキングな色合いのニンジンの千切りに移った。


「そうですね〜生地を焼くのはともかく、料理の手際はとてもいいですよね!」


「お〜ま〜え〜はああぁぁっ!!」


「ぴきゃぁぁぁっ?!」


「うーん。褒めたい気持ちはわかるのですが、いまは逆効果ですねぇ」


「あらあら、まあまあ」


細い指でも、顔面をわし掴まれたら痛いって!

ギブギブッ!プリンもオムレットものんびりしてないで、タオル投げてよ〜!!

あとモンブラン、レタスちぎりすぎだからねっ!




メイドさんの襲来事件(笑)のあと、本来ならモンブランやプリンとお茶する時間があったんだけど、意外に時間が取られてたみたいで出来なくなった、しょぼーん。

しょんぼりした姿があからさまだったからか、忙しい合間をぬってこうして二人とも屋敷に来てくれたのだ。

朝はフツーに塔に行って、魔王に頼まれた細々した仕事をして、昼を告げる鐘が鳴った頃にモンブランが迎えに来てくれて屋敷に戻った。


モンブランは午後から休みで、そのまま私を連れて屋敷へ行くため、服装は魔術師の制服であるローブのままだ。

魔王はともかく、みんなの私服姿は見る機会がないからちょっと残念に思って、近くにいたホットにぐちぐちいう。

別に、ホットの私服が見たいんじゃないよ。

ただ単にぐちに見せ掛けて、自慢がしたかっただけ!


「ブランさんも、私服に着替えてから来てくれればいいのに〜プリンさんはお休みってことで、直接屋敷に来るから私服なんですよ。本人は、地味な服しか持ってないっていってますが、着る人が可愛ければどうってことないですよ!」


しかも、そのときの照れた表情がまた可愛かった!

そこまでいおうとしたんだけど、さ。


「へぇ〜、そうなんだぁ」


言葉はいつも通りの間延びしたものだし、口元は笑ってる。

だけど、いつもなら笑みの形に細められてるハチミツ色の瞳が…笑ってなかった。

つり上がり気味の、鋭い眼差しに込められてるのは怒り、だろうか。

アレか、『仕事中にムダ話に付き合わせるなよ』っていう怒りですね、ゴメンナサイ。

そして、そのときの顔は本当に怖かったよホット。


プリンの胸に輝くハチミツ色の石が付いたネックレスを見て、それから笑ってない目を連想して思わずそっと目を逸らした。


「?どうかしたのですか?」


「いえ、気にしないでください」


うん、プリンは可愛いよ。

アクセサリーは丸くカットされたネックレスだけで、着ているふんわりしたデザインの白いワンピースは飾り気がない。

それでもシンプルな分、プリンの可愛さが際立つと思うんだよね!

アレだ、ふんわりしたワンピースの白さが生クリームっぽいから、まさにプリンアラモード風でとても可愛いんだよ。

…まあ食べ物であるプリンアラモードを“可愛い”と称するのかは、人それぞれだと思うけど。


「お野菜は、各自に盛り付ければいいのかしら?」


「いえ、大きなお皿にそれぞれ何種類か盛り付けてもらえれば。二人とも、座りましょう」


「サラダでは、ないのですね?」


「それに前も食べたがこの丸く焼いたものは、なんなんだ?パンの一種…ではなさそうだが」


オムレットに返事をして、プリンとモンブランを促して席に着く。

四人で使う食卓には、焼いた生地やちぎってもらったり切ってもらった野菜が大皿に盛り付けられて並び、他には小さめにカットされたフルーツと、甘くない生クリーム、そして前とは違うジャムがその出番を待っている。


「パンの一種ではありませんが、今回は主食扱いになりますね。こうして…」


キツネ色に焼けた薄い生地を一枚手に取って、そこにレタスもどきと少量のニンジンとタマネギを乗せて油と酢といくつかのハーブを混ぜた簡単なドレッシングを上に掛ける。

縦にまとめて配置した野菜のところに、片方の生地の端を持ってきて、そのままくるくる〜と、円錐状になるように巻いて完成〜


「好きなものを巻いて、食べるんです」


手巻き寿司だと思ってもらえれば、わかりやすいかも。

まあ、ここ(サントノーレ)には寿司文化も米も見当たらないんだけどね!

いずれは見付けてやる!米よ、首を洗って待ってるがいい!

あと、米粉でマフィンを作ったりしたいし!


な〜んてことはおくびに出さず、もう二つ同じものを作って三人の前におく。


「さあ、どうぞ」


三人はそれぞれ巻いたものを口にして、直後ににっこりと笑う。

うんうん、そんな顔が見たかったんだよ。


「うまいな」


「えぇ、本当に。前に食べたのも甘くておいしかったですが、これもおいしいです」


「それに、好きなものを選んで包めるのが斬新でおもしろいですねぇ」


「…ん、これなら大きさを調節したら、仕事中でも食べやすいな」


あぁ、魔王も仕事に集中すると、食べるの忘れるしね〜


「私がいたところでは、屋台で出してたりしましたよ。ここの持つところに、ちょっと厚目の紙を巻いて」


専門店の高いけど豪華なのもいいんだけど、屋台特有のあのチープな味がいいんだよね。


「それなら、折れないですし、手が汚れないからいいです!」


「野菜も取りやすいわ」


まあ、サンドイッチでもいいだろうけど、確かに食べやすさを考えるといいかもね。

今回は、すぐ食べるから紙は用意してないけど、仕事中に手が汚れちゃうのは確かに困る。

うーん、ジャムと生クリーム入りのも準備しておけば、魔王も食べてくれるかも?

またあとで、オムレットに相談しよ〜と。


最初に渡した分を食べ終えた三人は、それぞれ自分の好きなものを巻いて、見よう見まねで巻き巻きしてる。


肉類を摂取出来ないモンブランとプリンがいるから、ハムやベーコンはないから、ちょっと寂しいな。

ツナ缶があれば、手作りマヨネーズと合わせられるし、豆腐があれが手間は掛かるけどしっかり水切りして、味付けしたら肉の代わりになる。

まあ、どっちもないけどっ!

いずれは見付けて(以下略)


ところで、二人とも卵は食べていいのかなぁ?

いや、使ってるのは知ってるから大丈夫なんだろうけど、肉はダメで卵はいいってのは、じゃっかん腑に落ちない。

まあ、食べてもらえるんならいいけど〜


「ところで、聞き忘れていたのですが、この名前はなんというのですか?」


もきゅもきゅ、ごくんしたプリンが可愛い〜

そんなプリンの質問に、ニヨニヨしながら答える。


「はい、“クレープ”といいます」


…ん?このやり取り、前にも覚えが。

しかも、前回もプリンからの質問だった。

沈黙、そしてそのあとの居たたまれないやり取り…を思い出してハッと、イスを蹴倒す勢いで立ち上がる。


「じじじ人名じゃ、ないですよ!!」


はじめて作った人の名前が付いたお菓子もあるよ、例えばタルト・タタンはタタン姉妹が作ったものだし、マドレーヌはメイドのマドレーヌが作ったものだったらしいし。


あっ、タタンもよく考えたら作れないじゃんか!

…くっ!タタンなのになんで男の人なんだよぅ。


内心ギリギリと歯ぎしりをしつつ、懸命にお菓子の名前だと力説する。

だって、実際にいる人の名前を付けたって思われるの恥ずかしいじゃんか!

知り合いにはいないけど、ブラウニーのときみたいにその人が好きなんだと勘違いされるのイヤだよ。


「確かに、サトちゃんの知り合いにはいないのです」


「そうねぇ、卵の業者さんの奥さんのお兄さんの友だちの弟さんの義理の妹さんの旦那さんのお姉さんがミルクレープって名前だと聞いたことがあるけど、会ったことないわよね。旦那様がサトちゃんの外出を制限させているから」


あの、すごい遠い関係なんだね。

交流範囲が広いオムレットなら、卵業者さんの奥さんもそのお兄さんも友だちも弟さんも義理の妹さんも旦那さんも、彼のお姉さんである件のミルクレープも知り合いかもしれないけど。


…しかし“ミルクレープ”はおしいな。

アレは生クリームを間に挟んで、何層にもクレープを重ねたケーキのことだからね。

とりあえず、相手が女の人だから変な誤解を受けなくてよかった。


「ブラウニーのことは、本当になんとも思ってないのか?」


「うぇっ?」


…と思ったら、思わぬところから質問が飛んできた。

えっ、堅そうなモンブランがそんな話するの?


「勘違いするな、咎めるつもりはない。ただブラウニーは…私にとって」


「「とって?」」


身を乗り出す私とプリン、無言で控えてるものの興味津々なオムレットに照れてるのか怒ってるのかわからない、真っ赤な顔でモンブランは怒鳴った。


「弟みたいなものだっ!弟が不誠実な相手に惚れられていたら、姉として一言物申したいと!」


「プリンさん、子どもと弟とどっちが親密なんでしょうか?」


「そうですねぇ。付き合いはお子さんとの方が長いと思いますが、弟さんはかなりの頻度でブランに会いに足を運んでいると聞いたことがあるのですよ」


ちなみに、子どもと弟のところには“魔王”と“ブラウニー”とルビがそれぞれふられてる。

あと、不誠実ってなぜそんな誤解が。


「お前らなあ!!」


口にはしてないけど、それを察したらしいモンブランが口元を引きつらせて…いや、たぶん笑みを浮かべようとして失敗したんだろうけど−−プリンを巻き込もうとする。


「だいたい付き合いの長さなら、お前とほ」

「はい?」


巻き込もうとした、したけど笑顔が怖くてそれ以上続きは聞こえてこなかった。


「そうそう、サトちゃん。この“くれーぷ”は別のお菓子にもなるっていってたけど、どんなものが出来るの?」


オムレット、そんな二人を尻目にのんびりクレープ巻き巻きしながら聞いてきた。

わざとにしても、天然にしても、スルースキルがすご過ぎる!


「はい、このクレープは本来ならそのお菓子の生地を薄くしただけなんです。流す生地をもっと多くして、厚みを出して両面をキレイなキツネ色にしたらほっ」

「はい?」


「…キツネ色にしたら、パンケーキというものになります!」


いま、“ホットケーキ”っていったら誤解だけじゃすまなそうなんだけどなんでっ!?

いや、ホットケーキはパンケーキの一種だから間違いじゃないからいいんだけどね!


「“ぱんけーき”も、サトちゃんの知り合いにはいないわねぇ」


「…むしろ、逆といいますか」


私が好きな相手の名前を作ったお菓子に付けてるんじゃなくて、作るお菓子の名前を持つ人がいるだけなんだよ。


「あら、ならオムレットも?」


「ありますよ。形状はいろいろありますが、ふわふわのスポンジにクリームを挟んだものです」


卵料理の名前でもあります。


「プディングもあるのですか?」


「一般に浸透してるプリンは、卵と牛乳と砂糖を使ってる湯煎に掛けて作る柔らかくてぷるんとしたお菓子です。砂糖とお湯を火に掛けて色が付いたソース…カラメルという苦いものを掛けるととてもおいしいですよ。ちなみに湯煎に掛けず、ゼラチンを入れたものはとろっとした食感でそれもおいしいです」


“プディング”も同じく、デザートだけじゃなくて、蒸し料理の総称なんだよね。

日本でいうプディングは、“カスタードプディング”が一般的で、説明した通りのものを指す。

プリンの“ぷるん”とした大きなお胸様は、見てませんよ。


「プリンは比較的に簡単に出来るお菓子なので、今度作ってみますか?」


魔術式オーブンが出来たからこそ、簡単なんだけどね。

プリンを鍋の湯煎で固めるとき、水蒸気が蓋にたまってそれが落ちてで表面が濡れたり、高温過ぎて“す”が立ったりする。

まあ、“す”は、オーブンでも立つから注意するのは一緒か。


「教えてもらえるのですか?」


「はい、もしよければ」


オムレットはともかく、モンブランとプリンがこれに懲りなければ、ね。

お菓子作りって、忍耐と根気が必要だから短気だとうまくいかない。

だから、時間に余裕があるときにまたみんなで作れればいいんだよな〜


「あの〜」


「はい?」

「ブランはないのですか?」


「……」


ケーキ界において、ショートケーキやチーズケーキと並ぶ人気を誇るモンブラン。

しかし、マロンペーストと呼ばれる存在がないここでは作るのがその…メチャクチャ大変なんだよ。


「おい?」


無言で目線を逸らしたことに、なにかを感じとったらしいモンブラン。

だけど、視線を合わせることが出来ない。


だって!硬い皮剥いて、渋皮剥いて、煮て灰汁取って、裏ごしして!

言葉にすれば大したことないかもしれないけど、実際にやるのってほんと〜に、地味で根気のいる作業なんだ。


さすがに、根気が必要だと思ったそばからメンドクサイなんていえないよ!



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