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かっ、勘違いしないでっ!

チーンッ


「出来たみたいですよ」


ついに、このときがやって来ました!


わくわくしながらドアを開けると、もわっとした蒸気が密室から解放されて、顔に一瞬掛かったソレは空間に霧散する。

クルミの焼ける香ばしい香りと、チョコレートの甘い香りがいっぱいに広がり、口内にたまった唾液を飲み下した。


本当は、焼き上がってからしばらく置いた方がおいしいんだけど、みんなの視線がそこに向いてるから試食としてちょっとだけ切って出そうかな?

バターを塗って、粉を少量掛けておいたから、簡単に容器から取れたアツアツのソレにナイフを入れて小さく切り分ける。


手に伝わるサクッとした感覚は、クルミを切ったからだ。

うん、この感覚はたまらない。

だけどやっぱり、食べたときの感覚の方がもっといい!


よしっ、作った人間としたら先に味見しないとね。

魔王からの熱視線が頬に突き刺さってるけど、ここはムシだ。

だってさ、人に出しといて生焼けだったりしたらマズイでしょ?

と、いうわけでいざ、実・食!


………

……


「どうした?また魔術式オーブンは失敗か?」


モンブランの、じゃっかんの不安を含んだ声での問い掛けに答えることが出来なかった。

だって、だって!


「うんまぁぁぁ〜い!!」


チョコレート生地の苦味の中に、温かくてとろっとしたチョコレートと香ばしくてサクッとしたクルミの食感。

甘さは控えめだけど、おいしい〜

自画自賛?いいえ、チョコレートとクルミのハーモニーが成せる技です!


「って、コラッ!」

「痛いよぉ!」


叩かれた手を痛そうに振りながら、でもまったく痛そうに聞こえない抗議の声も、ムシムシ!


「勝手に取っちゃダメ!」


もう、油断も隙もあったもんじゃない。

しかもホット、切り分けてない大きい方を取ろうとしてたし。

いや、確かに一番の功労者はホットだよ?

でもそれは今、関係ないからね!

第一、紅茶を淹れてくれるウアラネージュや、それを配ってくれてるオムレットもまだ席についてないんだから。


「本当に、私たちも同席してもいいのかしら?」


「いいんですよ!だからこそ、サンの許可付きでオーブンを塔から持ってきてくれたんですから」


塔じゃ、ウアラネージュとオムレットは入れないからね。

みんなで食べたいからっていって、わざわざオーブンを塔から持って来てもらいました!


さて気を取り直して、と。

黒々とした生地にナイフを入れ、スティック状に切り分けて、用意してもらった皿に盛り付ける。

本当は、砂糖の入ってない生クリームか無糖ヨーグルトを飾りに使いたかったんたけど、今回はオーブンの試作機お披露目がメインだからね。

オシャレな盛り方は次回に、ということで。


とはいえ、切り分けたソレをさらに斜めに半分にして、横にしたものの上にもう片方を乗せてオシャレ仕様にしてみる。

…うん、まあまあいいんじゃないかな?


「さあ、準備はOKですよ!召し上がれ!」


その声を合図に、みんな一斉に手を伸ばし…って、早いよっ!

せっかく、オシャレに盛り付けたのにろくに見向きもされずに形が崩された。

ホットなんて、フォークも使わずわし掴んでるよ。


「おいしいです!」

「確かにうまい」


プリンとモンブランはきゃっきゃしながら食べてる。

うん、二人もフォークの動く速度が半端ない。


「食べないならぁ、もらうよぉ」

「いま食ってんのが、目に入らないのかよっ!」


食い付こうとするホットに、頭をわし掴んでそれを阻止するブラウニー。

相変わらず、仲いいね。


「おいしいわねぇ」

「あの子に食べさせたいですね」


殺伐とする男二人の横で、のんびり会話するのはオムレットとウアラネージュ。

ところで、“あの子”って誰?


そして、最後に残ったのは魔王様。

みんな、食べる手を止めて彼のコメントに注目する…ただしホット以外。

魔王は気品に満ちたフォーク使いで口に運び、のんびり口を動かして。


もぐもぐ


口を動かして、


もぐもぐ


口を動かして、


もぐもぐ


口を動かし…って。


「コメントはっ!?」


“ハッ”と目を見開いた魔王は、やっと食べる以外で口を動かした。


「うまい」


なんだろう、待つだけ待たせてこれだけのコメントなのに、魔王の重低音かつ重々しい一言が、素晴らしいものに感じるのはなんかの魔術だろうか。

解せぬ。


「ところで、このお菓子はなんという名前なんですか?」


再び静かにもぐもぐする魔王と、愉快な仲間たち。

ブラウニーとのやり取りを可哀想に思ったのか、ホットに自分の分をあげていたプリンの問い掛けになにも考えずにすぐに答える。


「ブラウニーです」

「…へっ?」


直後、みんなの動きが止まった。

なんで動きが止まったのかわからず、一瞬ぽかーんとしていたけど、変な声を出したヤツが真剣な顔をしてこっちを見ていた。


「チビッ子…いや、サト。このカシに込めたお前の想いはわかった」


「はあ…?」


『カシ』って菓子のことなら、込めた想いって『甘いもの食べた〜い!!』だよ?

なのに、なぜこんなに真剣なの。

おかげで、はじめて名前を呼ばれたのに、ろくな反応が返せなかったんだけど。


「だけど…ごめんっ!お前の気持ちには、答えられなんだ!!」

「はい?」


ん?方向性が違うような?


「まず、お前が女に見えないんだっ!!」

「…あぁ?」


どういう意味だ、このヤロウ。

イラッときて、思わずドスの利いた声が出たよ。

いかんいかん、えーといわれたことを整理してみると?

…うん?なんか、告白してフラれたみたいになってるんだけど?


「えっ?なんで、そうなるの?」


「カシの名前は、ブラウニーなんだろ?」


そうだけど…って、あれ?

ここでの人物名って、全部お菓子の名前と同じで、ブラウニーに出したのはブラウニーで。

あっ…。


「いたっ!フられたからって、暴力に訴えるなよ!」


「違うわ、ばーか。ぶああぁぁかっ!!」


誰がフラれたんだよ、誰がっ!

たまたま、偶然食べたいものと名前が被っただけだよ!

というか、オーブンが出来たからこれ以降、こういったやり取りが増えるってわけ?

い〜やあぁぁっ!でも、甘いものは食べたいしっ!!


「くしゅっ」


ウンウン悩んでると、いつの間にか室温が下がっていて、クシャミが出た。

なんか魔王を中心に寒くなってるんだけど、なんで冷気を放出してるの?



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