恋する〜フォーチュンクッキー~♪…に。
指を前方に向けて、叫んだ。
「花火は人に向けちゃいけませんっ!!」
そういった瞬間、ちょうど指を指した方角にひときわ大きな赤い花が咲いた。
さっきまでのがロケット花火なら、これは祭りの最後に上がるド派手な花火だ。
…ちょっと、説教した直後にこれはないんじゃないの?
さっきまでギャーギャー騒いでいた人たちを睨みながら見渡して、犯人を探してみる。
しかしなぜかみんな、黙ってこちらを見詰めてきた。
その顔色は蒼く、表情は引きつっている。
そう、ときおり見るブラウニーみたいな表情を、ガラの悪いおじさんたちや制服みたいのを着ている人たちも一同に浮かべていた。
なに、なんか変なとこでもあるの?
オムレット曰く『お散歩中なお嬢様』なこの格好、ウアラネージュとふたりで誉めてくれたけどやっぱり似合わないのかも。
こういう格好は姉はともかく、妹なら似合うだろうなぁ。
自分の今の格好を上から下まで見て、変なとこがないかと確認してから顔を上げて…って、ぎゃああぁぁぁっ!?
「メッ!キャラメルちゃん、ペッしなさい、ペッ!」
「くっえー!!」
モグモグしていたキャラメルが、素直にペッとヒゲもじゃで不衛生なおじさんの顔を吐き出した。
キャラメルの唾液でべとべとな彼は、奇声を上げて手に持っていた弓を放り出してビビっていたけど、甘噛みだよね…ね?
ほら、馬がやる親愛の証ってヤツでさ。
ところで、さっきからグラグラ揺れてる気がするんだけどキャラメル酔いじゃないよね?
自然現象じゃなくて、車酔いならぬキャラメル酔いでもないとすれば、原因はひとつ。
キョロキョロしながら高い位置にある、黒い頭をしばらく探すと…見付けた!
「サンっ!!」
優雅に見えるように歩いてるつもりだけど、もしかしたら駆け足になってたかもしれない。
せっかくオムレットが着飾ってくれたんだから、『お嬢様』っぽくしたいよ?
でもさ、駆け寄った先にいた魔王から真っ黒なオーラが漏れ出してんだもん。
久しぶりの光景にちょっと嬉しいけど、そのまま放置はいけないよね。
「どうしてここにいるっ!!」
すんごいおっかない顔で、怒鳴られた。
悪魔も裸足で逃げ出す雰囲気をまとう…って、よく考えたら“魔王”なんだから雰囲気的には合ってるか。
「迎えに来ました!」
「屋敷にいろといっただろう」
目を一瞬見開いた魔王は、すぐに表情を消して低い声で出張前にいったことを持ち出してきた。
うぅっ、外出しないっていった手前、こっちの立場は弱い。
キャラメルを手招きで呼んで、『くえっ?』と不思議そうな顔で近寄ってきた彼女(彼?)を盾にして魔王と対峙する。
「キャラメルちゃんと一緒です!」
「くえっ!!」
胸を張って、自慢のふさふさした毛を見せ付けるキャラメル。
だってさ、ウアラネージュかキャラメルが一緒なら安全なんでしょ?
「『屋敷から出なければ』と、いったはずだが?」
ぐっ、前提条件があったか。
実はうっかり忘れてたことを隠そうと、強引だけど話を変える。
「はい、あ〜ん」
よしよし、調きょ…ゲフンゲフンの成果か反射的に開いた口に、直感で決めたクッキーを放り込む。
少し大きいクッキーをくわえたまま割って、モグモグと大人しく口を動かす魔王からは、さっきまでの黒いオーラが消えていた。
地面の揺れも、いつの間にやら収まっていて、こっそり安堵の息を吐く。
と、いうかやっぱり原因は魔王かっ!
「…?」
歩く天災…じゃなくて魔王が、眉間にシワを寄せて手に残った方のクッキーを睨む。
シワを寄せたその表情は負の感情は見えず、睨んで…るんじゃなくて、ただ怪訝そうにしている。
「なにか入っていたぞ」
小さいなにか…小さく折り畳んだ紙は異物としては大きくて、なぜそんなものが混入していたのか不思議みたいだ。
いやいや、さすがにこんなに大きいのが入ってたら気付くからね!?
なんでそんなに不安が混じったような目で見てくるのさ。
「わざと入れたんですよっ!これはフォーチュンクッキーといって、クッキーの中に、運勢の書かれた紙が入ってて運試しが出来るんですよ」
某会いに行けるアイドルも歌ってたアレだよ。
フライパンの上に焦げ付かないように敷いたペーパーの上に、薄く伸ばしたクッキー生地を焼いて熱いうちにおみくじもどきを入れて包めば完成!
焼き立てのクッキーはアツアツで大変だけど、熱いうちなら形が整えられてキレイに出来るんだよ〜
ちなみに筒状にして、中にチョコクリームを入れれば、チョココルネになるよ!
今回は時間がなかったから、おみくじもどきで遊び心をプラスしてみたんだ。
「と、いうわけでおみくじ見せてください」
こちらの文字が理解出来ないんだから、たぶん魔王も読めないと思っておみくじを受け取る。
ふむふむ…。
「『運命と再会するかも!』だ、そうですよ」
あっ、間に“相手”を書き忘れてた。
本当は『運命の相手と再会するかも!』って、恋みくじ的なことを書きたかったんたけどなぁ。
つまり、初対面のときはそうでもなかった人にも目を向けてみて〜ってアドバイスなんだけど…ん?
『じぃー』といつも通り無言で、熱くクッキーを見てた魔王の視線が、こっちへと向けられる。
なにかを聞きたそうな雰囲気の魔王としばし見詰め合い、そして気付いた。
「いやいや、クッキーは違うからっ!どこまで甘いものが好きなんですかっ!?」
クッキーに運命を感じるなんて…魔王様、疲れてませんか?
そう思って心配してると、なぜか魔王は遠い目をして疲れたように項垂れた。
む〜、本気で心配してるのに失礼だな!
不機嫌になってると、押し殺したような声が聞こえてくる。
堪えられなくなったのかだんだん大きくなっていき、それが聞いたことがある声だと気付く。
「ブラウニー?」
「ハハハッ!変わんねー…いててっ」
「ブラウさん、ちょっと大人しくして下さい!」
そう、笑い転げてたのはブラウニーだった。
地面に横たわって、前にしゃがんで様子を見ているらしいプリンと同じ服を着た男の人がジャマで、今まで気が付かなかったけど確かにブラウニーだ。
いや、それよりも…。
「ブラウニーって、ブラウって呼ばれてるんだ?」
「えっ、そっち?」
だからそっちって、どっち。
みんなそれぞれ愛称で呼ばれてるけど、魔力がないブラウニーはフツーに呼ばれてたからないのかと思ってたんだよ。
ちょっと距離があるから、近付いて話そうと思えば魔王からは手を掴まれ、ブラウニーからは言葉で止められた。
「汚れるから、こっち来なくていい。…ところでさっきの、ふぉー?…なんとか。アレはまだあるのか?」
ベトナムの麺のことじゃなくて、もしかしなくてもフォーチュンクッキーのことをいってんだよね?
「ありますよ。たくさん作ったので」
キャラメルを呼んで、鞍の横に取り付けたカバンからクッキーを取り出す。
ラッピング用のクローバーがあしらわれた可愛い袋三つ分ギッシリ詰まったクッキーに、ブラウニーは遠目からでも引き、腕を掴んだ魔王の力が強くなった気がした。
魔王、運命の相手に前のめりになり過ぎだから。
クッキーに足があったら、逃げ出されそうだよ。
「一枚一枚が薄いので、これだけ作れたんです」
べっ、別に久し振りに会えるからって張り切ったんじゃないんだからねっ。
…実は計量、ミスっただけで。
胡乱な表情のブラウニーから目を逸らし、手を差し出してくる魔王に袋をひとつ預ける。
まさか、一袋抱えて食べる気かと思いきや、魔王はブラウニーに渡すらしく彼の横に膝を付いて一言二言、言葉を交わす。
小声なため、二人の会話は聞こえない。
あっ、魔王が開けた袋からクッキーを取り出して、ブラウニーが食べた!
自分から口にするなんて、最初のときと比べたらすごい違いだな。
モグモグと口を動かすブラウニーが、横にいる男の人…たぶん法術師のお兄さんにクッキーを差し出して勧めている。
お兄さんが首と両手を振って遠慮してたら、魔王がなにかいったらビクッとした後に蒼い顔をしながらクッキーに手を伸ばす。
恐る恐る咀嚼するという、何気に失礼な態度のお兄さんだったけど、みるみるうちにその表情は変わっていく。
クッキーを飲み込んだお兄さんが、目を丸くして呟いた言葉は聞こえないものの『おいしい』と形作っていた。
ふふんっ、でしょ〜?
今度は止められることなく近付けば、なぜかタオルを掛けられたまま相変わらず横たわってるブラウニーから、二人分のおみくじを受け取って内容を読み上げた。
「えーと、『引いてもダメなら、押してみろっ!』と、『男と見られてないんじゃない?』ですね!」
ちなみに、前者はお兄さんで後者はブラウニーのおみくじだ。
お兄さんの方はなんとなくわかるよ、いかにも押しが弱そうだから、たまに押してみればギャップで相手が落ちるかもしれないから。
ブラウニーの方は…なんか不憫な内容だね。
自分で書いといてなんだけど。
そう思ってれば、身に覚えがあるのかブラウニーは脇腹を押さえて呻いていた。
…押さえるの、胸じゃないんだね。
お兄さんが慌ててブラウニーの脇腹を診察するのを尻目に、結構冷たい魔王はクッキーの袋を片手に近くの制服を着たお兄さんたちに勧めてる。
小汚ないおじさんたちをまとめて縛っていた彼らは、興味津々にクッキーを食し、だけどほんの数人が真っ青な顔で逃げようとしていた。
フフッ、に〜が〜す〜か〜。
「遠慮せず、どうぞ〜」
先回りして、残り二袋を開けて差し出す。
彼らは一層、顔色を悪くしながら震える手でクッキーを摘まんで口に運ぶ。
本当に失礼だよね、魔王やブラウニー、法術師のお兄さんが食べたの見てなかったの?
毒なんて入ってないし、不味くもないはずだよ!
だけど、彼らの表情はクッキーを咀嚼して飲み込んでからも優れないまま、さながらドナドナされる自分が食用にされる運命を知る仔牛のような悲壮感を漂われていた。
「読み上げますよ。『お金のことばかり考えてたら、見放されるよ?』『悪いことはバレます』『見られてないと思ったら、大間違い』『ひどいことをしたら、自分に返ってくる』以上!」
うーわー、このおみくじが本当なら、彼らはわかりやすいダメ男じゃんか。
お金をせびるわ、浮気するわ、暴力を振るうわ。
まあ、書いたのが素人でしょせんはお遊びだからかるーい冗談だと思って笑い飛ばしてよ。
そう付け加えようとしたら、ズイッと前にやって来た魔王に押されて数歩下がることになった。
もー、なんなのさ。
「連れていけ」
後ろにいるから魔王の無表情ながら整った顔じゃなくて、広い背中しか見えなかった。
だけど、命令する声はやたらと冷たい。
蒼から白に変化した顔色のまま、縛られたおじさんたちと同じように連れていかれる数人。
もしかして彼らは、まさにおみくじから想像出来るようなことを仕出かしていたんじゃないかと、魔王の反応から想像する。
だとしたらサイテーだ、この女の敵めっ!
魔王の後ろから彼らを睨み付けていると、また距離が出来たから聞こえないはずのブラウニーの呟きが耳に届いた。
「予言かと思えば、なんか意外に下世話なこと考えてないか、あのチビッ子」
あぁ、悪口はどんなに小さい声でも聞こえるものなんだねー。
ブラウニー、帰ったら覚えてろよ。
「さむっ!なんか、悪寒がするんだけどっ!?」
「知らん」
×花火
○火系魔術




