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やっと思い出したけど、人探し中だった

「「ブラウニー!」」


おぉ、ミルフィーユとロッシェの息がピッタリ!

おかげで、出遅れたよ。


「いや〜、結構いい雰囲気じゃないか?」


現れたのは、ニヤニヤした顔も隠さないブラウニーだった。

ヤツは軽い口調で、声を掛けてくる。

視線の先は、ロッシェと…私?


「なっ、バカを言うな!」


だけど何故か、顔を真っ赤にして怒鳴ったのはミルフィーユ。

どうしたんだろう、興奮のあまりフーフー言ってるけど。


「わっ、私が男に手を取られるなど、めずらしくないだろう!」


「えっ?」

「…え?」


キョトンとするブラウニーに、その反応に固まるミルフィーユ。

ロッシェは黙って、私を見下ろしてる。

むしろこっちも『えっ?』だ。

でも誰も教えてくれないから、どういうことか結局わからずじまいだった。

なにせ、ブラウニーから小言をいただくことになったからだ。


「なんで勝手に出歩いてんだ?メモに書いといただろ。俺は呼び出されて行かなきゃいけないから、ここから出ていかないようにって」


腕を組んで、眉をつり上げたブラウニーに『メッ!』と言われた。

いや、本当は『メッ!』とは実際には言われてないけどまさに“叱る”を体現する格好だからいつ言われてもおかしくないよ。

でも、言わせてほしい!


「そんなこと書いてなかったです。『閉じ込める』って書いてあったです!」


だって『閉じ込める』だよ!?

フツーに、不安を煽る言葉が恐い。

そういえばブラウニーを助けるために部屋から出てきたのに、忘れてたよ。

まあ、本人は元気そうに仁王立ちしてるからいいか!


「よくないだろっ!だいたい、閉じ込めるなんて人聞きが悪い。一人で出歩くなと、師団長に言われてるだろ」


はっきり『出歩くな』って言われてないけど、確かに出掛けるときは忙しいはずの魔王も含め、誰かしら側にいる。

迷子にはならないと思うんだけど、それを主張出来ないままいまだに付き添いが必要なんだよ。


「それならそうと、先方に断ることは出来なかったのか?」


うん、ミルフィーユ。

気を使ってくれるのはうれしいけど、呼び出した側になんて言うのさ?

『魔王から預かってる子どもから目を離せないので、行けません〜』って言うの?

それじゃあ、私は小さい子扱いで恥ずかしいし、魔王は過保護の烙印を押されるし、ブラウニーは『ふざけんな!』と相手に怒鳴られそうだ。

やめてください、そんなこと!


「あ〜…さすがに、それはムリな相手だったんで」


「…そうなのか?」


首を傾げるミルフィーユ。

う〜ん、もしかして仕事のことで呼び出されたのかな。

だとしたら、なんだか申し訳ないな。

上司の一人のミルフィーユが不思議がってるのはどうしてかはわからないけど、ここは素直に謝るとこだよね。


「ご迷惑掛けて、すみませんでした」

「おっ、おぉ…」


頭を下げると、戸惑うような声。

顔を上げれば、あからさまに驚いた表情をしたブラウニーがいた。

…なに、素直に謝れないとでも思ってたの?

ほんとーにちょっとだけムッとしたら、それに気付いたブラウニーが慌てて話題を戻してきた。

『ちょっと』だけなのに、なんでそんな過剰反応するんだろ、失礼にもほどがあるよ、まったく!


「師団長から、字は読めるって聞いてたんだけどダメだったのか?」


ブラウニー曰く、メモにはさっき本人が言った通り『呼び出されたから、席を外す。すぐに戻るから、部屋から出ないように』と書いてあったそうだ。

でも読み手であるこちらには、片言の単語にしか見えなかったのにそんな長文が書かれてたの?


「ホットたちの悪ふざけのときは、読めたのに…」


たった一言、『ようこそ』だけだったけど。

ブラウニーは、腕を組んで考え込む。


「文章は、ムリだとか?」


「ですかね〜?」


同じように腕を組んで首を傾げてると、ミルフィーユも同じように首を傾げる。


「見たところ、シュガーとやらはいいところの出だと思うが、字が読めないなどとあり得るのか?大方ブラウニー、お前の字が汚いからでは?」


「ひどいですよ、副隊長…」


ガックリと肩を落としたブラウニーは、情けない顔で自分の上司を見る。

ロッシェがそれに頷いてるのを見たブラウニーは、恨みがましそうな目をして睨んだ。


「ところでブラウニー」


やっと元いた魔王の執務室前にたどり着いた頃。

無言でブラウニーの視線を受け止めてたロッシェだったけど、なにやら言おうと口を開く。

ドアに手を掛けたブラウニーは、ぶっきらぼうな返事をするけど、彼は気にせず続きを口にした。


「なんだよ」


「師団長は知ってるのか?」


「なにを?」


ドアを開ける。

開いたドアのすきまから、冷気じゃなくて真っ黒いオーラが漏れ出してきた。

目撃した私とミルフィーユは思わず後退ってドアから距離を取ったけど、ロッシェと話してるブラウニーは気付いていない。

魔力がないって、もしかして鈍感ってことなのかな?


大きく開いたドアの、ブラウニーの後ろに大きな人影が見える。

いや、本来は巨体じゃないのにそう見えるのはきっとまとうオーラのせいだと思う。

ひいぃぃぃ〜、それを視界の端に入れてさらに後退る私たち。


「お前が席を外したことを、だ」


ブラウニーは、そんな姿を見て不思議そうに見てから振り返って…そして硬直した。


「…言い訳を聞いた方がいいか?」


部屋全体を重い空気で満たした魔王の、冷やかな声での問い掛けにブラウニーは唾を飲み込んで、なんとか頷いたのだった。




いそいそ、というよりひそひそ?

ブラウニーに向かってる注意がこちらに向かないように、ひっそりと移動してお茶の準備をする。

べっ、別にもので釣ろって部屋を勝手に出たことをうやむやにしようとしてるんじゃないんだらねっ!


「そうだ!ミルフィーユ様も、いかがです?」


ごそごそと取り出したのは、ココアと同じくカカオから作られたチョコレートの掛かったオレンジだ。

作るの、大変だったんだよ〜


ここにはシロップ漬けのオレンジなんてないから、まずはシロップで煮詰めた薄切りのオレンジを作る。

毎日毎日、火を入れてシロップが全体に染み込むようにして、やっと準備が出来る。

次はシロップ漬けオレンジを乾燥させるんだけど、オーブンならすぐに終わるのにないから天日干しだ。

しおしおにならない程度に乾燥させたら、次はチョコレートの準備。

温度計があれば、テンパリングっていって温度の上げ下げをして、チョコレートのツヤを出すための作業があるんだけど、今回はただ湯煎で溶かすだけにした。

まあ、温度計があっても難しくて出来ないけどね。

乾かしたオレンジをチョコレートに浸して、また乾かしたら完成!


オランジェとか、オランジェットとか呼ばれるそれは、手間が掛かるからか買うとやたらと高い。

でも、おいしいからサイフが打撃を受けても買っちゃうんだよね。


「オランジェといって、オレンジ…柑橘系の果物にチョコレートを掛けたお菓子です!」


自分としては、わかりやすく説明したつもりだけど聞いていたミルフィーユはなんなのかわからないみたいだ。

そりゃそうか、チョコレートも『お菓子』という言葉もないんだから仕方ないか。


「これは、食べ物なのか?」


うん、仕方ないよ。

仕方ないって自分に言い聞かせてるけど、その言い方は失礼だ。

しかも顔を引きつらせるほど、変な食べ物に見えるの!?


「ちゃんとした食べ物です。大丈夫、おいしいですよ!」


こぶしを握って力説するけど、それはミルフィーユには通じなかった。

引きつった顔のまま、ただオランジェを凝視するだけで近付きもしない。


確かにオレンジの紫色と、チョコレートの茶色のコントラストはおいしそうには見えないけど、騙されたと思って食べてみてって。


「果物は干からびているし、なんだか泥が掛かっているようにも見えるのだが…」


うわああぁ、そんな言い方しなくても…。

オレンジは干からびているんじゃなくて、乾燥させたんだよ!

掛かってるのは泥じゃなくてチョコレートだし、れっきとした食べ物だし。

チョコレートはともかく、乾燥したフルーツはあるんだよね?

なのにこの扱い。


「立場上、毒には免疫はあるが自ら口にするのは」

「ど、毒…」


『食べ物か?』からはじまり『干からびた・泥』を経てついには『毒』。


見たことがないものを勧められて、ミルフィーユは見るからに困っている。

わかってる、わかってるけど扱いの悪さにイラッと来るのもまた仕方ないよねっ!?

ふるふる怒りに震える身体もそのままに、ミルフィーユをジト目で睨む。

なっ、泣いてなんてないんだから!

ちょっと、心の汗が出そうになってるだけだからねっ!?


じっとりとした目で睨んでいると、ミルフィーユは後退って逃れようとする。

その顔は若干、蒼くなっていてこんなときじゃなければ可哀想に思っただろうけど、今はそんなことには構ってられない。

逃がさない。

絶対に『おいしい』って言わせるんだからっ!!


オランジェを手にしてにじりよる私だったけど、影が行く手を阻む。


それは、本来なら見知った人物だった。

いつもは陽気で女の子にだらしないタレ目なのに、こちらを見下ろすそれは温度を伴っていなくて冷たい。

冷たい氷のナイフが、まるで突き刺さるような視線。


「…ぶらうにー?」


呼び掛けるけど、冷たい目をしたままの彼は答えてくれない。

ただブラウニーの手が腰の剣に伸び、柄に掛かるー…。


「ブラウニー」


魔王の手が、柄を持つブラウニーの手ごと掴んだ。



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