小説風に実況してみたらこうなった
ロッシェは強面だ。
それは覆せない事実であり、騎士であったときは良かったものの、治めるのが田舎ながらも“領主”と呼ばれるようになった今であればあまりよろしくはないだろう。
人間、第一印象は顔で判断するのだから良いに越したことはないが、顔の作りは変えられないからしかたない。
しかし今、彼の前にいる人物はそんなことなどみじんも気にしていないであろう。
なにせ、相手もまたロッシェとは別の意味で見た目に難ありだからだ。
魔術師たちの長にして、『魔王』とあだ名される顔立ちだけ見れば整っているその男は、眉間に深いシワを刻んだまま重いオーラをまといロッシェを見ていた。
正直、質の良い執務机を挟んだ向こう側にいるにも関わらず、威圧感をヒシヒシと感じる。
「ここに呼び出された理由は、わかるとは思うが」
地の底から響くような低音に、即座に否定したい気持ちが殺がれる。
そもそもロッシェと魔術師団長との間に接点はない。
領主としてはもちろん、一介の騎士であったときですら顔を一方的に見たことがあっても、視線が合ったことすらなかった。
だから、はっきり言って何故、自分はここに呼び出されたのかがわからないのだ。
「申し訳ありませんが、見当もつきません」
ロッシェは相手が誰であろうと、はっきりと自分の言葉を口にする。
それは長所であり…こういったときは短所だ。
普通であれば、ここは言葉を濁したり遠回しに聞くのが身分の高い者への礼儀となるのだが、そんなことおかまいなしに言葉にする。
おかげで、それを聞いた魔術師団長の眉間のシワが更に深くなった。
上官に対しては何も感じなかったロッシェったが、相手が魔術師団長だというだけで手のひらに汗をかく。
しっかり魔術師団長の青紫色の瞳を見つつ、こっそりとズボンの膝の部分で手のひらを拭った。
「貴殿の名で、嘆願書が送られてきたのだが?」
ロッシェの脳内で、目まぐるしく記憶が再生され、やがて該当するものを発見した。
思い出した、確かに魔術師団長に嘆願書を送った。
ロッシェの治める領地は、南の暑い場所にあり、なおかつ近くに観光する場がない田舎である。
特産の果物はあるものの、固い殻と中身のねっとりした見た目があまりよくない。
しかも気を使って早い時期に収穫して王都に送っても、やはり生物であるから痛んでしまうこともしばしばある。
他の農作物でなんとか凌いできたものの、暑さのせいで年々収穫量が減ってきていた。
このままいけば、税を納めることが出来なくなる。
それは領主として、避けなければならないことだ。
だから、知恵を借りようと魔術師団長に嘆願書という形でその旨を伝えたわけで。
魔術師団長とは、魔術師たちの長であり、国内最強の魔術師を指す。
魔術に関する様々な知識を有し、ときには天候すら変えることの出来る魔力を持つ。
ただ天候を変えて、領地で農作物が取れるようにしてほしいわけではない。
魔術師団にいる魔術師は、ある一定の魔術に特化した者がほとんどだ。
その中にはもちろん、植物に関する知識と魔術を扱う者もいる。
しかし、たかが田舎領主が塔に行ったところで門前払いを受けるだけだろう。
だからこそ、その長に嘆願書という形でロッシェの領地の現状を伝えたのだがこうして呼び出されたのは…と、考えて彼は血の気が引くのを感じた。
彼は自分の嘆願書を見た魔術師団長から、なんらかの不興を買ってしまった可能性にたった今、気が付いたのだ。
自分では魔術師団長に送るのが一番適切だと判断したのだが、そうではなかったのか、はたまた書き方を間違えたのか。
魔術師団長の様子を伺うが、眉間のシワは相変わらずで何をどう判断すべきかロッシェは判断が着かなかった。
「思い出せたようだな」
「は…い」
おかげさまで、思い出せはした。
しかし、まったく魔術師団長の怒りがどこに向いているのかがわからない。
謝るべきなのは、ロッシェにも理解出来ているのだが、理由もわからないのにただ闇雲に謝罪してもマズイだろう。
むしろ余計に怒らせそうで、ロッシェ返事もろくに出来ずに口ごもる。
すると、こちらの挙動不審な態度になにかしら思うことがあったのか魔術師団長は鋭い目を閉じ、眉間を指で揉みながら口を開く。
「何らかの処分を言い渡すつもりはない。あの嘆願書では、魔術師である私に何を求めているかがわからなかったが、今回はいい」
「……」
言外に『魔術師が従事する職務の範囲外』と言いたいのか、気にしていないことを強調するために言ったのか。
魔術師団長の真意は不明だ。
「では、何故お…私を呼び出したのでしょうか?」
危うく、『俺』と言ってしまいそうになるか、なんとか言い直しつつやはりはっきりと疑問を口にするロッシェはなかなかの強心臓の持ち主である。
まさに“魔王”といった風の相手に対しても、媚もしなければ恐れもしない…いや、恐れてはいるようだがあまりその表情からはわからない。
「ちょうどいいと思ったからだ。そちらは、税を納められるだけの収入が領地で得られればいい。こちらはクォクォの実の加工をしてもらえばいい」
「は…い?」
魔術師団長の言っている意味が、理解出来ない。
クォクォの実というのは、ロッシェの治める領地で取れる特産物だ。
あれは乾燥させると白かった果肉が茶色になり、味も落ちるために加工を断念したものである。
それを何の目的で、魔術師団長は加工させようというのだろうか。
「説明は、そこにいる者がする」
再び鋭い目を開いた魔術師団長は、視線で自分の斜め後ろを指す。
そこにいたのは、ロッシェこの執務室に入ってきたときから物珍しげにキョロキョロしていた子どもだった。
魔術師がまとうローブではなく、侍従の格好をしているから見習いだろうと思っていたロッシェはその子どもに注目する。
「シュガー、説明を」
「…シュガー!」
「ひゃあっ!?」
上から強い口調の声が降ってきた。
思わずマンガみたいに飛び上がって、マヌケな悲鳴を上げてしまう。
見上げれば、眉間に渓谷を築く魔王様がいた。
ヒィ〜。
「話しは聞いていたか」
聞いてはいた。
いたけど、頭の中では別のことに集中してました。
えーと、『なんだか小難しい話をし出したから、暇潰しに小説風にして実況してみよう!』って、脳内で遊んでました、てへっ☆
「……」
ゴゴゴゴゴゴ
そんな効果音が聞こえてきそうな雰囲気を出しながら、魔王はこちらを睨み付ける。
ちょっ、ちょっと茶目っ気を出しただけだって!
話しは聞いてたよ、本当だってほら、ちゃんと今までのこと説明出来るし!
だからだから、えぇーと…
「ゴメンナサイ」
ロッシェ
①岩山という意味。メレンゲにナッツ類を混ぜて円錐状に焼いたもの。クッキーっぽいのもあるらしい。
②登場人物。元騎士で現領主。強面で思ったことをすぐに口にしてたため、上官の受けはよろしくない。でも、同僚や後輩、領民には好かれている。いきなり魔王に呼び出されて、実はビビっている。




