これが私の一週間
『一週間』って童謡があるって知ってる?
日曜日に市場で、糸と麻を買って来るとこから曲がはじまるんだって。
それに倣って、一週間にしてたことを報告してみようと思う。
このピエスモンテでは、一週間は“向こう”と同じく七日間。
魔王に連れられて、屋敷に着いた日は太陽の日。
あとは風の日、土の日、水の日、花の日、火の日、灰の日と続いて、また太陽の日に戻る。
つまり、“太陽”が照って“風”が吹いて“土”が耕されて、“水”で潤ったところに“花”が咲いて“火”が燃えて最後に“灰”になったってことか。
火が燃えるのが突然過ぎて怖いけど、なぁそれはそれということで気にしない。
ちなみに、灰の日が日曜日に辺り、一般的な休みだそうだ。
残念ながら、魔王を含めた周囲にはその日に休みを取る人はいないけど。
太陽の日は、四人で夕食を食べたら魔王はまた、塔に戻って行った。
なんでも、書類を片付けなきゃいけないらしい。
執務室で見た量を思い出すけど、あの量は今日中に終わるのかと疑問が残る。
夕食の片付けをしようとしたら、ウアラネージュがやってくれるとのことで、ありがたくお願いしました。
フツー、主人は使用人と食事を一緒に取らないもので、こうして食卓を共にはする魔王はめずらしい部類に入るんだって。
結局、奥さんはいないらしいから、広い食卓を一人で使うよりは二人と食べた方がいいんじゃないかな。
その後は、オムレットに部屋まで案内してもらって室内の説明をしてもらった。
トイレもお風呂も部屋に完備してあって、とっても楽。
シャワーはないけど、一人で使うには広いお風呂にはとても満足出来ました。
パジャマ代わりのワンピースは、フリルとリボンの着いた可愛いデザインだったんだけど、なんだか薄いのか唯一の欠点かな。
まあ、部屋から出ることも、オムレット以外に会う人がいないから別に困らないんだけどね。
そうそう、お風呂も手伝おうとしてくれたんだけど、そんなに小さな子どもに見えるのかと落ち込む場面もあった。
日本人は若く見られるって聞いたことがあるけど、みんなは何歳ぐらいだと思ってるんだろ…。
聞いたら、さらに落ち込むような不吉な予感がする。
ベッド周りを整えてくれたオムレットが退出して、枕元のランプだけの仄かな明かりの中、部屋を見回す。
すると飾りっ気もないドアが、部屋の隅にあることに気付いた。
なんの気なしに開けてみれば、向こう側にも寝室がある。
こちらとは違い、可愛さが微塵もないシックと言えば聞こえがいいけどはっきり言えば無機質な内装だ。
だけど、ベッドはこっちの方が大きいかも。
うーん、こっちの部屋も使っていいのかな?
今日のところはさっきの部屋に戻って、気分を変えたいときにでもこっちに来よう。
ひとまず、おやすみなさい。
風の日は、起きたらすでに日が昇っていた。
どうやら申し訳ないことに、疲れてるからと気遣って起こさないでくれたらしい。
起きたら、少し遅めの昼食を食べながらウアラネージュから魔王のお言葉をいただいた。
曰く、しばらくの外出を禁止するとのこと。
あと、屋敷に来た客の対応はウアラネージュかオムレットがするから絶対に出ないこと。
その間は暇をもて余すだろうけど、代わりにホットやモンブラン、ブラウニーやプリンが屋敷に行くからそれでガマンするようにとのこと。
魔王も出来る限り、屋敷に戻ってきてくれるとのこと。
検査のために塔に行くこともあるから、そのときは魔王と一緒に向かうこと。
人の屋敷にお世話になってるんだから、お客さんの対応はもちろん勝手にはしないよ。
外出禁止も、もともとインドアだから困りはしないし買い物するにも製菓材料を買ってお金がないし、モンブランたちが会いに来てくれるのであれば大丈夫。
ウアラネージュやオムレットも普段は一緒にいてくれるみたいだし、わざわざ魔王は忙しいのに来てくれるんでしょ?
むしろ気遣ってもらって、申し訳ないくらいだ。
“検査”という言葉が若干気になるけど、連れてってくれるときに魔王に聞けばいいよね。
そう判断して、ウアラネージュに『了解』と伝える。
だけどさ、昨日の夜から帰って来てないらしい魔王から、どうやって伝言が届いたのかは謎だ。
だって、電話はないみたいだし。
あれか、不可能そうなことは“魔術”で片付ければいいのか、そうなのか。
よし、魔術で連絡を取り合ったってことでこの件は解決だ。
連絡事項のあとは、オムレットと屋敷内の探索をする。
借りてる部屋と食事を取るところは知ってるけど、他の客室はもちろんのことオムレットたちが住み込みで働いてることも部屋があるってことは知らなかった。
書庫が三ヶ所に、魔王の執務室に研究室、魔術に使うものを置いておく物置代わりが四部屋。
…えっ、また研究室?
ちなみに、危険だから入室禁止だそうだ。
絶対に入りません、恐いから。
地下にも部屋があって、地下牢を思い出してガタブルしてたら、そこは食料の保管庫と酒蔵だと見せてくれた。
ひんやりした空気の中、それぞれの部屋には言われた通りのものしか入ってなかったからホッとする。
酒蔵は、セレブっぽいワインセラーじゃなくて樽がたくさん並んでる場所だった。
魔王はお酒はたしなむ程度らしいけど、ならなんでこんなに酒樽があるのかと疑問が浮かぶけどオムレットは『祝いのときに振る舞う分』だと教えてくれる。
日本人が正月にお神酒としてお酒を飲む感覚と一緒ってことだね。
ところで、魔王の寝室は紹介されなかったけど、普段はどこで寝てるんだろう。
まさか、塔で寝泊まりしててないってことはないよねっ!?
なんか、本気で魔王が心配なんだが。
土の日は、厨房を借りてお菓子作りをした。
段ボールの中に入ってる粉ゼラチンを使って、ゼリーを作っているときにモンブランとブラウニーがやって来る。
氷がないことと、ホイッパーがないことをグチれば二人が手を貸してくれた。
なんと二人は、モンブランは魔術で氷を作ってゼリー液の下を冷やしてくれて、ブラウニーはウアラネージュが持ってきた太いワイヤー?を説明した通りに曲げて即席ホイッパーを作ってくれたのだ。
モンブランは魔術だからなんでもありだけど、ブラウニーの方はねぇ…。
きっと混ぜ合わせるときに、何回かボウルに当てたら壊れるんじゃないの?
簡単にやってのけたところを疑って、こっそりホイッパーを曲げようと力を加えたら、固くて曲がらなかった。
何度、混ぜるためにボウルにぶつかることがあっても、変わらず壊れない。
どれだけすごい腕力なんだよ!?
その後お礼に、二人にもゼリーを振る舞いました。
水の日は、ホットが来てくれた。
もちろん、バカをやらないように監視付きで。
レンジと冷蔵庫を作ってもらいたいと前日の夜に魔王にお願いしたら、派遣してくれたのだ。
どんなものかを詳しく説明すれば、興味が沸いたのか色々質問された。
わかる範囲しか説明出来なかったけど、なんとかしてくれるみたい。
取り敢えず、後日に試作機を作ってくれるってさ。
花の日は、屋敷にモンブランとプリンがやって来て、三人で女子会をした。
バターや卵、牛乳を少しずつもらって作ったクレープと、その上にオレンジソースを掛けたものを出す。
二人は最初こそ恐る恐る、だけど一口口にすればキラキラした目で次々と食べてくれた。
まあ、食べたことないものを出されたら躊躇するのは当然だもんね。
キレイに完食してくれたので、よしとしよう。
甘いものを食べたからか、二人とは楽しくおしゃべりがはずんだ。
ホットが寝む間を惜しんでレンジを作ってるとか、ブラウニーか塔の下級魔術師の女の子を口説いていてうっとうしいとか、魔王は書類をさばくのに忙しくて屋敷に戻ってくるのが遅いなど。
ところで二人共、なんでホットのことをプリンが、ブラウニーのことをモンブランが行動を知ってるの?
逆なら魔術師同士と、外部同士でまだわかるんだけどちょっと不思議だった。
火の日は、魔王に連れられて塔で検査をしてもらった。
ただし、健康診断じゃなくて魔女診断だけど。
魔術師であるモンブランとホットの他にブラウニーもいて、みんな興味津々。
なんだろう、パンダになった気分だ。
塔の訓練用に特殊な結界が張られてる部屋で、魔王の後に続いて術式を唱えたんだけど…まったく反応なし。
モンブランやホットが加わってあーでもない、こーでもないってやってみたけど結果は同じ、なんの反応も見られなかった。
ほら、主張した通りに魔女じゃなかったじゃんっ!
だけど、そのときのブラウニーの目がやたらと恐くて、かばうように前に出た魔王の後ろに思わず隠れてしまう。
モンブランに連れられて、ホットを含めた体力がない魔術師たちと走り込みをしたり体力作りのメニューを教えたりしてるうちに屋敷に戻る時間になったんだけど送ってくれたのはモンブラン。
それはそれで楽しかったんだけど、ブラウニーと一緒の魔王が心配だった。
結局その日魔王は、屋敷に帰ってこなかったみたいだ。
灰の日は、朝帰りした魔王とまた塔へレンジの試作機を見に行った。
朝帰りの理由は教えてくれなかったけど、無表情の中に疲労が見え隠れしてるのが気に掛かる。
ホットの作った試作機?
あれは改良の余地あり、だ。
箱の中に、火の魔術を込めた魔石を置いておいたらしいんだけど、火力が強すぎて中身どころか外の箱ごと一瞬で灰になった。
近くで見てた、私の前髪も一緒にね。
冷蔵庫も同様だったから、また試作をお願いしといた。
ホットの手伝いをしてる人たちが、私に対して『鬼将軍』とか言ってたけどそれはどーいう意味だ。
みんな昨日一緒に走り込みとかした人たちなんだけど、ちょっと注意しただけなのにビビられてる。
ひどいよ。
と、いうわけでこれが私の一週間。
まだ夜だけど、もう日付が変わってるから一週間でいいんだよね?
仕事はせいぜい、オムレットの簡単な手伝いくらいであとは遊んでばかりいたような気が…。
いいのか、それで。
「よろしいんじゃないですか?旦那様のお菓子も作ってますし」
ベッドを整えてくれてるオムレットが、そう言ってくれたけど実は作ってないんだよね…。
ゼリーは冷蔵庫がないし、モンブランたちが来たから全部みんなで食べちゃったし、クレープは温かい方がいいからそれもオムレットを含めたみんなで食べたんだ。
それを知った魔王から発せられたオーラの重いこと重いこと。
しかたないから、また明日にでも作ろうかな。
オムレットにあいさつをして、彼女が退出したあとに『そういえば』と思い出して、隣の部屋に向かう。
こっちの部屋で寝たことないのを、急に思い出したのだ。
せっかくだから、こっちで寝ようかな〜
それじゃあ、おやすみなさ〜い。
「…っ!?」
…夜中、ベッド脇に人の気配を感じたけど、なんだったんだろう。
「昨夜、休んだと思われた旦那様が執務室で仕事をしていまして驚きました」
朝起きて朝食をもらおうと廊下を歩いる途中、そこで会ったウアラネージュが仕事中毒の主人を心配してた。
「休めるときは休まないと、身体を壊しそうですよね」
屋敷に帰って来たなら、寝室で休めばいいのになぁ。