白執事と陽気な侍女
なんか、色々ごめんなさい。
これから、塔から屋敷へと移動することに。
その前にモンブランたちの元に行ったんどけど、まだ取り込み中でした。
背後に般若を背負ったモンブランは、本気で恐かった…。
ホットを含めた数人が、彼女に言われて即座に土下座するのも頷ける。
絶対に、モンブランを怒らせないようにしようと心に誓った。
「はじめまして、サトと言います。しばらくお世話になります」
『よろしくお願いします』と、お辞儀する。
すると、穏和そうなおじいさんとふくよかなおばさんは感心した様子で顔を見合わせた。
「まあまあ、礼儀正しいおちびちゃんだこと」
「本当に」
やっぱり、初対面で“ちび”扱いか。
二人共、にこにこしてるけど訂正させて下さい。
「私、これでも高校生…十六才なんです」
正直に言えば、驚いた表情をされた。
そりゃ、身長は低いから子供っぽく見えるかもしれないけどさ、四捨五入すれば一六〇センチはあるからね!
生意気にも身長を追い越した弟が、『四捨五入しても一五六センチじゃん』って言ってたけど違うから。
あと、魔王も目を見開いてびっくりしてた。
そんなに驚くことかな?
「あらやだ、そうだったの。ごめんなさいねぇ。ウアラさん、やっぱり旦那様は奥様を連れて来たみたいよ!」
前半はこちらに、後半はおじいさんにそれぞれ話し掛けたおばさんはやたらとテンションが高くなった。
『みたいよ!』のところが最高潮だったみたいで、どこから出てるのかわからない高音で叫んでいる。
ちょっとその様子に戦き、後退っちゃってもしかたないよね?
「それは、おめでたいことですね。旦那様の仰った通り、すぐに使用可能な部屋を用意しております」
「旦那様の部屋の横にある、奥様用の部屋ですよー」
おじいさんは対称的に冷静だ。
だけど、にこにことうれしそうにしている。
それを見た魔王は硬直していて、おばさんが追い討ちを掛けるように付け足した。
「いつ旦那様が女性をお連れになっても大丈夫なように、いつもキレイにしてたんですよ」
「今までお連れになった方はいませんでしたので、使われないままかと思っていました。しかし、杞憂に終わったようですね」
「おい、何をかん」
「あらいけない!私たちったら奥様から丁寧に名乗っていただいたのに、自己紹介がまだだったわ」
なんか、遮られてるよ魔王。
いや、フツーに対応してるおじいさんがすごいだけであって、あのハイテンションに太刀打ち出来る人なんてあんまりいないと思う。
誰に対する言い訳か自分でもわからないけど、ひっそり魔王をフォローしてみた。
「失礼いたしました。私めは、この屋敷の執事を勤めております、ウアラネージュと申します。ウアラとお呼び下さい」
そう言ったおじいさん・ウアラネージュはキレイなお辞儀をしてあいさつをしてくれた。
ムムッ、腰をしっかり曲げてるとこといい、角度といい、滑らかな動きといい、完璧なお辞儀だ。
この執事、出来るな!
「私はこの屋敷の侍女長をしてる、オムレットよ。侍女長と言っても、私しか侍女はいないけどね!」
えぇー!?
侍女ってメイドさんのことだよね?
こんな大きな屋敷に、 メイドさんが一人だけって大丈夫なの!?
過労で倒れたりしなよね?なんで魔王は人件費削減なんてしてるんだろ?
「大丈夫よ〜この屋敷は大きくて部屋数は多いけど、ほとんどが使われてないの。だから、使う部屋しか掃除しないから、ウアラさんと二人でもムリなく仕事が出来るのよ。旦那様も仕事場から帰ってこない日が多いし…いいえ、それは今までの話よ!」
「そうですよ、今後は奥様と過ごされるでしょうから、毎日早くお帰りになるかと思いますよ」
ウアラネージュとオムレットが、何故かすかさずフォローをするけどどーしたんだろ?
二人よりも魔王の方が、過労で倒れそうって情報は頭に入ったけど。
二人の容姿は“美形”とまではいかないけど、取っ付きやすいぐらいは整っている。
オムレットは鮮やかな黄色の髪を一つにして、後ろでバレッタでまとめている。
服装はメイド喫茶とかで見れる『いかにもコスプレです!』ってのとは違って、落ち着いた雰囲気のロングスカートだ。
デザインもシンプルで、若い子なら物足りないかもしれないけど、オムレットなら彼女が持つ明るい笑顔だけで十分飾りなんていらないと思う。
肌の色は白くもっちりしてそうで、瞳はイチゴみたいに赤い。
ウアラネージュは真っ白な短い髪を撫で付け、一本の乱れのなくきっちりと整えていた。
それは服装も一緒で、イメージする執事が着てる燕尾服だっけ?あれを細身の身体に隙なく身に付けている。
白に近い黄褐色の肌に、面長な輪郭は日本人に通じるものがあって親しみがあるけど、やっぱり顔立ちは西洋風。
積み重ねて来た年月を感じさせるシワが、微笑みを浮かべれば目元や口元に深く刻まれて穏和な雰囲気をさらに深める。
瞳の色はクリーム色に近い黄色で、ホットの説明が正しければ髪色の白に近いから彼も魔力が強いってことかな。
それにしても、ウアラネージュは服はともかく、全体に白い。
執事といえば某黒い執事だけど、彼なら白執事だよね!
「悪魔だったりして!」
もちろん、冗談だ。
笑い飛ばせる程度の軽さで言ったし、実際に言ったときは笑ってた。
…私だけ。
「さすが、旦那様がお連れになった女性。一目で見抜かれるとは」
「よかったわね!奥様がすでにご存知なら、追い出させたりしないわよ」
「はへっ?」
いや、冗談だったんだけど、二人共ノリがいいのかなぁ?
感心されたり、喜ばれたりしてるけど、どうしてこんなことになったの?
思わず、気の抜けた返事しちゃうし。
困って魔王を見れば、彼は硬直がいつの間にか解けていて説明してくれた。
「悪魔とは、神殿が定めた名称だ。試練を与える者、信仰を阻もうとする者を指す。ウアラはある信者たちにとって、そうだっただけだ」
難しい言い回しでの説明だけど要するに、厳密に言えば悪魔じゃないってことかな。
「種族名は、確かに悪魔ではありません。私は対価と引き換えに、本人の希望する夢を見せていました」
対価を払って何かを渡すのって、フツーの商売と一緒だよね。
ああでも、売ってるものが『夢』だしな。
それって、ホストか何か?
ウアラネージュは今はおじいさんだけど、十分整った顔をしてるし優しげな雰囲気で癒されそうだ。
…ホストだったら、ある意味『悪魔!』と女の人たちに罵られそうだね。
「奥様には、ご不快なことは致しませんので安心なさって下さい」
ホストクラブなんて行ったことはないけど、チヤホヤされてイヤがる女の人っているのかなぁ?
…姉なら、『うっとうしい』とか言いそうだけど、ウアラネージュが相手ならさすがにそんなこと言わないと思う。
二人に自己紹介をしてもらい、あいさつを終えて周りをキョロキョロと見回すけど、探してる人は見当たらない。
玄関口じゃなくて、どっかの部屋にでもいるんかな?
「ところで、奥様はどこにいるんですか?あいさつをしたいのですが」
お世話になるんだから、第一印象は大事だよね。
しっかりあいさつしないと!
それにしても、魔王の奥さんはどんな人だろう?
魔王の隣に立つ人だから、気の強い大輪のバラみたいな美女かな、それとも逆に守ってあげたくなるような可愛い美女かな。
どんな人が現れるのか、ちょっとドキドキする。
野次馬的な意味でワクワクもしてる姿を見たウアラネージュとオムレットは、何故だか困惑していた。
一応、表情は変えてないつもりだったけど、この妙なテンションを見抜かれちゃったとかっ!?
両手で頬を挟んで、むにむに揉んでさっきまでの表情を消してみるけどもう遅いかな…
どーしよう、こんな変なヤツを大事な奥さんに会わせられないとか言われたら。
ぐるぐる悩んでると、魔王がため息を吐いた。
「…だから、勘違いと言っただろう」
いつ言ったんだろうと、疑問に思う。
あっ、もしかしてオムレットに遮られたときのことかな。
正確に言えば、まだ言ってないけどまあ、それは置いといて。
目をまんまるにしてるウアラネージュと、ショックを受けてるオムレット。
魔王やモンブランだったらきっとそんな表情を浮かべててもキレイだろうけど、この二人はなんというか愛嬌がある。
笑ったら悪いのに、ちょっとだけ笑えるなんて思うのってひどいかな?
「…旦那様、キュウコンする前に屋敷にお連れするなど、少々先走り過ぎではございませんか?」
「まさか、誘拐ー!?旦那様、おちっ、落ち着いて下さい!!まずは謝罪して、旦那様の気持ちを伝えれば大丈夫ですよっ!!」
「まず、お前たちが落ち着け」
眉をひそめるウアラネージュと、吃りながら両手の拳を握って力説するオムレットと、冷静に突っ込む魔王。
本人たちは真面目なんだろうけど、見てるこっちはそれが余計にツボになって。
「ふふっ」
三人には悪いけど、噴き出してしまった。
あー、なんか笑いの沸点が低くなってるよ。
なんか、すごく笑ってる気がするんだけど、気のせいかな?
ところで、奥さんには会わせてもらえるの?
ウアラネージュ
①ウー・ア・ラ・ネージュ。冷たいデザートで、淡雪卵。卵白を泡立ててバニラエッセンスと砂糖を加えたものを、カスタードソースに浮かべたもの。
②登場人物。白い髪と白に近い黄褐色の肌と、カスタード色の瞳を持つ老執事。悪魔ではないが、白執事。
オムレット
①オムレツ。卵料理で、今回は菓子を指す。生クリームやバナナ、イチゴなどのフルーツを間に挟んだりする。
②登場人物。鮮やかな黄色の髪と、赤い瞳を持つ侍女長。陽気で明るい、ふくよかな女性。




