中二病じゃないけど、二つ名が付いたよ
そういえば、両腕で距離を取ったとはいえ、まだ魔王の腕の範囲内にいたんだっけ。
すっさり忘れていたから、さっさと離れてイスに座り直した。
魔王はなんか言いたげだったけど、ブラウニーも意味ありげな視線を送ってくる。
なんなんだ、言いたいことがあるならハッキリ言えばいいのに。
「ひとまず、一通りの報告をしてきました」
「あぁ」
「くわしいことは、報告書にて提出とのことです」
「……」
「俺だって提出するんです。イヤですけど」
なんだか黒いオーラが出てたけど、ブラウニーの言葉に少しそれは治まった。
「それで、この魔女っ子はどうす」
「魔女っ子〜!?」
ブラウニーが、驚いてこっちを見る。
「魔女のチビッ子だから、“魔女っ子”だろ?なんか、おかしいか?」
いや、おかしいよ!
しかも、なんかイメージが違う気が。
直の攻撃には不向きそうな可愛いステッキと、フリフリな可愛い衣装と、しゃべる小動物のイメージが脳裏に過った。
あぁだけど、兄が強く『魔法少女だ!』と言い張ってたから、魔女っ子とは別の生き物なのかもしれない。
「そのことだが、ブラウニー」
魔王も魔女っ子の話をするのかっ!?
偏見はダメだと思いながらも、戦々恐々としながら続きを聞く。
「まだ、魔女とは断定出来ない」
「は〜い〜!?」
おいおいブラウニーよ、その態度はないんじゃない?
『はい?どーいうこと?』って意味と、非難する意味が短い言葉で表されててわかりやすいけど、上司(?)に対してはいただけないよ。
「魔女じゃないって、俺に対して使ったのは」
「まだ、断定出来ない」
ブラウニーの言葉を遮る魔王も、どっこいどっこいか。
日本には『親しき仲にも礼儀あり』ってことわざがあるけど、親しいかわからなくても礼儀は必要だよ、二人とも!
魔王の態度か言葉が不満なのか、ブラウニーの眉間にシワが寄って険悪な雰囲気になる。
「道中言った通りだ。すぐに、判断は出来ない。しばらくは、魔術師団預かりとする」
「それは…」
「その間は、私の屋敷で保護する」
「はぁっ!?」
大声にビクッてなったよ。
思わず睨んだら、睨み返された。
何故に?
「ご自分の立場を、わかっているんですか?よりによってこんな、どこの誰だかわからない魔女を手元に置くなんて。女なんて王都ならもっと良いのがいるのに、どこが気に入ったんです?」
おいこら、今まで他人事だと思って聞いてなかったけど人のこと貶してるよね?
苛立って性懲りもなく睨み付ければ、またブラウニーに睨みかえ…されないな。
蒼い顔をしたブラウニーは、魔王を見ている。
「サトを貶めなくとも、自分の立場は理解しているつもりだ」
低い低い、地獄の底から響く声。
冷え冷えした声に一瞬、気圧されたブラウニーだったけど、果敢にもまた魔王に挑むみたいだ。
「師団長、国の上層部に報告されていない新たな魔術師を引き入れるってことは、どういう憶測を呼ぶかわかってますよね?しかも、師団長を越えるかもしれない魔女だ。そんな戦力を保持していたら、反意ありとみなされます。ただでさえ、師団長の血には」
「ブラウニー」
ブラウニーは、言葉を止めて魔王を見る。
魔王は静かに首を振り、ブラウニーはしばらく葛藤するかのように口を開け閉めしていたが、結局は続きを口にすることはなかった。
ただ彼は項垂れて、首を振りながら呟く。
「チビッ子で色気なくて凶暴なのが良いなんて、師団長は変わってるなぁ。こんなことならいっそ、娼館にでもムリヤリ連れていけばよかった」
勘違いされてるのは重々承知したけど、余計なお世話だ!
あと、魔王をどこに連れてく気だ。
魔王も聞こえるなら、突っ込みなよ。
と、言うより娼館って風俗店みたいなものなんだよね?
…そういうとこに行くんだ、二人共。
「えっ、なんでそんな目で見てんの?」
睨むのは大丈夫で、冷たい目で見られるのは気になるってよくわからないや。
自分の胸に手を当てて、よく考えてみて下さい。
「ところで、先程の話は私のことだったんですか?」
それに対して、ブラウニーがタメ息で返事をした。
失礼な。
「やっぱり、完全に他人事だったんだな」
呆れ返った声で、ブラウニーは言う。
その姿は関所近くでわかれるまでと同じ態度に戻ったブラウニーは、さっきまでの態度はみじんも感じさせない。
すごい変わり身だと、感心してしまう。
「はぁ」
気の抜けたような返事をしつつ、何となく聞いていた話を思い出す。
書類や魔女っ子の話はさておき。
魔女の件はもう、口を挟んだところでどうしようもないことはわかってる。
違うって言ってんのに聞いてくれないから、彼らの納得する結果が出るまで保留だ。
ブラウニーの態度は、やたらとキツい気がしたけど、二人がなんの話をしているのかは見えてこなかった。
魔王の立場やら、戦力保持やら、反意ありやらなんか不穏な言葉が混じってたり。
…あれ、これって直接私に関係あるのかなぁ?
じっくり考えてみたけど、特に関係性を感じないんだけど。
ブラウニーの八つ当たりじゃあ…。
「いやいや、関係大ありだからね」
う〜ん、でもどこが?
首を傾げると、ブラウニーは脱力した。
なんか疲れたような顔してるけど、大丈夫?
昨日の野宿がいけなかったんじゃないの?
「まお…じゃなかった、師団長の屋敷で保護されるってどういうことですか?」
「えっ、そっち?」
『そっち』って、どっちのことなのブラウニー。
十分、重要なことじゃんか。
「これだ」
魔王が書類を差し出して、ブラウニーがそれを受け取る。
「ふんふん…宿泊施設のリストですね。ただし、受け入れ拒否の」
ブラウニーが説明してくれたんだけど、王都には地方のお偉いさんたちが会議などで宿泊する施設があるそうだ。
その場所がズラーッて、書類に書かれてたんだけど、その全てが受け入れ拒否との返答らしい。
あっ、もちろんおキレイな言葉を並べ立て、遠回しな言い回しでオブラートに包みながらの拒否らしいんだけど。
身元が不確かな人間だからかと思いきや、魔王が連れて来て、施設利用の申請を出したのがホットだったことからが拒否の原因らしい。
ブラウニーが言ったように、魔王の立場の悪さが原因の一つ。
魔王側に着いてると思われると、とっても困る人たちがいるんだって〜
何をした、魔王。
他の魔術師たちもそうなんだけど、ホットは以前も何度か施設を使ってたんだって。
塔には私が寝かされてた仮眠室があるんだけど、長期に渡ってそこに住むというには向かない。
だから、王都に来たばかりの魔術師たちはその施設を使ってたんだけど、いつまでも新しい家を探さないばかりか借りてる立場で実験を行って、色々やらかしたそうだ。
色々って…何をやらかした、ホットたち。
受け入れ拒否られるって、豚の血を壁にぶちまける以上のことを仕出かしたんだよね、きっと。
理由を聞いたら頭痛くなりそうで、詳しくは知りたくないけど。
「あ〜、なるほど。これはしょうがないか」
納得してるけど、そんな簡単でいいの?
結構、大変な問題だと思うんだけどさ。
今後、こんなことがあれば困ると…いや、それこそ私には関係ないか。
「保護って言うのは、屋敷で生活させるってことと師団長が一時的な保護者になるってことだな」
「へ〜…って、屋敷ですかっ!?」
「えっ、そっち?」
だから、そっちってどっち?
「屋敷って、お金持ちが住む豪邸ですよねっ!?まお…じゃなかった、師団長はお金持ちなんですか?」
「特に資金があるわけでは」
「いや、金持ちッスよ、師団長は。屋敷もデカイですし」
すごいな、いわゆるセレブってヤツ?
しかも、無自覚か。
うらやましい、ウチにお金があれば台所はステキで使いやすいキッチンに改装して、レンジも最新式にして、それからそれから…。
「あー、自分の世界に旅立ってるとこ悪いんだけどさ。困ったことになってなぁ」
ブツブツ言ってると、ブラウニーが頭をぽりぽり掻きながら眉を下げた。
「チビッ子が魔女だと思ったから」
「思ったから?」
「二つ名付けちゃった」
何を困ってるのか気になって聞いたことを、早くも後悔した。
「ふたっ…!?」
「うん、花みたいに可憐にして炎のように苛烈な魔女だから“花炎の魔女”。結構いい名前だろ?」
可憐って誰のこと?
苛烈に至っては、どーいう意味かじっくり語らってみたいとこだ。
『いい仕事をした』って感じでドヤ顔しないでよっ!
二つ名ってアレでしょ、中二病ってヤツでしょ?
や〜め〜て〜
「本当は、サンセキまでが二つ名を名乗れるんだけどな〜」
だったら、サンセキとやらまでにしておいてほしいよ。
二つ名はノーサンキューです!
「今後は大変だな。師団長に匹敵する魔力の持ち主の可能性の他に、希少な魔女ってことと、魔術師団が身柄を預かってるってことと、師団長の屋敷で生活するってことで、否応なしに注目されるんだから。しかも、師団長含めた三人しかいない二つ名持ちだし」
って、最後のはブラウニーのせいでしょー!!




