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『王太子殿下と婚約するのはこの私!』を、ぶち壊すだけの簡単なお仕事です  作者: 工藤 でん


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新連載です。

全十三話となります。

田舎出身の女の子が、「婚約破棄」ならぬ、「婚約阻止」をするお話。


本日二話投稿します!

――王宮にある、きらびやかなサロンにて。


私は優雅さと気品を兼ね備えた、見目麗しい二人のご令嬢と対面していた。王太子妃候補として、国から選ばれた令嬢たちである。身分も人格も申し分ないと、王室に認められた方々だ。持ち前の美貌もさることながら、品のある美しいドレスや、凝ったデザインのアクセサリーは、どれも一級品の物を取り揃えているのだろう。


そんな方々の前で、私は一人だけ浮いていた。大人っぽい紺色のドレスと紺色のアクセサリーはちゃんとした品質のものなのに、田舎者っぽい幼い顔立ちがちぐはぐに見えている。完全にドレスに着られている。思い切り背伸びした、勘違い女子。痛々しいことこの上ない。

分かってるけど、雇い主がこれを着ろって言うからさあ。


――しかもうち、男爵家だしなあ。

二人には、私が男爵令嬢であると知られている。貴族というのも名ばかりな、家名も知られてない弱小貴族である。

身分的に王太子妃になれるはずもないのに、貴女なんでここにいるのよ、という視線をビシバシと感じていた。



王太子妃候補となられた御三方の顔合わせの機会を、と設けられた席である。恐ろしいことにその中に私も混ざっている。無礼講にて交遊を深めて欲しい、とのお達しではあるが。


私はサロンのドアのそばで佇む、私をこの場に連れて来た紺色の髪をした男に目をやった。穏やかながらも絶対に弱みを見せることのしない鉄壁のにこやか仮面を貼り付けた顔のいい私の雇い主が、さっさと始めろと目で私に催促していた。

ツラだけはやたらいい暗黒宰相補佐を眺めながら、私は密かにため息をついた。



◇ ◇ ◇



私が宰相補佐であるセレナイト伯爵家の門をくぐったのは一ケ月前のこと。


我が家は辺境に小さな領地を持つ男爵家だ。国境を守る辺境伯の、そのまた庇護下にくっついている、向かい風が吹けばそのまま吹っ飛んで塵になりそうな弱小貴族である。


ある時、辺境伯経由で通達がやってきた。


『機転が効き人当たりの良い十五歳から二十歳くらいの女子を急募。王都での勤務が可能な者に限る。報酬は弾む』


一見しただけでも怪しさに満ち溢れた人材募集である。何事もなければ普通にスルーする通達だったのだが。我が家はちょっとしたピンチに陥っていた。


先日の長雨で、領地内の主要道路を繋ぐ橋が落ちてしまったのだ。橋を新たに架け直すとなると莫大な費用がかかる。さらに流通も滞るし、長雨のせいで麦の収穫量が減ると予測が立てられていた。

我が領地の財政難の予感が、嵐の前の静けさのように立ち込めていたのだ。


年内だけでも食いつなぐ資金が欲しい。

お父様は私に手を合わせて懇願してきた。


「アイサ、お前は機転は効くが人当たりに難ありなことは分かっている。十五歳だから資格はあるし、ダメ元でこの募集に応じてくれないか。募集に応じたという実績を作っておけば辺境伯には顔向けできるし、援助も多少もらえるかもしれん」

 ついでに王都では美味いもん食べ放題だお小遣いもやる、という魅惑の甘言もついてきた。


被災した領地にいても、私に出来ることなど限られる。滞在費は向こう持ちだっていうし、王都っていう都会に興味もあるし、美味いもん食べ放題だし、お小遣いもらえるし。ワンチャンあったらラッキー、くらいの気持ちで私はのこのこと王都へやってきたのだ。


とりあえず言われた通り、伯爵家のでっけえ門を叩いた。

まずは衛兵の詰所のような場所で何人かのおじさんたちから質疑応答があった。次に応接室に連れられて、態度の悪いおじさんから意地の悪い問答が繰り返された。

ウンザリしながらダラダラと質問に答えているうちに、あれよあれよと邸宅の奥深くに連れ込まれた。


偉そうな執務室で偉そうに私を迎え入れたのは、紺色の髪をしたやたらと顔のいい無表情のお兄さんだった。歳は二十五・六くらいかな。綺麗な無表情の奥に氷のような冷たい気配が漂う。見かけが綺麗なだけで、失態でも犯したら手痛い罰を与えそうな人だ。

物腰と風格で一目で分かった。こいつが、この屋敷のボスだな。


私は黙ってカーテシーを披露した。身分の低い者は、許しがなければ高貴な方に自ら話しかけることはできない。なので教科書に載ってそうな、微動だにしない、体幹を見せつける形式通りの礼をした。これならお偉い貴族だってモンクねえだろうよ。


黙って佇んでいると、屋敷のボスが凍てついた無表情のまま私に声をかけてきた。


「私はラッセル・フォン・セレナイトという。先日、爵位を継いで伯爵位を賜った。

貴女も名乗りなさい」

「アイサ・ドゥ・カロライナと申します。カロライナ男爵家の娘です。十五歳になります」

「……ほう。一端いっぱしの教育は受けているようだな」

「そら、どうも。じゃあもう、帰っていいすか」


セレナイト伯爵様はピクリと形のいい眉を動かした。私の受け答えがお気に召さなかったらしい。細めた濃紺の目が私を射抜いてきた。


「前言撤回だ。目上の者に対してその言葉遣いはなんだ」

「礼儀を尽くす相手は選びます」

「私に礼儀を尽くす必要はないと?」

「左様でございます」

「ほう。理由を聞こうか」


凍てついた宰相補佐の眼差しを真っ向から受けて。私は戦闘態勢を整えた。


おうおう。聞くっつーんなら、しゃべってやるよ。なんせ、屋敷についてからずっとムカついてたんだからね。屋敷内におけるあんたの教育はなってないことを自覚しな。


「それでは申し上げますが。

遠路はるばるやってきた子女に労いの言葉もなく水の一杯もあたえず、立ったまま質問攻めにするとかどうなんですか。

ようやく座れたかと思ったら、明からさまな蔑視に塗れた私への揶揄。根拠の無い偏見による暴言の数々はきちんと記憶しております。先程一方的に私を詰りまくってくださった男性は、どちら様ですか? 伯爵家の威光をかさに着る使用人の狼藉については、後ほど正式に抗議させていただきます。

礼を尽くすとは、相手に敬意や誠意をもって対応するマナーです。相手が敬意を抱かせず誠意を蔑ろにする人でしたら、そんなマナーは不要でしょうが。

私は男爵家の者ですから伯爵様とは身分が違います。ですから、ご挨拶くらいはいたしますが、もうすでに貴方様にお力添えする気はございません。

つーことで、もう帰っていいすか?」


私の長口上をセレナイト伯爵は黙って聞いていた。それからおもむろに立ち上がって私の前まで歩み寄ってきた。スラリとした体格にこんな整った顔が乗っかってれば、女性にモテまくりだろう。そういう自信が身体の内から溢れ出ている。分かりやすく言えば、いけ好かない。つうか、嫌い。


よーし、さっさと帰ろう。

こんな一発目から感じ悪い人の下で働けるか。

何が『機転が効き人当たりがいい子女を求む』だよ。あんたが道に立ってナンパした方が話は早いだろうが。そこら辺立って頭の良さそうな女、引っ掛けてこいよ。


やれやれと踵を返そうとした私の前にセレナイト伯爵様が回り込む。避けようとしても回り込まれる。なんなら、にやーりと微笑み始めた。イケメンの作り笑顔、腹立つな。


「合格だ」

「は?」

「私を相手にそこまで語れるのならば十分だ。見かけは幼いが貴族の所作もできているし、論理に破綻もない。少し言葉に乱れがあるのが難だが」

「はあ?」

「屋敷の者たちの狼藉については謝罪しよう。貴女の反応を見るための手段であった。

今までこの屋敷に来た女性たちは、腹を立てるか泣きじゃくるかして早々に退散して行った。図太さと論理的思考を備えた者でなければ話にならん」

「だから、何? 合格って」

「面接、合格」


いや、意味分からんて。

戸惑う私にセレナイト伯爵はクスリと笑みを浮かべた。作り笑いではなく、可笑しくてこぼれたような笑みだった。凍てついた無表情から、ようやく人間っぽい表情になった。

なんだ、そういう顔もできるんじゃん。


「君に仕事を頼みたい。君にならできる、簡単な仕事だ」




私の出身が北陸最北端の雪国なのですが。方言があまりきれいじゃありません。「~ない」を「ね」と言います。「危ない」→「危ね」、「やらない」→「やらね」などが日常会話で使われます。

おかげで標準語圏内で暮らすと、私の口は悪い。方言の柔らかさのない標準語イントネーションというのも、口の悪さに拍車をかけています。


いっそ口の悪い田舎出身の女の子こしらえて、好き放題喋らせてみるか、がアイサです。おかげで遠慮なく口の汚い子に育ってしまいました。

お母さん(作者)、悲しいよ……

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