やればやるほどあだになる5
目黒さん、私の事、心配してた。
私、目黒さんの前で態度可笑しかった?
気を付けなきゃ。
心配なんかさせたらだめだ。
と、また考え出してしまい、菊子はしまった、と思う。
「あーっ、私って何でこう色々考えちゃうかな。何か頭の中の会議が異様に白熱するのよね。頭の中、二十四時間働けます! って感じで。はぁーっ」
菊子はテーブルに伸びた。
コーヒーを飲み干した菊子は「仕事しよ。体動かしてた方が無心になれて良いわ」と言って、さっと立ち上あがり、取り敢えず、飲んだばかりの、まだ温かいコーヒーカップを洗い始めた。
カップを洗っているうちに何やら廊下が騒がしくなった。
何かしら?
そう菊子が思っていると日向がキッチンに入って来た。
「家政婦。俺達、これから出掛けるから」
そう言った日向に菊子は「日向さんと目黒さん、クロエさんでお出掛け、という事で?」
と訊ねる。
「ああ。車で買い物行って来る。俺の運転。クロエが夕飯作ってくれるんだって。だから、その買い物」と言う。
「えっ、クロエさんが、お夕食を?」
「ああ、あにきからさっき電話が掛かって来てそう言われたから下に下りて来た。だから家政婦、あんた夕飯の準備は良いから」
「はい、分かりました」
廊下から、クロエの声で、「ひーちゃん、早くぅ」と声が聞こえる。
日向は廊下の方を向いて「今行く」とクロエに返事をして菊子の方を向き直り、「あー、あにきが、あんたも一緒に買い物来るかって……」と言いにくそうに口にする。
菊子は首を振って、「皆なさんで楽しんで来て下さい。私は仕事が残ってますから。留守番してます」と日向に告げた。
日向は、「そう言うと思ってたよ」と言う。
「あ、そう言えば、車なんてありましたっけ? ガレージとか無かった様に思いますけど」
菊子の頭の中で目黒邸の全容が広がる。
ガレージどころか車の姿がそう言えば見当たらなかった。
「家の向かいに駐車場あったろ。十台くらい止められそうな」と日向が言う。
確かそんな様な物があった様なと思いながら、「あ、はい」と菊子。
「あの駐車場、うちの持ち物。あそこにうちの車も止めてんの」
「ええっ!」
「この家建てる時、たまたま、向かい側の土地が空いてて、ならそこに駐車場作っちゃおうよっ! てあにきが」
「気軽過ぎる」
唖然とする菊子。
「ひーちゃん!」
クロエの声だ。
「じゃあ、行くから。留守番頼んだわ」
「はい、行ってらっしゃい」
菊子はキッチンで日向を見送る。
キッチンから出て雨とクロエを見送くる事はしなかった。
家の中が静まると菊子は動き出した。
仕事に、また逃げる為に。




