やればやるほどあだになる4
「違います」
「日向?」
「違います」
「俺かな?」
「……違います」
「仕事の事?」
「違う」
「クロエ?」
「違う!」
いつの間にか菊子の呼吸は荒くなっていた。
菊子の眉間には皺が寄っている。
「菊子、手を出してみて」
急にそう言われて、きょとんとする菊子。
「手だよ、早く」
菊子は雨に急かされるままに両手を雨の前に突き出した。
その固く結ばれた菊子のグーの手を見て雨は、ふぅっと息を吐く。
「可哀想に。こんなに緊張して」
雨の両手が菊子の両手をそれぞれ包み込んだ。
雨の手は冷たくてひんやりとしていた。
あ、何だか泣きそう。
菊子は目頭が熱くなるのを我慢できない。
「わ、私……」
菊子が雨に言い掛けた時。
突然からりと雨の部屋の扉が開いた。
「何してるの!」
手を握り合う菊子と雨を見てクロエが叫ぶ。
「えっ、ああっ!」
菊子は素早く雨の手を振り払う。
「クロエ、どうしたの? 俺に用事かな?」
何事も無かったかの様に雨はクロエに話し掛ける。
クロエは「雨兄いとお話しがしたくて。それで来たの。でも、私、邪魔かな……」と、しょんぼりとした目でクロエは菊子見る。
「違うんです、クロエさん。私はただ目黒さんにコーヒーをお持ちしただけで、さっきのあれも違くて、何て言うの? 何て言うんです?」
確かに本当、何だったんだ、あれ。
菊子はもうパニックだ。
「クロエが邪魔だなんてそんな事無いよ。俺もクロエと話がしたいな」
雨がクロエにそう言う。
「嬉しい!」
クロエは雨に抱き付く。
そのままクロエは菊子を横目で睨んだ。
出て行け、の合図だ。
菊子は、うっと呻く。
「私、失礼します」
速攻で雨の部屋から菊子は立ち去る。
去り際に自分の名前を呼ぶ雨の声が菊子の耳に付いて離れなかった。
キッチンに戻り、キッチンテーブルに備え付けてある硬い座り心地の椅子に座り一人コーヒーを味わう菊子。
ここはとても静かだ。
あのタイミングでクロエちゃんが来るとか最悪すぎる。
わざわざ目黒さんの誘いを断ったっていうのに何でこうなるんだろう。
と考えて菊子は頭を振る。
いけない、いけない。
今は休憩中。
リラックスしなきゃ。
菊子はコーヒーを啜り、はぁーっ、と長いため息を吐く。




