三極の乱入2
「改めて聞いてみると、ほんとアンタってろくなもんじゃないな」
「いいイメージもあるだろう。しかしいきなり大声でクラスメイトに質問とは。まあ君の人望があっての事か」
カミ子との出会いはこの教室だった。
一ヶ月前に神子が転校生としてこのクラスの一員として迎えられた時。違う学校の制服だったが、我がクラスは学校の中でも私服や改造制服が多いクラスなので、まあ違う学校の制服と言っても目を引くほど珍しいものじゃなかった。
第一印象は誰とでも仲良くなれそうな雰囲気で、結構美人でかわいい子だなと思う程度。だけどそれだけ。自分の世界に何の変化もないんだろうなーって思っていた。
が、何の因果か! 放課後、校舎裏に呼び出され喧嘩を売られた。私と勝負よなんて素っ頓狂なことを言いだした。後から知ったが原因はある奴の責任転嫁であり、前の学校でもカミ子はとんでもなく好戦的なやつだと知った。
それが上噛神子との出会いだ。ろくでもない出会いだな。
そしてたった一ヶ月でカミ子はみなの人望を勝ち取り……まあ、人望と言うよりカミ子の優秀さが短期間でクラスメイトの憧れの的となったと言った方がいいかもしれないな。
「君も学習したね。僕と会話したところでろくでもない方向に向かうのは明白だ。それなら他人に聞くしかない。君は見事に僕の情報を得ることができた。これはもう、何も教えることはないな。免許皆伝だ。君はもう立派な一人前として前を向いて歩いて行ける」
僕はカミ子の肩を叩いて、まるで次世代を託す歴戦の老兵のような哀愁を漂わせるつもりで扉へ向かう。だけど何でかガシィっと力強く肩を掴まれる。
痛いなぁ。指めり込んでるんじゃないか。
「待てやコラ。何逃げようとしてんだ。アンタが教えることなくても、私はまだ話すことが、ってコラァ!」
立ち止まっていた俺は走り出す。捕まれていた方も振りほどいて。
「断る! ほんとに急ぎの用事なんでな! 相手ならまたあとでじっくりしてやるゴゥヴァア!」
顎に激痛! 扉を潜り抜けた瞬間。待ち構えていたのは肉の仕切棒。先生の二の腕がものの見事にクリーンヒット。不幸すぎる。
「イッタ! 何!? って主人? もうホームルームなのにいきなり飛び出してきたな。ノビしようとしたと同時に突っ込んでくるなんて運悪いなお前。あ、大丈夫か」
先生……僕は先生の影に隠れるように回り込んだ。
「助けて、助けてください先生! ミーちゃんが! ミーちゃんが僕の貞操を狙っているんです! 僕の体が目当てなんです! この麗しいくびれの曲線を汚そうとしてくるんです! 汚い葉っぱ使って!」
「悪いが全く理解できん。まあ、状況はいつもと同じってことだろ。おい上噛。あんまり暴れると、こっちもフォローしづらいからな」
「上官殿の命とあらば、謹んでお受け取りしましょう」
案外あっさり聞き入れてくれた。見かけによらず上下関係は厳しい方なんだこいつ。
そうか、僕がゼクトに何となく苦手意識を持ったのはカミ子と姿が重なるからか。何か自分勝手に納得。
「あと主人公。昼休み『いつもの場所』で。来なかったら、泣くから」
何とも反論のしづらい捨て台詞を吐いて自分の席に戻っていった。
「先生……僕専属のボディーガードになってください。何でも言うこと聞きますから」
「だったら面倒事を起こさないでくれないか」
「僕だってそうしたいところですけど、無理だと思います」
「なら、あんまり上噛の機嫌を損ねないようにしてくれ。あいつは学だけのお前と違って、特別な『三V』だ。学校側からも丁重に扱えと言われている以上、気に入られているお前に頼る形になってるんだ。本当にすまないとは思っている」
そう言って担任も教室に入っていく。
そうだ。そうなんだ。カミ子はとても特別だ。それは学校単位どころか、国すら飛び越えて、言うなら『世界単位』の特別さと言ってもいい。
そんな彼女の御守りを任されるなんて正直、やってられません。
とにかく今からホームルームで授業開始だ。時間も進んで目的のあいつとも接触できずに特にやる気もなく僕は授業を受けていた。四時間目。丁度昼時だ。
僕はそれなりに燃費がいい。朝食べたきゅうり一本食べれば一日活動できるくらいに燃費がいい。そんな僕にとって腹の減りは無縁の長物だ。
その代わりにこの時間帯になると睡眠欲が思考という名の領地を絶賛侵略してきてたまらない。すでに今でもコックリコックリとやじろべえになって意識が混濁しているし、眠たいよぉ。
「主人。寝てるんじゃないだろうな?」
「でぇ………いや寝てません寝てません。起きていますよ。えっと教科書何ページでしたでしょうか?」
急に指摘されてびっくりした。教科書を開けないと……何ページかわかんない。
「ちなみに今日はこっちで配布したプリントで進めているんだがな」
「じゃあそのプリントもらってないのでください。あれ、でも何で僕だけないんでしょうか?」
『一枚足りなかったけど、美少女戦士寝てたし、いいかなって』
「ほう。前の席の君。僕が窓際最後方だからこんな事態になったのか……じゃあ先生。プリントください」
「このプリントは授業の最初に配った。つまりお前は授業の最初からグースカいびきをこいてたってわけか」
「そうみたいですね」
「お前はこの春からギリッギリだ。進級できたのも座学が飛び抜けて優秀だから進級できたんだ。二年生になったら一年生の時とは違い三立も座学だけでなく実習も中心に勉学を進めていく。なのにお前はこの重要な最初の時期、居眠り快眠いびきにグースカ自己腕枕で目を覚ましたらおはようございます。随分と良いご身分なようだ。そんなお前に一つの問題を出そう。三立はその名の通り『三つの立』から成る魔法の偽物だ。その三つの立をそれぞれ答えろ。そしてそれを含めた三つの基盤が存在しそれぞれについて事細かに説明せよ」
止まらない一方的な物言い。簡単に言えば、居眠りして気に入らないから着地狩りの要領で問題を出してきたのだろう。まあ寝ていた僕が悪いのだけど。
しかも事細かに説明と来た。まだ習い始めどころか習っていない部分もあるのに。
どうしたものかと考えるふり。少しは考えていることをアピールしないと。
説明しろ、か。




