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三極の狂走頁3

「待て、待て静吉! 何やろうとしているんだ! やめろ!」



 急いで静吉を止めにかかろうとしたけど、覆いかぶさった備品と失った右足のせいでうまく立ち上がることができない。



「教えてあげるって、どういうことですか?」

「もしかしてアンタ、三立を使うのか? 口鬼静の三立なんて誰も見たことがないって聞いてたけど」

「だからこそ、使うのよ」



 何を考えてるんだあいつは! あれだけ苦労して二人からネクスト・プライマル計画と僕を消したというのに、何でそれをふいにするようなことをするんだ。



「静吉。待て。お前の意図がわからない。何でそんなことをするんだ」

「きーちゃん。人ってのは忘れたらまた同じことを繰り返すのよ。大事なのは、言い聞かせること」



 そう言うと僕の言葉も気にせずに二人の頭を叩いた。

 ゼクト、カミ子は少しだけ固まっていたけど、すぐに我を取り戻したように頭を振って、カミ子は僕の方を見てくる。



「主人……公、だよな? 何で、忘れてたんだろ私」



 ああ。思い出してしまった。

 ああ。にじり寄ってくる。

 ああ。僕の上にのしかかっている荷物を退かして胸ぐらを掴んできた。



「アンタ……どうやって私に勝ったの?」

「……は? どういうこと?」

「わかんない。口鬼静に何されたかわかんないけど、ゼクトとドンパチしてた時にアンタに横槍入れられてそのまま負けたって思い出したけど、アンタが何をどうしたのか全く思い出せない。アンタ、私に何をした……何で肩がないの?」



 ついでに右足もない。

 思い出した以上うだうだしても仕方がない。声を荒げて静吉に罵声を浴びせても何も変わりはしない。


 思い出したにしろ、余計な情報は与えたくない。

 と言うよりこの言いよう。静吉は全ての記憶を再生させたわけじゃないみたいだ。少なくとも僕の素性については一切触れていない様子。


 僕が源次郎と言うことを二人に思い出させると場の混乱が避けられないと踏んだのだろうか。静吉にどういう意図があるかわからないけど、本人に聞いた方がいいだろうか。

 

 記憶を再生した本人が傍のよってきてるし。



「きーちゃん……」

「やぁ静吉ぃ。余計なことをしてくれたな」



 静吉は膝をついて倒れている僕に目線を合わせてくる。

 そして手を伸ばしてきては膝を枕に僕を抱き寄せてくる。


 その眼に涙。今日は本当に泣く日だ。

 分かってる。もうすぐ別れだ。好きなだけ抱きとめられるさ。



「何してんだよ口鬼静。泣いてるの?」

「きーちゃんは……死ぬ」

「は?」



 静吉の口にした言葉にカミ子は理解不能と言わんばかりの反応。

 まあそうだろう。僕が消えてなくなることはカミ子とゼクトは知らない。



「きーちゃんはカミ子君とゼクト君を止めるために闘って、文字通り命を賭して止めた。君だって思い出したでしょ。ゼクト君との闘いで自分がどうなってたか」

「どうなってたって、ゼクトとの闘いは気持ちよかったのは確かだ。本当に、自分と拮抗したやつと戦えるなんて久々だったから手に取るように自分が成長してるのがわかったからよかった」

「でも……代わりにきーちゃんが死ぬ」

「死ぬって、こいつが死ぬなんて信じられないな。どうせいつも通り私を騙すために一芝居打ってるんだろ。主人公。今すぐ私と勝負しなさい。負けたんなら、それ以上に勝つまで。後三回アンタに勝、」



 バクン! と音を立てて僕の左半分の視界が消滅した。

 だんだんと消滅の速さがあがってきてる。今度は顔半分が抉れやがった。


 もう見えるのは右半分だけ。だけど、その右半分で言葉を失ったカミ子の表情がよく見える。



「……本当なの?」

「本当って言うか……無茶し過ぎた代償だよ。まあ確かに死ぬかな。だけど悔いがない……って言えばウソになるうおっ!」



 静吉に抱きかかえられていたところをいきなり胸ぐらを掴まれてカミ子に吊り上げられる。

 見てわかるほどのご立腹だ。



「消えるって何! アンタ、また勝ち逃げするつもりなの? そんなの許さない! 消えるなんて私が許さない!」

「許さないって、そんなに君がかみついてくるなんて思いもしなかったな」

「許さない許さない! 勝ち逃げのまま終わりだなんて! アンタは私に負けた汚点を背負って生きろって言うのか? ふざけるな! 意地でも消えるな! 主人公!」



 掴んでいる手がギュッと強くなる。

 本心で言っているんだろう。僕に消えてほしくないと本気で言っているのだろう。僕と言う目的を失うこと。負けたことへの汚点を背負い続けるのが怖いのだろう。


 僕が何を言ってもきっと納得なんかしない。だけど僕はあえて言おう。



「君は僕よりずっと強い。君の考えている『戦闘力』に関してだけど、カミ子は世界中どんなに探したって君と言う個に勝利できる存在はいない。さっき僕が君に勝ったのもそうだ。僕はある意味禁じ手を使った。今はその禁じ手すら使えない。今度闘ったらきっと君には勝てない。僕が負けを認めているんだ。それでいいじゃないか」

「そんなんで私が納得すると思ってるのか!? そんな戯言を吐くなら消えるなんて言うな!」



 無茶を言うなよ。本当に我がままな人だ。



「僕はどうあがいても消える。僕がいなくなって目標がなくなる、負けっぱなしが嫌だって言うんなら、僕より優秀になってみせろ」

「優秀?」

「そうだ。僕は最強ではなく最優を目指した。最強を目指すだけじゃ僕に勝つことはできない。君に新たな指標をやろう。この世の誰よりも『優秀』になれ。それが僕に勝つ方法だ」



 上から目線は勝者の特権だ。

 今カミ子に必要なのは闘って誰よりも強いことを証明する意識を変えること。つまり闘って優秀ではなく何事にも優秀であることを目指してもらう。

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