三極の機甲少女18
「プログラムの設定を弄った上でパンクしてほしい。本物の魔法である言ノ葉錬金なら世界そのものに干渉できるからそれが可能のはず。僕がしようにも言ノ葉錬金を使える範囲は限られているから、お前に発動してほしい」
「ハッ! わかってんのか? 俺とお前は長い間一心同体だったんだ。例え俺が使ったとしてもWRもあってお前にも何かしらの影響がある。この空間の設定を弄ってパンクさせるのは相当のエネルギーが必要だ。それこそお前。死んじまうかも知んねーぞ」
「構わない。と言ってももう僕が死ぬことは決まっている」
「あ? どういうことだ?」
それは何故かと説明しようと言葉を返そうとした瞬間。バクン! と右肩が抉られる。無色透明の龍の顔。崩街を引き起こした張本人が肩が削がれたくらいで驚くなよ。
そう、突然に僕の肩がアイスクリームを掬ったように肉が削られたんだ。無理もない。ただ、痛みはない。怪我じゃない。存在が消えただけだ。
僕は一度カミ子から死ぬ攻撃を受けた。超弩級の鉄円柱を真上から落とされた時だ。だけど僕は死ななかった。消滅情報で死ぬこと消滅させたからだ。
だけど消滅情報は万能じゃない。記憶の一部を消すくらいなら特に影響はないけど、死まで消滅したら自分自身が消滅する羽目になる。
静吉の再生情報とは違いその身を消滅させる危険性をはらんでいる。正式な始原情報ではないからデメリットもある。
何とも皮肉な狂走頁だ。
「肩肉が抉れた……お前、消滅情報か」
「わかっただろ。僕はどうせ死ぬ。そこで取引だ」
「何が死ぬだタァコ! 達観してんじゃねぇぞ。もっと嫌だ嫌だと泣きさけべよ。そうじゃなきゃつまんねぇだろぉ!」
「……なんだ。怖いなら泣いてもいいって言うのか? いいやつだな。お前」
「あん? 何だとテメ……だぁもう! で、取引の内容は?」
ガシガシと頭を掻き毟ってむちゃくちゃに話を元に戻してきた。と言うより脱線したのもそっちなのに。
「もしお前がプログラムの設定を変えてくれると言うなら、受肉したその肉体をくれてやる。断るって言うんなら僕の脳内に戻って一緒に消滅してもらう」
この取引に無色透明の龍はどう応じてくるか。
それはため息交じりの答えだった。
「舐めんな。俺たちはWRで繋がってるんだ。お前が消えたら肉体があろうとなかろうと俺は消滅する。それを踏まえて取引しようとしてるんなら相当肝っ玉が据わってんなぁ。源次郎ォ」
「さすがに……そこまでバカじゃないか」
「いいぜぇ。やってやるよぉ」
ダメなのかと思った矢先に意外な返答だ。
「どうせ消滅するんだ。ずっと閉じ込められてたんだ。少しでも発散してぇじゃねぇか。それにお前が助けたいとかほざいてたあの三人が不憫だしなぁ」
「お前……やっぱりお人よしなんだな」
「やかましい。で、何をしたらいいんだ?」
「この空間をパンクさせてほしい。ただし、現実世界に影響が及ぶのはプログラムの参加者だけにしてだ。彼女たちの消した記憶を引き継がせる。言ノ葉錬金なら可能だろう」
「あぁ可能だろうなぁ。分かった。すぐに発動する。いいか。これを発動させたらお前をしこたまぶん殴る」
そんな要求なら好きなだけやらせてやる。
無色透明の龍の言葉が羅列され、プログラム設定が変わる。
文字が起こるたびに思う。本当にこれで終わりなのだと。
言葉がすべて出そろうと同時にプログラムに亀裂が入り、プログラムの崩壊が始まった。断崖を思わせるような空間のパンク、内側から割られた卵のようにひび割れていく。
あっけなく事は済んでしまった。
今まで行われていた激しい攻防もこうなってしまっては静寂の中で行われていたかに思える。
崩れていく空間で、これから本当に、最後の仕上げをしよう。
「はーあぁ。生まれてから一回もいいことなかったなぁって、おい源次郎ォ! 今何で触った!」
「手を見てみろ」
「あん? WRが無い」
「消滅情報で僕とお前の繋がりを断ち切った。これでお前は僕の消滅に巻き込まれることはない。お前は自由だ。受肉した肉体も現実世界に引き継がれるだろう」
最初からこうするつもりだった。
こいつも天童源次郎の、崩街の被害者だ。勝手に召喚されて、勝手に暴れまわって、勝手な願いをされる。
こうして会話をして分かった。こいつは決して悪いやつじゃない。
ずっと僕の中に閉じ込められていたんだ。こいつに自由を渡しても、罰は当たらないさ。
「自由? これが自由? 何のつもりだ源次郎」
何のつもりだ、か。もちろん、理由はある。そうでもなければ街一つを消し去る無色透明の龍を事由になんかしない。
「頼みたいことがある。空間から出た後。ゼクトとカミ子を見守ってほしい。あの子たちはきっとこれからも間違った道を歩む時がある。その時に僕の代わりにお前が導いてやってほしい」
さっきまで彼女たちは世界を崩壊に導くかもしれない戦いをしていた。その問題は何とか解決した。だけど解決したと言ってもきっとまた別の問題が出てくるだろう。
僕は無色透明の龍を不思議と信頼していた。
話をしたのはほんの少しだけど、ずっと一緒にいたこいつになんとなく頼ってしまう。
「それを俺が聞き入れると思うのか?」
「聞き入れるさ。だってお前は僕とずっと一緒にいたんだ。僕は人一倍のお人よしだから。お前もきっと、な」
嫌々ながらプログラムの設定も変えてくれた。無色透明の龍がお人よしだ。
心を読むわけでもない。何かを知っているわけでもない。
だけど確信している。ずっと一緒にいたと言う事実が安心感を与えてくれる。
「お前……バカだろ?」
「それはお互いだ」
消滅するプログラムんちょっとした地響きが起こる。
僕はその地響きで体勢を崩して倒れそうになったけど、無色透明の龍が手を差し伸べて、支えてくれた。
「何だ? しこたま殴るんじゃないのか?」
「勘違いするな。最後なんだ。そう思うと感傷的になっただけ。仮にもお前は俺の生みの親なんだからなぁ」
「はは。つまりお父さんみたいなものか。これから頼むぞ。無色透明の龍。二人を……見守ってやってくれ」
プログラムの消滅と一緒で僕ももうすぐ消滅する。だけど恐怖はない。今まで倒れてくる子たちを支えてばかりだったけど今は支えてくれる人がいる。
次第に視界が狭まっていく。もうすぐプログラムは完全に消滅する。
崩れていく景色と共に長かった、本当に世界の存亡をかけ戦いに終止符が訪れる。




