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三極の機甲少女12

「君は強すぎる。でも大丈夫だ。君から僕とネクスト・プライマルを消し去って、呪縛から解放を」

「護るから……!」



 倒れ伏せているゼクトは呟き、ゆっくりと立ち上がった。

 護る、と言うのは僕のことを言っているのか?



「サカナは護る……アナタ達を……この絶望から救う騎士になる……! こんな目に合わせた無色透明の龍を見つけ出して……復讐を果たす……!」



 無色透明の龍。そう言えばゼクトは机上の空論に憎しみともいえる感情を抱いていた。食堂で少なからず憎悪にも似た言葉を吐いていた。

 無色透明の龍を見つけ出し、復讐を果たす。彼女の過去を示す言葉。


 そう言えば僕は静吉やカミ子と違い、彼女の過去を何も知らない。と言ってもついさっきまで彼女たち二人についての過去も何にも知らなかったので、もしかしたら今からゼクトの過去も知ることになるやもしれないが。


 それはとにかく無色透明の龍が、過去の僕がゼクトに行ったかことは……何なのか。憎悪しかはかない口の奥底にある無色透明の龍の真相とは何か。


 関わりのある人物として知るべきなのかもしれない。



「ゴトゥディン……何をした?」



 何をしたって、それは君を助けるため。なんて言葉を言うつもりもなかった、いや、言う暇すら与えてくれなかった。



「サカナ達に……何をしたァ! トランスフォーム-リ・ゲッチャーブレード『スパーク・ノイズミュージック』!」


 

 叫び声と同時に僕を閉じ込めるように左右後ろに壁が建つ。いや、これは壁じゃない。巨大なスピーカーだ。

 なぜ巨大なスピーカーなんだと一瞬思ったけど、スピーカーなら何をするか一目でわかる。

 何よりゼクトの口元に装着されたインカム。そして見るからにわかるほど大きく息を吸い込んでいる。


 マズい! 三秒後の出来事が目に浮かぶ。僕は両耳を急いで塞ぐ。



「ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアオ!」



 インカムを通じてスピーカーから発せられる爆音! 耳を塞いでもうるさい。何とも野性的な叫び声だ!

 両耳を塞いでいてもなお体の芯を揺らしてくる。大気の振動はまるで地震かのように立っていられなかった。



「ぐぉお……クッソ! 爆音がぶほぉ!」



 この身を通る衝撃。

 両耳をふさぐことに精いっぱいだったためゼクトへの注意を怠った。一瞬のうちで間合いを詰められて、どてっぱらに痛烈な跳び蹴りを入れられた。


 僕は地面を転がり、いつの間にか鳴りやんでいた爆音とは正反対に静寂が周りを包んでいる中、遅れてくる蹴りの痛みに思考の拒否が始まってしまった。


 マズい! これは内臓がつぶれている……! 消滅情報で早く治さないと!


 痛みで脳内が支配される前に僕は急いで消滅情報で傷の存在を否定する。すでに思考を汚染していた痛みと言う侵略が一瞬で引いていく。


 助かった、死んでいない。けど、傷が治っただけだ。

 蹴りを入れられたという事実はもみ消せたけど、蹴りを入れられたという認識は残っている。つまり精神的な恐怖が僕の体に残っているということだ。


 あり得ないまでに大きく感じられる、心臓の音と言う恐怖が体を支配した。


 しかしその恐怖に浸っている暇すらない。さらに間合いを詰めてきたゼクトに胸ぐらを掴まれて持ち上げられる。


 もはやその眼に殺意しか浮かんでいないゼクト。主以前の問題だ。この眼、僕を叩きつぶす敵として認知している。何より証拠としてその腕には最初に見た武装錬金カトリーナがはめられている。

 僕を……殴り殺す気か。



「何やってんだ! 君は! 護るべき主を傷つけるのか!」

「護る……護る……護る……! 護る!」



 全く話を聞いてない! と言うより、このままだと硬い手甲で殴り殺されるのが目に見える!


 もう、形振りなんて構っていられない。今の僕にそんな余裕はない。手をこまねいては殺られる。


 僕は持ちあげられながらも空間を叩き、境界陣を作り出す。即席でいい。とにかくとびっきり偶像を召喚するんだ。

 今この状況は打破できる強力無比な絶対的偶像を召喚する。それは僕にとっての強さの象徴だ。


 強さの象徴、強さの象徴……!

 そして僕にとっての強さの象徴が牙となって境界から飛び出す。

 

 それはあまりにも異質で、現実離れしていた。三立の存在する世界では『あり得ない』が普通なのだが、それでもそれはあまりにも異形だった。


 龍鱗を纏った巨大な体躯が小さき境界を削り取りながら出てくるその様。蛇のような長い胴体を撓らせて召喚したのはそのまま龍であり、僕自身の過去の強さの象徴であり、巨大な力の象徴である無色透明の龍をイメージして召喚された即席の偶像。


 嫌が応にも思い知らされる。やはり僕は囚われている。僕の強さの象徴……無色透明の龍に。


 龍は飛び出した勢いのままゼクトに噛みつき、とぐろを巻く。巨大な体躯を幾層にも重ね合わせ、まるで塔のように静かにそびえ立つ。


 やってしまった。即席の偶像だから練度も強度もない偶像だし、無色透明の龍の時よりは遥かに弱いが、それでも僕の強さの象徴を現界化した召喚獣。


 僕はまた、同じ過ちを繰り返してしまった。

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