三極の機甲少女11
「当たんないなぁ」
ユーフォリムスは音もなくスライドするように高速で後ろに下がる。
巨大な力を凝縮させたようなブォンと言う音と共にゼクトの攻撃は空を切った。
言現が聞こえたら何かしらのアクションが起きる。今までの見立てだと今の所ゼクトは即効性の遠距離攻撃はないはず。
それならば空中を自在に高速移動できる機動力を持つユーフォリムスがこちらについている限り、防御に徹するなら軍配はこちらに上がる。
体勢を崩し、地面へと落下していくゼクトがこちらを向いた。なんて反抗的な目なのだろう。少なくとも主に向ける目ではない。
その反抗的な目を黙らせてやる。
今回も彼女の情報を消滅させ、目的の成就しなければならない。
そのためにゼクトをどうやって弱めるべきか。
考える時間ならたっぷりある。空中なら安全だからだ。
そう、安全だと思っていた。その絶対的現実が僕に一つの余裕を持たせていた。ゼクトの声に気を付けて、距離を置けばいい。
そう、音にさえ気を付ければいい。その余裕が命取りになる。
「トランスフォーム-リ・ゲッチャーブレード『フワライドウ』」
聞こえた。ユーフォリムスに距離を置くように指示をして、機体を急上昇させるが、その考えは甘かった。
三立にあり得ないはない。三立の根本は『創造』と『願望』であり、『問答無用』と『無尽蔵』と言うことを忘れてはならなかった。
カミ子が直進による機動力を得たように、ゼクトも高速移動の術を望まないはずがない。
拳を空振る際になる風切り音とは違う、バルバルバルと機械的な風切り音。
目を疑ったよその光景に。なんたって、ゼクトが足にプロペラのような装具をつけて空中を大きく旋回し飛んでいたんだから。
完全に意表を突かれた。
勢いをそのままに近づかれ、抱え込まれて、ゼクトに攫われるように空へと飛びあがっていく。
「うおぁあ!」
「暴れないでください。舌噛みますヨ」
限界一杯まで急上昇。雲すら突き抜ける勢いで上がっていった。
その高さから先ほどのユーフォリムスの急速落下と同じように真っ逆さまに落ち始める。いや、地面に向かって飛んでいるんだ。勢いが落ちているそれではない。
風の抵抗が一点集中して顔面に集まる。きっと変な顔をしているのだろう。感じで分かる。
真っ逆さまに落ちていく今、どうすればいい?
攻撃的な偶像の召喚をするか?
いや、こんな高速移動の中で境界陣なんて敷けない。
第一抵抗して空中に放り出されたらどうなる?
この勢いなら重力に逆らわないまま地面に叩き落とされる。
上昇している時に何かの対応をするべきだった。
落下している今、どう思考しようと現実的に何の手出しもできない。
高速で迫りくる地面。まさかこのまま地面に衝突するつもりなのか。
「う、あああああああああああああああああああああああ!」
ぶつかる! そう思った直後だった。ゼクトは転回してプロペラを地面に向ける。
勢いの乗っていた体に急激なGがかかり、勢いは急速に衰え、僕たちは地面にゆっくりと着陸する形になった。
僕は情けなく息を荒げ、情けなくゼクトに抱きついていた。優しく下ろされた直後に崩れるように腰砕けでヘタレ込む。
「サカナはこれにて失礼します」
悠然と、一声をかけられてゼクトはその場を去ろうとする。
足に力が入らない。がくがくしている。ゼクトが目の前を通っても手を伸ばそうって気も起きない。
完全にやられた。カミ子の時のような余裕は今の僕にはない。
暴力に頼るわけでもない。ねじ伏せられた完全敗北。持てる力の最大限を生かして心を折られてしまった。
このままだとゼクトがカミ子の下に行ってしまう。言葉が喉の奥に引っ込んでしまう。
それでも、言わなければ、言わないと!
「待、て! 待つんだぁ!」
僕の声にゼクトは歩みを止める。
「君が、カミ子の元に行くって言うのなら僕は止める。これは君のためであり僕のためでもある。僕は、君にその手を汚してもらいたくないんだ。だから、止めるんだ」
弱い。まるで生まれたてのように柔らかい弱さを僕自身感じていた。なんて弱いんだろう。僕の吐く言葉に力はない。
彼女を止める力が込められているとは思えなかった。
ゼクトがこちらを振り返り近づいてくる。
「ゴトゥディンは頑張りすぎてます。いいんですヨ。サカナはゴトゥディンの騎士です。だから、休んでください。害為すものを全て排除する。それがサカナの存在意義です」
優しく、あやす様に頬を撫ぜられる。わがままな子供を諭すような、滑らかな撫ぜ方だ。
そうだ。所詮力も何もないのに、僕は負けを認めないで声を張り上げているだけ。
だからこそ、騙すことができる。僕は口角を吊り上げる。
「今だ! ユーフォリムス! カチ上げろぉ!」
ゼクトの足元が盛り上がる。地面から現れたユーフォリムスがゼクトを一気に空絵と舞い上がらせる。
ずっと忍ばせておいたんだ。空中では召喚できない状況だった。召喚出来ない状況だったからこそ、召喚していたものを頼った。
ユーフォリムスを地面に潜らせ、勢いよく空中に放り出す。ゼクトとの距離を置くためにだ。
また使わせてもらうぞ無色透明の龍。僕は言葉を紡ぐ。
「『ゼクトは最も絶望的な幻想を目の当たりにする』!」
言現し、設定した言葉を吐いた直後、空に放り出されたゼクトは劈くような叫び声をあげる。
「グガおああああああああああああああああああああああ!」
叫び声が耳を貫く。ゼクトは頭を抱え、体勢を崩しユーフォリムスから転げ落ち、鈍重な音を立てて地面に落ちた。
くそぉ……体中が痛い。
僕は痛む身体を奥歯で噛みしめながらおぼつかない足取りで立ち上がる。




