三極の選定天子15
「僕の中には三人いるんだ。可能性持ち、偶像召喚の天童源次郎。机上の空論、言ノ葉錬金の無色透明の龍。そして長年ハートアスがいたせいで身についた主人公の消滅情報」
ああ、何と言う偶然だろう。静吉によってこの事態を治めるためにかつての僕を再生しようというのが事の発端だったのに、気付けばかつての自分すらはるかに凌駕してこの世界に顕現して……しまったわけでもないな。昔ほど使い勝手のいいものじゃなくなっているとわかる。
強力になった分。面倒なことが増えるのは仕方ないか。
「さぁて静吉。お前も十分罪深い。なんたって計画に乗っ取ってあの二人を廃人にしようとしたんだからな。だから、忘れてもらうぞ。ネクスト・プライマル計画の全てを」
「忘れるって、何……」
僕は抵抗もできないほど衰弱した静吉の頭を優しく撫ぜ、空中に大きなディスプレイを展開させる。
「始原情報は共通の力として他人の情報を見ることができる。もっとも僕は純粋なものじゃないから今のお前みたいに弱った人のしか見られないけど」
「どうする、つもり?」
その問いかけに応じずに展開していく。展開されたディスプレイを流し読みし、その中のいくつかの項目をフリックし、別のディスプレイへと分けていく。
「お前からネクスト・プライマル計画を消し去る。そして僕のことも忘れてもらう。その方が幸せだ」
消し去る。それが僕の始原情報『消滅情報』。静吉の再生情報とは真逆の、対象の情報を消滅させそれと連鎖して消滅した情報ごと世界から消し去る始原情報。初めて手にした、主人公としての三立だ。
単純作業のように手を動かしていくが、静吉にその手を止められる。
静吉の眼には大粒の涙があふれ出ていた。さっきも見た二回目の静吉の涙。でも今回の涙はさっき流したものとは違う。じゃあ何で涙を流すのか。僕はその理由を知っていた。
「嫌だ。忘れたくない。嫌だよきーちゃん。君を、君を忘れたくない!」
「……静吉」
僕は静吉の手を優しく握った。分かってる。お前が僕を忘れたくないって言う気持ちは心の底からの願いだってことも。何で、そこまでして忘れたくないかも、僕はもうわかっている。
「お前は何も悪くない。ただ、自分の立場から逃げずに、僕のために動いていただけだ。だけど僕は罰を受けなければならない。静吉はそれを知らなくていい。『消えてしまう人間』なんて忘れてしまった方が幸せだ」
「やだ。やだ。やだ……! 忘れるなんてやだよきーちゃん!」
とめどなく溢れる涙。わかっている。静吉の気持ちは全部分かっている。だからこそ忘れてしまった方がいいんだ。
崩街を起こして、人に見つからない逃亡生活を続けていた僕に一筋の光明ともいえる手を差し伸べてくれたのは静吉だ。
なぜ会ったこともないのにそんなに優しくしてくれるのか。監視するためだったのか。最初はそう思っていた。
だけど違った。彼女の情報を見ていくうちにわかってしまった。
顔を合わせもないのに、ハータスに教えられて、遠くから見ていただけで、情報だけで彼女はその感情を抱いてしまったんだ。
僕はずっと静吉と居たのにそのことに気付いてあげれなかった。
そんな感情が静吉にあるなんて一粒の涙ほどもなかった。
だけど今思うと、姉だから僕を助けるというのもただの口実だった。ただその感情だけで僕を助けてくれた。
ずっと一緒にいて、何で僕は気付かなかったんだろう。
だからこれは、最大限の感謝と最大限の別れを込める。そして贈ろう。
「静吉」
「やだよきーちゃん。忘れたくない。ウチは……好きだから、君のことが大好きだから……!」
「僕もだよ静吉。こんな僕を見つけてくれて、愛してくれてありがとう」
取り出された項目に手を伸ばし、その手でディスプレイごと取り握りつぶす。集めた内容はネクスト・プライマル計画の全てと、僕に関する今までの記憶。
静吉は今、三本柱と天童源次郎の二つの呪縛から解放される。
静かに、静吉は前のめりになり、僕にもたれかかる。消滅情報の副作用で眠りについたんだ。
その眠りから覚めると同時に長い夢から醒めるだろう。
何もかもを忘れて。




