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三極の選定天子11

 何かできる時代があった? そう言われたら、そりゃあ昔は自分の力を過信してブイブイ言わせていた時代もあったけど。


 うーんと考える。どういうことだろうか。考えている中、僕はちらりと静吉の腹に貼られたインスタントシールを見る。何かできる時代……そういうことか。


 でもそれは……悪魔的すぎる。



「まさか静吉……僕の過去を再生するのか?」

「そう。偶像召喚が使え時代を再生させる。きーちゃんの最盛期を呼び起こすのよ。ウチたちにはもうそれしかない」



 そんなことができるのか?


 確かに、過去の世界最高の魔法(三立)使いと言われた時代の僕ならあの二人に対抗できる偶像を呼び出せるかもしれない。しれないけど、あまりにも諸刃の剣過ぎる。

 偶像召喚は崩街を引き起こした元凶だ。僕の意志に関係なくまた多大な被害が出てしまう可能性を否定できない自分がいる。


 でも、それでも一つの期待感が胸からあふれ出ているのも事実だ。あの頃に戻れる。力があって、誰からも尊敬されていた天上人のような時代に戻れると。


 だけど今となってはそれも過去の歴史。誰よりも力がないただの一小市民として僕は人生の半分以上を過ごしてきた。

 今更戻っていいのだろうか。弱者を覚えた強者が今一度強者に戻ってしまえば人格が変わってしまうなんて不安もある。



「ダメだ。どう考えても駄目だ。偶像召喚は危険すぎる。やっぱり再生情報で何とかするべきだ。ほら、適当に壁の破片を集めてあいつらに投げつける。その時に再生したら破片ごとに元に戻った柱になってあいつらを行動不能にする。不意打ち性能もバッチリだ」

「さすがに一度に再生できる数が限られているからあの二人を止めるにはいささか手数も質量も足りないと思うわよ」

「えっと、ならこの空間ごと再生するんだ。プログラムが起きた直後まで再生してあの二人の闘いを事前に止めるのは」

「空間そのものに干渉するのはもはや机上の空論よ」



 ことごとく案が却下される。こいつ、本気であの二人を止める気があるのか。



「だったらお前も案を出せ! 僕の案を全部却下するならそれなりの代替案があるんだろうな」

「君の過去を再生させる」

「だから、それはだな」

「きーちゃんは怖いの? 昔の力が戻るのが」

「怖いって。怖いわけじゃない」



 ただ不安何だけだ。

 結局僕は自分の力を過信して無色透明の龍を呼び起こしたんだ。今更偶像召喚を取り戻してもロクな結果にならない気がしてならない。


 そんな僕の不安を読み取ってくれたのか、静吉はまた手を取ってくれた。



「大丈夫。きーちゃんは天童源次郎を思い出してもきっときーちゃんのままだよ。弱さを知った上で強さを取り戻す。ただそれだけ」



 弱さを知った上で強さを取り戻す、か。さっきまで強さしか知らなかった泣きべそをかいていたやつがそれを言うか。


 でも、最初から答えは決まっていたのかもしれない。あの二人に対抗するには同じ3Vの領域に達しないといけない。



「頼む。やってくれ静吉」

「うん、じゃあ行くよ」



 張り付けられたインスタントシールが展開され、僕の体を通る。

 これで過去の、かつて偶像召喚が使えた僕に戻るのか。正直半信半疑と言うか実感がわかない。



「……痛い」



 何だ? 手が痛い。腕が痛い。腹が痛い。首が痛い。顔が痛い。頭が痛い。脳に、異常がきたした。



「でゅる……ぐがあああああああああああああああああああ!」



 痛い痛い痛い! 何だこれは! 体が! 劈くような痛みが体中に走ってる! 僕はガラスを掻き毟るような叫び声と共に体を蝕む痛みに身体を床に打ち付ける。

 脳内がグッシャグシャにシャッフルされている。静吉の再生情報を脳が拒否している。ウィルスを殺すために熱を出しているような感覚だ。



「ど、どうなってんだよ静吉ぃいいい!?」

「これ、どういうこと? 最盛期は八年前のはずなのに……情報が今になってる?」

「はっ! あぁ! ああああああああああああああああああああ!」



 僕は痛みに耐えられず立ち上がって走り出し、壁にぶちあったっては倒れ、立ち上がってはまた走るを繰り返した。


 脳が掘り返される。その痛みを叫びに変えている最中。僕は一つの過去を思い出していた。


 それは、ハータスとの会話だった。



―――――――――――――――――――――――――――――



 机上の空論の更にその上の存在? どういうことさハータス。


 机上の空論には色々ある。魔術、錬金術、召喚術のそれぞれにいくつか種類が存在するが、もし1人の人間が三部門それぞれの机上の空論を会得したらどうだろうか。


 無理じゃないの? 机上の空論って右手で右手を掴むようなものなんだろ。それだけでも無理だって言うのに三つもそろえるとなると右手が六つ必要になるじゃないか。


 その通りだ。魔法(三立)使いとは一つの書物だ。内容が魔一つだけか、それとも魔、錬金、召喚全てが書き記されているか。その内容はより高度な内容程書物として、魔法(三立)使いとして優秀と言うことだ。


 そうだよね。机上の空論はどんな内容になるか、もし書けても理解できる人はいないだろうね。


 だからこそ、人は三部門の机上の空論を会得した無人の領域を妄想するんじゃないか。


 妄想。俺の見立てじゃ机上の空論を会得するには何よりも妄想が大事だって思うんだ。


 その着眼点はいいことだ。そう、誰も到達しえない三つの領域を極めし者。名づけるとしたら……『狂走頁(ランページ)』とでも名付けようか。



―――――――――――――――――――――――――――――



「狂ったように無人の領域まで走り書かれた、一つの書物」



 痛みはいつの間にか消えていた。叫びは治まり、脆弱な吐息を漏らしながら僕は立ち上がる。

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