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三極の選定天子3

「俺は……僕は待っていてと言われて静かにしている男ではない。こんなところで指を咥えて待ってなんかいられるか。待っていろゼクト! まずは君の所に馳せよう! いざ! ぐあっ!」



 邪魔になるなら邪魔にならない道を模索するのみと部屋から出た瞬間に廊下の奥から白い物体が飛んできた。

 巻き込まれてのヒドイもらい事故だ。



「いってぇ……重い! ってゼクト! どうしたんだ! 大丈夫か? この傷……」



 僕の体に覆いかぶさっているのはゼクトだった。怪我が発生するのが本格的になっているの体中に痣を作っている。 



「ゴトゥ……ディン。ここに、いたんですカ。離れていてください……すぐにカミ子が来ます。安全な場所へ」

「離れろって、そんな状態で置き去りにできるか! おぶってやるから乗れ……って言われて乗るやつじゃないか。なら引っ張ってでも……重い! でら重い!」



 流石、静吉曰く筋肉ダルマ。ここまで重いとは。僕はゼクトの脇を持ち引っ張って歩き出す。けどゼクトのやつ、這ってでも飛んできた方向に戻ろうとしてやがる! とんだ聞かん坊だ。



「ゼクト君! きーちゃん! ジッとしといてって言ったのに!」

「静吉?」



 音を聞いて戻ってきたのか? でもナイスタイミングだ。



「ちょうどよかった。この子を連れて遠くに行ってくれ。僕はカミ子の元に行く」

「行く……ですと? それだけは、許しません」

「許しませんもクソもあるか。ここは僕が行くのが一番だ」



 我が身を犠牲にとは言わない。


 もう完全に怪我をしないなんて設定は体を為していない。自分勝手にだけど僕を護るためとこんなにも体に青あざを作っているゼクトを見るのはいたたまれない。

 良心の呵責が鳴りやまない。


 ゼクト。君は騎士だ。口にすると調子に乗りそうだからしないけど、誰が何と言おうとだ。その傷が証明だ。


 だから今度は僕が体を張る番。カミ子の目的はゼクトではなくその先にある僕だ。

 たった一言。その一言を伝えることができればこの騒動は収束に向かうはず。


 そう、これは自己犠牲じゃない。あくまで最善手を打つだけだ。



「主人公。そこにいたんだ」



 廊下の奥から神子が歩いてくる。動けないゼクトに戦闘意欲満々のカミ子。これ以上に無いタイミングだ。僕は万が一にも飛び出さないようにゼクトの前に立つ。



「カミ子。決着を付けよう。僕はもう君から逃げない」



 この言葉が、今の全てを無理やり折りたたむ、閉じきれない風呂敷を収めることのできる言葉だ。

 先ほど豪語していたゼクトは満身創痍で静吉に抱かれている。この場において……いや、世界全土と言えど単体でカミ子を止められる存在はいないだろう。

 その神子を止められるのはこの言葉だけだ。


 百パーセント負ける。存在の三本柱に引き渡されてしまうだろう。だけどそれでいい。これ以上被害を広げるわけにはいかない。

 

 僕はゆっくりと歩みを進める。



「ゴトゥディン! カミ子は……もう!」

「君は僕を倒したいんだろう。正直言って今の君に勝つことは不可能だ。それでも僕は君に立ち向かおう。無限柱弾で僕を撃ち抜けばすべてが、」



 どてっぱらに鈍重な衝撃が広がる。何が……起こったんだ?

 腹への衝撃は一点に脳へと到達する。ボディはこれだから嫌だ。脳にダメージが無いから痛みの全てがリアルに感じられるからだ。


 倒れ伏せる際に見えた。カミ子の手から生えた鉄円柱。またしても、パイルバンカーか。



「オゲェ……べェエエ」

「アンタは後回しよ。ゼクトに勝つまで待ってなさい」



 横たわる体にもう一度鉄円柱をぶち込まれて体が床を転がり、静吉のすぐ傍で止まる。

 痛みが脳の中枢まで侵攻してくる。何で、何でだよ。君は……僕と決着をつけるのが目的じゃないのか? 何で……ゼクトを倒すって過程に傾倒しているんだ。


 マズい。身体が動かない。ゼクトが黙っているはずがない! 止めないと……! 

 

 だけどもうおそかった。すぐそばにいるはずのゼクトがいない。入れ替わる形でゼクトがカミ子に飛びかかっていた。



「ダメだ……止まるんだ!」



 必死の呼びかけも一蹴される。

 振った手を合図に横から鉄円柱が飛び出し、壁と窓を突き破り、ゼクトは外へと放出された。


 一瞬の一蹴。人がああも簡単に、まるで屑籠に放り投げられた紙のように簡単に壁から外に叩きだされるなんて、いままでも、そしてこれからも見ることはないだろう。


 そして何より、それをけだるそうな様相で電球のスイッチを切るかのような淡々とした面持ちで行ったカミ子に恐怖すら感じられた。



「カミ子……なんてことをするんだ! 死んだかも……しれないんだぞ!」

「ここはプログラムだ。死ぬなんてことはないし、仮に死んでも意識だけなんだから抜ければ元通りなんだし」

「違う! 今は違うんだ! 本当に、死んでしまうかもしれない、」



 言葉の応酬を妨げたのは更なる爆音だった。


 場所はカミ子を挟んだ向こう側の中庭側の壁。派手に剛破された壁からゼクトが顔出す。壁を登ってきたのか? それに手にフックみたいなのが付いたガントレットを付けている。

 さっきの……錬金術を発動させたのか?


 大丈夫なのか? いや、大丈夫なわけがない。白かった肌は殴打により浅黒く、まるで斑点のように塗りたくられた青あざ。まるで初めて見るパンダを思わせくれる。


 しかしその眼。碧い眼は決して死んでいない。

 あれはまるで、自身の身すら削る覚悟を宿した眼。彼女の中の騎士の意思なのだろうか。

 もうやめろと言うべきなのだけど、カミ子と一緒で決して聞き入れてくれないだろう。


 あれは……そういう眼だ。

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