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三極の選定天子2

「V持ちは満点者って言われてるけど、一般的に百点満点としているだけで上限はないのよ。つまりカミ子君も三百点満点じゃない。上限を突破して、合計点数は六五八。対するゼクト君は六四六」



 六百点オーバー? 既知されている三百の倍以上じゃないか。

 

 と言ってもかつての僕もそんなものだった。

 そう、まだ天童源次郎として活動していた時は。



「拮抗した数値は相手より優秀であろうとぶつかり、引き上げ合いを繰り返す。途中でどちらかが倒れたら終わるけど、ウチの見立てでは競争を勝ち残ったカミ子君が倒れるとは思えないし、ゼクト君の肉体も常識のそれを超えてるのも含めて、とんでもない負けず嫌い臭い。もし、お互いがお互いを潰そうと戦い続けると」



 戦い続けるとどうなるか……考えれば簡単だ。決して倒れない成長が続いたのなら。



「無限に点数が引き上げられていく」

「問題はまさにそこ。そしてプログラムにはキャパシティがある。合計一万点以下。点数が引き上げられ続けるとどうなるか。プログラムの規定の数値を超えるとパンクを起こして中で起きた出来事が現実世界に引き継がれ、この状況が再現される」



 この状況が再現される? もしかして……このプログラムは学校を基に構築された異空間だ。起きた出来事が再現さるということは。



「嘘だろ? まさかこの校舎がぶっ壊れた状況も、あの二人の状況も、現実に引き継がれるってことか? 今は怪我を負うようになっている。折ったケガも全部、全部が全部現実世界に反映されるのか!?」



  ありえない。ここは仮想空間だ。現実世界に影響を及ぼすなんてことはありないはずだ。



「ありえないはず。今君はそう思ってるけど、三立を甘くみちゃダメ。三立は現実を冒涜した超能力なんだから起こるはずがないと思わないことね」

「……そうだな」



 そうだよな。起こるはずがないなんて思わない方がいいよな。思っていたなら、崩街なんて起きなかっただろう。


 否定だけは三立の世界においてしてはいけない。大事なのは創造と願望だ。自分の為すべきことの確立させ成立し、独立すること。


 今何を為すべきかだ。



「何か解決する算段があるんだろう? 僕にできることがあれば何でもする」

「算段はある。だけど君が出張ることはない。むしろ邪魔」



 辛辣に、現実を突き付けられるその言葉は冷たく突き刺さるつららのようだ。


 確かに無力だ。けど崩街を起こしてなお、三立の世界に身を置いているのはこういった事態を治めるためでもある。

 手をこまねいてお留守番なんて、それこそ御免だ。


 それにゼクトはもとよりネクスト・プライマル計画と聞けばカミ子のことも放っておけない。間接的な原因とは言え、彼女が3Vになりこの状況を引き起こしたのは崩街を起こした僕にある。



「邪魔なら結構。僕ができることを探すだけ、」



 多目的室から出ようとしたら静吉に手首を掴まれて引っ張られた。



「何だ。僕の邪魔をするのか?」

「いい、きーちゃん。邪魔なの。何をしたらいいかわからなくてウチに意見を求めてくるだけの木偶の坊に何ができるの? 君は三立の素養だけでなく場を勝手に荒らす無能に成り下がってるの? 痛みだけじゃない。あの二人に巻き込まれて大けがを負う危険もある。ウチ一人ではあの二人から君を守りきれない」



 守りきれない。本当に、非情な現実を突き付けてくる。そんなにも僕は弱い存在か。



「僕は……守られてばかりなのか。ゼクトにも、お前にも! 僕は……俺は天童源次郎だ! 決して足手まといじゃない! こうなったのは俺の責任だ! ゼクトも、カミ子も! 俺のせいでこんな状況になったんだ! あいつらを助けてやらなくちゃいけない、」



 ぬくもりが体を包んだ。柔らかい優しさ持った熱が体を包む。吐き出していた言葉に栓をされたような感覚だ。

 静吉に抱き締められる。僕より身長も高いせいか本当に体全部が包み込まれているみたいだ。落ち着く……こいつと出会った頃はよく抱き締めてもら……じゃない!

  一瞬トリップ仕掛けた! 何をやっているんだ僕は!



「離せ静吉! お前、抱き締めたら俺が落ち着くなんて甘い考えをいつまでも持ってんじゃねぇ! 俺はもう昔みたいなガキじゃないんだ! いいか。俺はお前が嫌いだ! 昔っからな!」

「うん。わかってる。危ないからきーちゃんはここにいて。大丈夫。何とかしてみせる。あと、カミ子君のことは君だけじゃない。ウチ達にも原因がある」

「原因がある? どういうことだよ? 何か関係があるのか?」

「……」

「答えろよ!」



 さっきまで強気な言葉を吐いていた静吉が急にしおらしくなったせいで僕はつい強い言葉を吐き出してしまった。



「……ネクスト・プライマル計画の立ち上げに……ウチの父親が関わっているのよ」



 一瞬、思考が宙を舞った気がした。


 ネクスト・プライマルに静吉の父親が関わっていた? ネクスト・プライマルは三本柱が立ち上げた育成計画だ。つまり、関わっていると言うことは静吉の父親は存在の三本柱に所属しているのか?

 それも、可能性持ちの育成のための計画に関わっているとなるとそれ相応の立場のはず。


 じゃあ、静吉も三本柱に関わっているということか? 



「何で、何で今まで黙ってたんだ! 僕たちの間では隠し事は無しなんだろ! そんな大事なこと何で黙ってたんだ!」

「……ごめん。二人を止めに行かないと。心配しないで待ってて」

「待て! 話は終わっていない! 静吉……静!」



 手を伸ばし、静吉を制止しようとした手が空を切る。懺悔にも似た告白に一瞬思考が追いつかなかったのか、静吉が出ていくのを見送って、かつ体が動かなかった。



「クッソ……何なんだよ!」



 なりふり構わず机を蹴る。ふざけるな。短時間で入ってきた情報があまりにも多すぎる。プログラムの異常事態。ゼクトが3V。パンクによる現実世界への影響。そして静吉が三本柱との関わりがあること。


今思えば、静吉の家族について全く知らなかった。出会ったときから特殊な存在とは思っていたし、聞いてもはぐらかすばかりだからずっとそのことに触れていなかった。


 今思えば異常なことだ。何で僕は素性も何も知らない女に着いて行って一緒に暮らしていたんだ。

 いや、そんなのは僕自身分かり切っていることだ。


 彼女は僕を受け入れてくれたからだ。無色透明の龍と知っていてなお、怖がらず、抱き締めて、そして主人公と言う新しい自分を与えてくれたから。

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