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三極の選定天子1

「静吉!」



 走り続けて多目的室にたどり着いた。僕は乱暴に扉を殴り開ける。

 中にはすでに待ってましたと言わんばかりに静吉がいた。



「きーちゃん。来てくれたんだね」

「どうやってやったかは知らないが、あんなメッセージを読まされて来ないわけないだろう……オイ。なんだそれ」



 多目的室に置かれた複数のパソコン。プログラムに入る前に静吉が操作していたパソコン。それが見るも無残に壊されて……いや、分解かこれは?

 とにかく見る影もない形になっている。



「プログラムに異常が起きてるし、何が何だかウチにもわからない」

「そんなことは分かってる。まずはこれ、おかしいだろ? これは壊れているんじゃない。分解されているんだ。僕たちがプログラムに入って三十分しか経ってないんだぞ! 分解されているってことは錬金術の領域か?」



 少なくとも僕とカミ子の鬼ごっこの際に誤って壊したでもゼクトとカミ子の喧嘩の最中に壊れたものでもないはずだ。 



「ウチは錬金術師じゃなくて名目上は魔術師だし、カミ子君は完全なる召喚術士。いったい誰がこんなことをしたのか」

「誰って……お前ならわかる……」



 一人、思い当たる人物がいる。ゼクトだ。

 ゼクトがさっき使った三立。あいつが魔法(三立)使いだったことにも驚いたけど、あれは確かに錬金術の類だった。


 だけど錬金術と言うにはあまりにも不可解だ。と言うよりあり得ないんだ。自身の体の一部を全く別の物質に変化させることなんて。

 そう、全く違うものに変化させるなんて。



「静吉。お前。僕に隠し事していないか?」

「なんでそう思うの?」



 何でそう思うのだって、白々しいにもほどがある。



「髪の毛を鋼のガントレットに変えたんだぞ。構築物質があまりにも違い過ぎる。以前、お前から聞いたことがある。ありとあらゆる有機物を生物に変化させる可能性持ちがいるって。名前は確か……犬吠逆名(いぬぼうさかな)。あの子は自分のことをサカナと呼ぶ。あの子は犬吠逆名なんだろ? お前は知っていたんだろ! あの子が何者かって!」

「ゼクト君は無機物に変化したんでしょ? 逆名君は確かに可能性持ちだけど、無機物じゃなくてあらゆる有機物を生物に錬金させる転生錬金。机上の空論『願望錬金』の枝分かれの一つだけど、ゼクト君のそれとは違う。それにウチらの間で隠し事は無しって六年前からの取り決めだよ」



 自分の三立を隠しているくせによく言う。


 って言いたかったけど、かと言って、言ったところで僕の気が晴れるわけでもないし、口にしなくてもきっと静吉は僕の意図を読み取っている。


 現に情けないものを見る目をしながらため息をついてるし。



「普段傲慢不遜なくせにカミ子君にやられそうになって情けなくゼクト君の名前を叫んでいた癖に文句だけは一人前ね。ならこれだけははっきり言うわよ。あの子は犬吠逆名じゃない。それだけは絶対に言える。例え願望錬金の枝分かれを使っていようとね」



 据わった目で告げられる。嘘は言っていないと力強く睨み付けられる。


 そう、こいつとは六年前からの付き合いだ。その中に信頼関係の形成もあったし、ある程度の信用もある。

 だけど僕にとって静吉はどこまで行っても『人間的には信用できないけど言葉は絶対に信用できる』奴だった。


 少なくとも、今ここでこいつを追及したところで僕の望む答えなんて返ってこないだろう。なら違う問題を聞くだけだ。



「それで、異常事態だと言って、どこがどう異常事態なんだ」

「言えるのはプログラムの設定が変えられている。設定をプログラム内で変えるにはこの多目的室しかないんだけど、ここに来た時にはもうパソコンは分解されていた」

「……お前がやったとかじゃないのか? 少なくとも、お前は今までどこにいたんだ?」

「信用できないって言うなら、それでもいいわよ。どうせ私がしたしないって言ってもキミは信用してくれないんでしょ」



 僕は何も言い返せなかった。さっき自分で思ったじゃないか。こいつにそういったことを聞いたところで臨む答えが返ってくるわけでもなく何が本当かも判断できないって。


 とんだ愚問。失言だった。

 


「どうにかする算段でもあるのか?」

「唯一、プログラムの設定を変えられたパソコンたちがこんな状態じゃウチじゃどうしようもできない。鍵を握るのはゼクト君よ。きーちゃんはあの子とずっといたんじゃないの?」



 そんなこと聞かなくたってどうせわかっているんだろに、いちいち何で聞いてくるのか。



「いや、合流したのは十分前くらいだ。それまでのことは知らない」

「ならその前の二十分の間に何かあったってわけね。まさか迷子ってわけでもないでしょ。鼻も利くみたいだし。今はどうしてるの?」

「それだ! 今はゼクトとカミ子が全面戦争状態だ! プログラムに異常が出た以上今すぐ中止にするべきだと思ったんだけど、二人は聞かなかったんだ」

「全面戦争? ちょっと待って」



 唖然とした態度を取ったかと思えばいきなり両手で顔を挟み込んできた。もちろんすぐに引き剥がす。何しやがる。



「面倒なことになってるみたいね」

「ああ、すごい面倒だ。あの二人をどうにかして止めないといけない。だけど俺一人じゃきっと無理だ。静吉も協力して、」

「違う。コトはあの二人を止めるだけなんて簡単なものじゃなくなってきてるの」


 

 簡単なものじゃない? あの二人を止める以外に何か問題があるのか。少なくとも僕は今すぐ止めた方がいいと思うけど。



「どうやらきーちゃんもカミ子君がネクスト・プライマルの参加者だってことを知ったみたいね。なら、彼女がどうやってその頂点にのし上がったかわかってるわよね?」

「あ、ああ。競い合い、勝負事をして勝って来たって言ってたな」



「その中で一番数値をVにするのに効果的だったのが拮抗した相手に肉体的な闘争をして勝つこと。ギリギリまで粘って、お互いがぶっ倒れるまで戦って。勝ち残った方は莫大な経験値を得る代わりに、負けた方は再起不能。カミ子君はその戦いを制して頂点に立った」



 鬼気迫る説明に自然と生唾が喉を通る。何で静吉がカミ子の過去を知っているかなんて聞かない。こいつはとにかく何でも知っているから。たとえそれが人の明かしたくない過去だろうと。



「これは聞かれなかったから言わなかっただけ。ゼクト君も3Vよ。3V同士がぶつかったらどうなると思う?」



 わからないと僕は返事をした。こいつの言い分だとただ単に得られる経験値が多いってだけじゃなさそうだ。

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