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三極の戦乙女1

「はぁ、はぁ、はぁ! クソ! 逃げ切ったか!?」



 教室。そう、教室だ。

 先ほどカミ子と一緒にいた教室とは随分と離れた教室の壁際で尻餅をつき、僕は額を抑えて肩で息をしながら消沈していた。


 正直、アホなことしたと思っている。

 

 いつもは逃げて逃げて逃げて。ついでに楽しんでいた。

 黒板消し爆弾仕掛けたり、水風船投げつけたり、校内放送使って情報掻きまわしたり………我ながらアホなことしながら一ヵ月間乗り切ったものだ。


 今さっきだって調理室から拝借したスプーンで脅してたし。


 しかし今回ばかりは逃げてるだけじゃ勝てない。そして勝たなきゃならない。



「だぁもう! 額が痛い! ごちんって言ったからなぁ。さぁてどうやって負けを認めさせてやるか、」



 ゴッ! と隣が壁を砕き教室内の机を薙ぎ倒した。

 

 それは白銀に光る金属の塊。


 イメージとしては電柱。街の至る所に生えている電柱をボウガンのように撃ち出されるイメージ。

 もちろんそれだけデカイ物を撃ち出したとなると被害なんてものは……砕けた壁から容易に察しが付く。運よくその爆撃の被害を受けなかったのが本当に幸運。

 だけど、いきなり隣の壁が消滅するのは精神的に来るものがある。


 ブロック崩しにミサイルを撃ち込んで全部壊されたような強引さと問答無用さだった。



「いつも思うけどあんたってすごい優しい性格だなよー。あれなの? 断れない性格? いや、ほっとけない性格? そのくせ抜け目ないのが厄介」

「うわっ、うわわわ!」



 瓦解した壁からカミ子が侵入してくる。その場に留まっているのは危険!

 僕は滑稽に足をもたつかせて奥の扉から逃げるように廊下に出る。当然のごとくカミ子も廊下に出て対面する形となった。


 その姿に特に変わりなし。いつも通りの佇まいいつも通りの衣服いつも通りの口調いつも通りの召喚陣。


 カミ子は僕だ。召喚術師上噛神子はかつての源次郎と同じ『想像召喚』の使い手。

 想像召喚は机上の空論。到達し得ない無人の領域。


 彼女はかつての僕と同じ想像召喚の使い手だが厳密には想像召喚ではない。想像召喚はあくまで『ありとあらゆるものを想像で召喚できる』からこそ想像召喚。三立の求める問答無用と無尽蔵には程遠い。


 彼女の持つ召喚術は大本から枝分かれした想像召喚の派生の一つ『純鉄召喚』。純度、形などを自由自在に設定し鉄を召喚すること一つに絞った想像召喚。


 だから神子は机上の空論者ではなく机上の空論に近い魔法(三立)使いとして『可能性持ち(ネクストルーター)』と呼ばれている。



「一応三立って魔法の偽物だけど魔法って名前は冠してるけど。なら一応私も魔法(三立)使いならぬ魔法(三立)少女にならないかな。ちょっと、物理的すぎるけど」

「鉄の現物を投げつけてくる時点で物理的どころか破壊大帝だ。あと僕的に魔法少女年齢は十五歳までで君は魔(三立)女に近い気がしてならないかな」

「何でかわからないけど魔女だと一気に年老いた気持ちになるのは何でだろう」

「気のせいじゃないか。気にすることはない。それは君の思い込み。信じれば君も十五歳+αだ。じゃあ僕はこれで」

「逃がさないから」



足元に銀色の鉄の弾丸が撃ち込まれる。ガガガッと連撃だ。



「アンタはさ。この一ヵ月間一回も反撃してこなかったよな? 嫌味ったらしいことはいっぱいされたけどそれは別で。それは優しさからくるのか、それとも嫌悪からか」



 嫌悪はある。

 あるに決まっている。


 呼び出されてケンカを毎日のように売られて嫌悪のない奴なんていない。結論から言ってしまえば暴力的な女性は嫌いだ。


 君のことだよ上噛神子!




「なんだ? 僕は理由あり気に君の申し出を受けているって君は思っているのか?」

「そうだろ。言ってなんだけど私。結構無茶してると思ってんだよなー。毎日プログラムに呼び出して戦えって注文。私なら………まあふざけんなって思う」

「さすが我がクラスきっての優良生徒兼常識枠。自分のことを客観的に見れるのは優秀な証拠だ。そう思うのならケンカ売るのを止めるんだ」

「それは無理」



 じゃあ無理には止めないさ。どうせ聞き入れてくれるわけないし。



「確かに君の言う通り僕は理由あり気にこの話に乗っている。君が可能性持ちだからだよ」

「可能性持ちだから?」



 喰いついて来た。

 僕はカミ子に背中を向けポケットに手を入れ、前へと歩き出す。



「可能性持ちは文字通り机上の空論になる可能性のある人たちのことを指す。聞けばカミ子は遅咲きで三立を会得したって聞いた。単純に興味があるんだよ。幼き頃からではない、後年になって可能性持ちになったって話は聞いたことがない。もしかして君が机上の空論のカギを握るんじゃないかって思っているんだ。それが君の暴虐な要求を受け入れる理由だ」



 饒舌に言の葉を繋ぎ語る。何の反応もない。カミ子も黙って聞き入っているようだ。


 ああ、いい。僕は口元を歪めた。

 純粋で信じやすいその心。吐いた言葉は全て嘘っぱちなのに簡単に感化されて流されやすい。こうやって意味あり気に語っているだけで攻撃の手を止める。なんてお人よしなんだろう。


 だからこそ、逃げやすい。

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