三極の悪友6
昔使っていた偶像召喚によって召喚したのならゼクトは存在しないことになり、人間召喚なら机上の空論を発動したことになる。
だがその二つに当てはまらない選択肢がある。彼女が人間じゃなければ、『人間の形をした何か』なれば僕はただ召喚術を使っただけと言うことになり偶像召喚も人間召喚も使ったことにはならない。
しかしそれこそ絵空事だ。
人の形をした人ではない生物なんてこの世にいるはずがない。
空想の物語に出てくる亜人? それともホムンクルスのような人工生物? 誰かの三立により作られた泥人形?
どれもこれも非現実的だ。
「一番いいのは、君が偶像召喚を使ったって選択肢ね。それなら彼女が消えたって気に病むことはないし、君が机上の空論を発動したことにはならない。もっとも行方不明の天童源次郎の存在が世間に知れ渡るけど。と言うよりWRが着いてる時点で偶像召喚じゃないの?」
ケタケタ笑う静吉を僕は素直に怖いと思う。
僕は彼女の虜なんだ。確かに静吉のことは信頼も信用もしている。だけど彼女は僕のことを天童源次郎と知っているという弱みを握られている。
誰も静吉の使う三立の内容は分からないが素性を知られているからこそ、友達として最大限の信頼をしている。
静吉は友達でいることを楽しんでいるみたいだけどこちらとしては内心恐怖づいている。
いつバラされるか、ここに無色透明の龍を召喚した悪魔がいる声高々と宣言されるのではないかと。
信頼されている彼女の言葉は誰しも信用するだろう。だって僕ですら彼女の言葉を全面的に信頼しているんだから。
仲良くするんだ。逆らってはいけない。けど。
「それは違う。今の僕にそんな力はないし、偶像召喚を使ったなら感覚で分かる。彼女は僕の妄想なんかじゃない」
「言うわねぇ。もしかしたら彼女は君の罪の意識が生み出した偶像かも。本当は少しでも罪の意識を軽くしたいと思ってるんじゃない? 『お前のせいだ』『お前のせいで』『数えきれない人の人生を』『壊した』って責められるべき思ってるからこそ召喚したんじゃない」
「それは……でも誰も死んでない。崩街は……あれはただ街を消しただけで……だけで……」
「人が消えなくても、街を消せば人生は壊れる。あの事件はどれだけ見積もっても最悪の人災よ。たとえ贖罪をするために三立の世界に身を置いていても、清算し切れるものじゃない」
罪の意識は消えない。深層心理は主観では分からない。静吉の言う通り、ゼクトは僕の心の底が望んだ贖罪の権化として作り出された偶像かもしれない。そうでない可能性がないとは言い切れない。
そして偶像召喚なら、もし偶像召喚であったならWRの契約を破棄してゼクトを消せばそれでいい。それだけの簡単な話だ。
だけど、それがどうしても僕は嫌だった。あの子を消せば簡単だなんて、そんなの道理じゃない。
「僕のことはいい。大切なのはあの子の今後だ。元いた場所に戻すためにはどうしたらいいか。お前の意見を聞きたい」
「最後の最後まで偶像召喚説は否定するのね。それだと君は三本柱に連れてかれることになるよ。そうなると君もいろいろ面倒でしょ」
「それは……」
「そんなことはさせません」
皿が盛大に置かれる。両手両肘頭の上から肩の上までありとあらゆる部位に置かれた料理の皿が小さなテーブルに所狭しと並べられる。
唐突な言葉の差し込みに僕は体を跳ねさせて、ゼクトはドスンと腰を下ろす。今の話聞かれてないよな。どうやら聞かれてないみたいだな。聞かれてないと言い切ろう。
「随分と買ってきたわね。このささみ丼もらうわね」
「お好きなものをどうぞ。ゴトゥディンが机上の空論を発動したなんてありえません。才能の匂いなんてこれっぽちもしませんから」
「君……擁護してないよねそれ。乏してるよねその物言い」
「本当は才能の塊なんだけどねぇ」
「だからもし、ゴトゥディンが連れてかれることになるのなら護ります。それこそ世界中を敵に回したって、護りますヨ。それが騎士であり、ゼクトと言う存在の務めです。ゴトゥディン。忘れないでください。アナタは決して一人ではない。サカナがついていることを」
護る。味方でいてくれる。なんて臭い言葉だろうか。泥臭い。ひと昔の漫画で出てきそうなセリフ。そんな言葉を言われたって臭いだけだ。
だけどその言葉は、ゼクトの言葉は僕の心を確かに揺らした。それどころか釣り上げて浮かばせてくるようだった。
なぜならゼクトは何の混じりっ気もなく、真剣な眼差しで、何の躊躇もなく言い放ってきたんだ。とても純粋で純真な言葉にしか聞こえない。
「惚れたわね。きーちゃん」
「そんなんじゃない!」




