三極の悪友5
「どうせ俺はロクデナシだ。自覚もしてるし自負もしてる」
「自負してどーするのよ。ほら、イライラしたら体に良くないわよ。缶コーヒーでも飲んで落ち着きなって」
そう言って目の前で缶コーヒーをぴらぴらと振ってくる。その缶コーヒー飲みかけじゃないか。僕は少しの思考の後に枝を折るように缶コーヒーを強奪し一気飲みする。
んー。ブラックのくせにあまり苦くない。飲みやすくはあるが美味しくないブラックコーヒーだ。
「がふっ。話し戻すけど、結局お前のシールのせいでよくわかんない状況だけど、ねぇ? 答えてくれよ静吉。あのシールは何だったんだ」
「残念だけど、インスタントシールは正常よ。正真正銘、あの子は君が召喚した」
そんな答えは聞きたくない。それがあり得ないからあのシールが原因だと踏んでいるのに僕があの子を召喚した? 自慢じゃないが自分の無能加減は重々認知している。
「なら、あの子は何なんだよ? わかっていると思うけど、今の僕は砂粒一つ召喚するのにも苦労するほど落ちぶれているんだ。人間召喚にしろ偶像召喚にしろ、不可能ってのはわかっているだろ?」
それこそ僕に張り付けられた落ちこぼれのレッテルは確かなものだ。
過去にどれだけ優秀だったとしても暴走した無色透明の龍のおかげで今の僕はさび付いた刀のごとく無能。
無色透明の龍の起こした崩街はその名の通り都市を喰らった。そんな災厄の塊は今、僕の三立として無理やり身体の内に抑え込んでいる。無色透明の龍は偶像から生まれた机上の空論そのものだ。半端な力じゃ押さえつけられない。
なので僕の元々の力の全てを強制的に無色透明の龍を押さえつけるのに回されてる。そのせいで最高の名声なんてものは過去の栄光。世界のトップから完全なる最底辺ってわけだ。
まあ八歳時点で世界最高の召喚術士の称号をもらっていたのが出来過ぎたって気もするけど。
「でも、あの子にはWRがあるじゃない。君が偶像召喚を使ったって証拠そのものだと思うけど」
静吉の言う通りWRは僕の、天童源次郎の持つ偶像召喚の象徴とも言えた。
WRは元来、召喚する側とされる側の正式な手続きをし、初めて召喚者の所有物として認定されるものだ。天童源次郎が世界最高の召喚術師と言われた所以の一つとして召喚術を使えば強制的にWRを着けることができる。つまり『意思そのものに関与することのない三立』を持ち得るからだった。
ゼクトがWRを着けていた。つまりそれはゼクトが僕の偶像召喚によって呼び出された偶像であり『この世にいるはずのない架空の生き物』だという一つの論が出てしまうことに他ならない。
朝から感じていた人間じゃ無ければ召喚できるという不安はかつて僕が使っていた偶像召喚により召喚された偶像なのかもしれないと感じていたからだ。
だけど。
「今偶像召喚を使えるわけがない、人間召喚も以ての外だ。静吉ならわかるだろ。見えるんだろ」
「……そうね。今の君にそんな力はない。確かにそれは言えるわね」
「だったら、あの子は何者なんだよ。人間召喚も偶像召喚もできない、けど僕が召喚した。その召喚した僕でもわからないんだ。だけど静吉なら、お前なら分かるだろ。あの子の正体が。あの子の真実が」
ある意味、今の僕は本物の魔法を探しているような感覚だった。藁にもすがり、分かりもしない答えを求めて、ゼクトの正体を静吉に求めている。
静吉は何でも知っている。僕が無色透明の龍を召喚したことをあっさりと見破ってきた。
僕を見つけた静吉はとんでもない奴だし、無色透明の龍と知って手を貸してくれている理由もいまだに教えてくれない。
人間的にはあまりにも胡散臭いけど、彼女の言葉は心の底から信用できるし信用もしている。きっと静吉ならゼクトのこともわかるはず。
僕はそう信じている。
「わからない。ホントに分からないのよあの子。色々と情報がグッチャグチャに入り乱れて何にも見えない。こんなこと初めて」
「お前でも分からないのか。だって、よくは知らないけどお前の三立は色んな情報かき集められるような三立なんだろ。お前以外にあの子の正体がわかる奴なんてこの世にいないぞ」
「一つ言えることは、身体的に普通の生物じゃないってことだけね。簡単なものなら見えたけど、君も朝、肩に跨れた時に思ったでしょ。体格に見合わない異常な重量。身長は百四十程度だけど、体重は八十を優に超えてる。見た目はぷにぷにしてるけど、皮膚の下は筋肉ダルマなのよ。ちなみにバストサイズもヤバい。あの体格でサイズが、」
「それはいい。要らない情報だ」
「何よつまんない」
余計な情報が好きすぎるお前が悪い。
「とにかく言えることはゼクト君を召喚したのが人間召喚にしても偶像召喚にしても君はかなり複雑な立ち位置にいる。それともまさか君はゼクト君が『元からこの世に存在した人の形をした何か』って言うんじゃないでしょうね?」
そうだ。まさにそこだ。僕は一種の究極の選択を迫られている。




