表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/18

第10話 最初の村

 草が風に揺れてサラサラと心地いい音を奏でる。小川の流れが一定のリズムを刻み、心地よい。のどかで、眠気を誘うような空気だ。

 

 とても穏やかで、これから冒険が始まる空気とはかけ離れていた。

 

 ――あの日。

 

 ステラがいなくなってから、胸のどこかにぽっかり穴が空いたように虚しかった。この世界に来ても、現実感もなくて、ステラがいないことだけが息をつまらせていた。

 

 空は明るく、この世界は何故か僕を歓迎かんげいしている。僕が止まっていても何も変わらない。

 あの時みたいに、強く進まなきゃいけない。

 

「どうしたの?」

 

 ルシエルが不思議そうに覗き込む。

 

「あぁ、昔を思い出していただけ。大丈夫、進もう。」

「ふふ……昔、ね。そういうの、なんだかいいね。」

 

 ルシエルは少しだけ寂しそうな顔で、遠くを見つめていた。




 

 しばらく歩いていると、目の前に村と門が見えてくる。

 アンダンテ村だ。旅に出て最初に訪れる村。

 

(早くクリアして必ず元の世界に戻る。そして、僕の光であるステラを見つけるんだ。)

 

 グッと拳を握る。その拳には、もう何の迷いもなかった。

 二人で村に足を踏み入れる。


 アンダンテ村の木製の門をくぐった瞬間、思わず息をついた。

 ゲームで何度も見た最初の村のはずなのに、目の前に広がるのは現実としか思えない世界だった。


 畑で土をたがやしているおじいさんが、空を見上げてつぶやく。


「今日も世界は、良い調べを奏でているのう。」


(セリフも、ゲームと同じだ……)


 僕はやはりゲームの世界に迷い込んだらしい。空気も音も匂いも、どれもリアルすぎる。

 広場に出ると、中央にセーブポイントの祭壇さいだんが見えた。現実離れした形をしているが、ゲームではよく見た光景だ。


(あの時は、何も疑問に思ってなかったけど。)


 恐る恐る手をかざすと、僕とルシエルの体が緑の光に包まれる。

 マジかよ。本当にセーブできた。


 すると、子どもたちがけ寄ってくる。


「勇者様だ! かっこいい!」

「僕も大きくなったら、勇者様みたいに強くなるんだ!」


 正直僕は子どもの扱いに慣れていない。囲まれて戸惑とまどっていると、おばあさんが出てきた。


「こらこら、勇者様を困らせたらいけないよ。」

「ふふ、人気者だね、優陽ゆうひ。」


 隣でルシエルが楽しそうに笑う。僕は気まずそうに微笑み返した。


(懐かしい。けど、やっぱり不気味だ。)


 王都ルミエールからここまで歩いた疲労感が体にのしかかる。足は痛く、体は重い。隣にいるルシエルを見ると、ケロッとしていた。


(どうして疲れてないんだよ……)


 何気なく手をかざすとピピピ……と電子音が鳴り光る四角い板が出てくる。四角い板には、文字と数字が書かれていた。

 ……なんだこれ。


 優陽ゆうひ

 職業:勇者

 レベル1

 HP:5/20

 攻撃2、防御1、魔力1、素早さ2


 うわ……低すぎる。これ、村の子どもたちに負けるんじゃないか?初期装備の剣の重さにすら、腕が悲鳴を上げそうな数値だ。

 HPバーを見ると赤く点滅している。歩き疲れただけでHPが減るって、どんな仕様なんだ。隣にいるルシエルのステータスも確認してみる。


 ルシエル

 職業:魔法使い

 レベル5

 HP:50/50

 攻撃20、防御18、魔力26、素早さ15


 記憶にあるゲームでは、勇者とルシエルは同じくらいのステータスだったはずだ。しかも、歩いた疲労はHPに反映されていない。

 こんなに差があるのは……


 僕がプレイヤーではなく、ただの優陽ゆうひだからか。


 背筋がぞわっと冷える。

 この先このステータスでやっていけるのか。


優陽ゆうひ、どうする?武器をそろえに行く?それとも道具屋に行く?」


 ルシエルの様子を見ると、ステータスは僕にしか見えていないようだ。何も知らない顔で笑っている。

 このまま武器屋や道具屋に行ったら、さすがに倒れてしまう。

 体力的に無理だ。ゴクリと唾を飲み込む。


「ルシエル、提案がある。宿屋に行かないか?」


 ルシエルは目を丸くして首を傾げた。

 だよな、驚くよな。勇者がこんな体力ないなんて想像できないだろう。


 ルシエルは、口元に手を当てて答える。


「……なるほど。疲労を回復してから、万全の状態で挑むということか。それはいい戦略だ。」


 僕は、ほっと胸を撫で下ろした。



 ――



 宿屋に入り、受付のおばあさんに料金を払う。


 今は初期からの所持金があるけど、そのうち魔物を倒したり宝箱を開けてお金を稼ぐしかない。先が思いやられる。


 宿の部屋は質素な作りで、ベッドが二つある。


(……よかった、一つじゃなくて。)


 僕がベッドに腰を下ろすと、ルシエルがため息をついた。


「ふぅ、さすがに王都ルミエールから歩いたのは疲れたよね。」

「全然疲れてるように見えないけど。」

「ふふ、そうかい?」


 ルシエルが帽子を外す。中からさらりと銀の髪がこぼれ落ち、隠れていたポニーテールが揺れた。ゲームの時は帽子を外さなかったので知らなかったが、絹のように細く見惚れるほど綺麗きれいな髪だった。


(……いやいや、ルシエルは男だ。落ち着け、僕……!)


 全力で心の中で自分にツッコミを入れて、雑念を振り払った。


優陽ゆうひは……ここに来る前はどんな生活をしていたのかい?」

「僕は……えっと」


スーパーでバイトをしていた、だなんて言えるわけがない。そんな勇者いていいものか。


「食材の管理を……」

「へぇ、意外だね。どんな食べ物が好きなんだい?」

「えっと、昆布のおにぎり……」

「おにぎり? 聞いたことがないな」


 そりゃそうだ。ルシエルは王に仕える魔法使いだ。きっと食べるものも豪華なものなのだろう。


「私は硬めのパンが好きかな」

「そ、そうなの!?」

「あぁ、何も乗っていない、硬めのパン」


 あまりにも質素すぎない? こんな意外な一面はゲームでは見られなかった。こうして会話していると、普通の人間だ。ゲームのキャラクターとは思えない。


 しばらく会話をして、横になるといつの間にか眠ってしまっていた。相当疲れていたのだろう。布団に吸い込まれるように……落ちていった。



挿絵(By みてみん)

イラストはルシエルです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ