時代は繰り返す。
大神殿の白い外壁がクラゲたちの淡い光に照らされ夜の海底都市に映える。
神殿内の自室にこもり人魚の長老は古い資料を漁っていた。調べたいのは"月の住人"についての情報。
魔法を嫌い科学を発展させた人々。月に築いた科学の王国を冥界の王によって奪われた住人たち。文献に載る知識は全て長老の知るものばかりだった。
知りたいのはその後である。冥月王に居住区を追い出されたあと人々はどこに拠点を移したのか、、、。
その科学力をもって宇宙のどこかに移住したと考えられる。
魔王アイオン・ヴァレフォール、そして彼が転移させた異界の男、久遠蒼真。
二人の話ではあの円盤から下りてきた少年は科学文明がはるかに進んだ世界からの転移者。そしてそのうらで少年を支援するのは月の住人だと言う。
争いの火種を巻いたことを手品のトリックを明かすように嬉々として語る二人を思い出し長老は拳を握る。いかんいかんと首をふり冷静になる。
椅子に腰掛け伸ばした尾びれをパタパタと揺らす。資料に目を通すのはやめた。どこを見ても目新しい情報はない。
科学文明の少年は明後日の正午再びこの海底都市に現れると言った。ゲームの内容は今から考えると本当に子供が遊びの提案をするように気軽に言って去っていった。
この世界を巨大なオモチャ箱としか思っていない。思わずため息がでる。腹が立つより呆れが勝つ。
そして、なにもできない自分に怒りの矛先が向いて自己嫌悪となる。私の魔法では太刀打ちできない。それはわかっている。
ソラに、アイオン・ヴァレフォール、久遠蒼真に頼らなければならない現実。しかも魔王と連れの男は信用に値しない。利害の一致で共闘するにすぎない。
そもそも元凶は彼らではないか。と頭の中で責める思考がわいてくる。といっても彼らの力なしに超科学と渡り合えない。歯がゆい。思考がぐるぐると回る。
二日で自身の魔法が強くなるとは思えない。歳を重ね過ぎ現実を見すぎた己では空想の力など弱くなる一方である。長老は今できる最低限のことをしようと考えた。
それが、敵を知ること。超科学の文明の少年のことは調べようがないが、月の住人についてならと調べ始めた。
しかし、冥月王との戦いも古すぎてあてになる情報はない。
魔法にも匹敵する科学力をもっていたとされる。長老は恐れ入ると思う。本当に人の空想を現実に変える力は、"魔法と科学"手段が変わっても恐ろしいものである。
時に文明を進め、時に文明を滅ぼす。未来への希望であり、争いの元凶。時代は繰り返す。冥月王(魔法)と月の住人(科学)の戦いもまた繰り返されようとしている。
長老は、文献に残る月への移住前の彼らの生活を思い浮かべる。彼らは深海深くに居住地を作っていた。
魔法を信じていない彼らは"海の中で呼吸ができる"という概念の魔法の加護をうけれない。必然、深海で暮らすには酸素、水圧を科学で克服する必要がある。
それを可能にしたことで月でも暮らすことができるようになったのだ。長老は目をつぶり鼻で息を吸う。そして思う。
「やはり人が空想を形にする力はすごいな。科学は概念を変える魔法に匹敵する力だ。」
長老は科学文明への尊敬と恐怖が同時に押し寄せる。これから起こる戦いはその科学を相手にしなければならない。長老の頬を汗がつたった。




