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婿入り

また長いです。短くまとめられませんでした。すみません。

 シアによって了承された四公の決定は、全てラムカの筋書きどおりに進められた。ラムカはさらに、アレクスとレティに、可能な限り早く、婚約中として振る舞うようにと付け加えた。


 夕方、早速、ギュンとアイが、アレクスを迎えにリュネにやって来た。

 ギュンとアイは、ラムカの指示を盾に、すぐにアレクスを連れていくと言う。あまりにせっかちなプロガムのやり方に、温厚なリュネの面々もさすがに渋い顔をした。それでも、サイカ、ヨエル、クルトの三人は、四公の決定が絶対であることを理解できる三人だった。


 三人にとって、今回のことで唯一の救いは、次男のイェレがここにいないことだった。


 もし今、ここにイェレがいたらと思うと、三人はゾッとした。この話を知ったイェレが北部から戻ってきたら、一悶着どころではすまない。イェレは、5番目の弟を溺愛していて、その愛情は常軌を逸していた。


 イェレはアズヴェルト建国以来の建築の天才で、過去に諦めた難工事も、イェレの設計で近年次々と完成をみている。

 そんなイェレだが、なかなか厄介な性格の持ち主で、気に入らないことがあると、平気で工事を止めてしまう。王や四公のお叱りなど、全く気にしない。イェレをうまく転がすことができるのは、なんと、末弟アレクスだけなのだ。


 アレクスがリュネ家の中で、大した仕事もしていないのに、叱責も受けず、可愛がられてきたのには、それなりに理由があったのだ。


 三人にしてみれば、アレクスを他家にやってしまって、今後、イェレをどう扱っていくのかという不安もあったが、今は、アレクスがプロガムへ行く前に、噂を聞きつけたイェレが帰ってくることの方が恐ろしかった。


 サイカ、ヨエル、クルトの三人は、青ざめた顔を見合わせた。お互い思っていることは同じのようだ。可愛がっていた末弟が、このような扱いを受けるのは内心不満でいっぱいだが、イェレがこの話を聞きつけて戻ってくる前に、アレクスをプロガムに送り込むしかない。



 慣れ親しんだリュネ家を、アレクスは少しの荷物を持って後にした。サイカもヨエルもクルトも、そして家人たちも、みんな別れを惜しんでくれたが、同じ王都内での引っ越しなのだ。全く家に戻れなくなるわけでもないし、当のアレクスは大して気にもとめていない。


 それよりも、アレクスは、今から乗る馬車の方が気になっていた。馬車に乗るのは、ギュンとアイと三人。せめてユルドでもいてくれたら気が楽だった。みんなが見送る中、アレクスは恐る恐る馬車に乗り込んだ。


 大きな夕日は地平線に沈もうとしていた。赤く染まった王都の町並みを馬車は駆け抜けて行く。石畳の上をガタゴトと揺られながら、三人はただ黙っていた。ギュンとアイの二人は、アレクスをリュネから連れてくるという仕事を終えたからか、どこか満足気にも見える。強烈な嫌味攻撃を覚悟していたアレクスは、あまりに静かな二人に拍子抜けした。


 しばらくすると馬車は王宮の横を通り、王都の北部へと入った。北には、プロガムの屋敷がある。屋敷に近づくにつれ、プロガムの紋章と赤い旗が掲げられている建物が増える。同じ王都でも、アレクスが普段生活していたリュネゆかりの地域とは、違った風情がある。


 三人を乗せた馬車は、プロガムの屋敷に滑り込んだ。日はすっかり沈んで、あたりは薄暗くなっていた。あちらこちらに兵の影が見える。この厳重な警備をすり抜けて、レティの部屋にたどり着くには、プロガムの中に協力者がいない限り不可能だと改めて思い知らされる。


 こうなる事態を引き起こした人物は、プロガムの内にいるのだ。犯人も、その目的も、どうして自分が巻き込まれたのかさえ全くわからなくて、アレクスにはプロガムの屋敷が不気味に思えた。


 プロガムについたアレクスを、玄関まで直々に出迎えたのは、マルトとユルドだった。あの日の朝、怒り狂っていたマルトの様子から、しばらく口も聞いてもらえないか、一発ぐらい殴られるかと覚悟していたが、マルトはすっかり普段通りだった。考えてみれば、マルトは自分の子供たちと仲の良いアレクスに、いつも目をかけてくれていた。あんなに怒ったマルトを見たのは、先日が初めてだった。


 あの怒りようからすると、マルトが犯人だとは考えられない。ユルドはそんなことをするにはまだ子供だし、双子は自分を毛嫌いしている。もちろん、レティなわけはない。犯人は、一体誰で、どういう意図を持って、今回の事態を引き起こしたのかと考えながら、家人に案内されるまま、アレクスは屋敷の二階へと上がって行った。


 家人は、レティの部屋を通り過ぎ、一番奥の扉の前にたった。そして、アレクスに鍵を渡すと、一礼して戻って行った。

 ひとり、部屋の前に取り残されたアレクスは、鍵を開けようとした。すると、中から美しい声がした。


「開いてるわ」


 声の主はもちろん、レティだ。

 

 アレクスは扉を開けて、部屋に入った。部屋は、かなり広く、奥に続き戸が何個かある。その広さから、屋敷の中でも、特別なものが使う場所だというのがわかる。


「あなたと暮らすことになったから、今日からこちらへ移ったの」


 レティがさらりと言った。覚悟はしていたが、やっぱり同室なのか。ことの経緯から、体面だけ取り繕って、実は別室ということもあるかもしれないと期待していた。


 先ほどのマルトの態度といい、馬車での双子の態度といい、どうやらプロガムは、本気でアレクスをレティの婚約者に据えることに決めたらしい。


「ここは、プロガム次期当主の部屋よ。私が今まで使っていた部屋と違って、たくさんの続き間があるわ。寝室、居間、食堂、お風呂。この中でだいたい全てが完結するわね」


 レティは手招きして、ついてくるようにと促した。そして食堂へ案内した。そこには、すでに二人のための食事が用意されている。


「いつもは家族で食べるんだけど、しばらくはここで食事をしましょう」


 アレクスの気持ちを知ってか知らずか、レティが言った。プロガム全員が集う食事時は、さぞ針のむしろだろうと想像していたので、アレクスは胸をなでおろした。


「さて。お腹がすいたでしょう。食事にしましょう」


 レティは明るく言って、侍女に食卓を用意させ、二人きりで食事がしたいからと、侍女を下がらせた。


 二人になったレティとアレクスは、向かいあって食事を始めた。食卓には、アレクスの好きなものばかりが並んでいる。


「これって、レティが用意させたの?」


「いいえ?どうして?」


 レティが不思議そうに答えた。


「いや、俺の好きなものばかり。てっきりレティが指示したのかと…」


「たぶんギュンね。今日手配をしてくれたのはあの子だから」


「ギュン⁉︎じゃあ、これは偶然⁉︎」


 アレクスは驚いて聞いた。


「違うわね。あの子、あれでも細やかな性分なの」


 レティの答えに、アレクスは椅子ごと後ろに倒れそうになった。レティのギュンを形容する言葉は、アレクスの知っているギュンとは、あまりにもかけ離れている。


「まぁ、あの子達、なかなかいい子達なのよ。そのうち、あなたにもわかってもらえるわ」


 言いながらレティは少し水を飲んだ。


「そりゃ、小さい時は可愛かったけど。ギュンが俺のために好物を用意するなんて、ちょっと…、信じられないよ」


「でしょうね。あなたに対しては、素直じゃないから」


 アレクスにすれば、ギュンは正直すぎるのが欠点だったが、ここでもレティの意見は正反対だった。



「さて、今回、私たち、婚約することになったわけだけど」


 プロガム長子の婚約、それすなわち、結婚と同じことあった。アレクスは口の中にあったものをごくりと飲み込んだ。


「急にこんなことになって、あなたは大丈夫?」


 アレクスは少し考えてから答えた。


「正直いうと、びっくりしてる。ナシルだったら、以前から言われてただろうから、気持ちの準備もできてたかもしれないけど。俺は、まだついていけていないよ。それに、俺たちって本当に婚約…、その、つまり、結婚する…、のと同じことだよね?」


 アレクスの戸惑いをよそに、レティは表情一つ変えずに答えた。


「そうね。でも、急に言われても、あなたは戸惑うわよね」


「レティも、ナシルと婚約が決まってたのに…」


 アレクスが言うと、レティは、じっとアレクスを見た。その瞳が、何を意味するのかアレクスには測りかねた。美しい瞳に見つめられている間、アレクスは身が縮む思いがした。


「…まぁ、驚いたのは確かね」


 そう言うとレティは、アレクスから視線を外し、黙り込んでしまった。その後、二人はほとんど話すこともなく、黙々と食事をした。


 アレクスは、チラチラとレティを見たが、レティには、いつもの明るさがなく、どこか思い悩んでいるようにも見える。

 アレクスは、自分も戸惑っているが、レティも、自分と婚約することになって困っているんだとやっと気付いた。

 

 それはそうだ。レティはナシルが好きだったのに。

 二人は、美男美女でお似合い、かつ、お互いを想いあっていたではないか。

 

 そこへあんな事が起きて、急に相手を変えろと言われた。しかも相手が、四公家のおまけという不名誉なあだ名を頂戴している自分である。自分とナシルでは比べものにならないことなど、アレクスも重々承知している。いくら、我慢強いレティでも、納得できるわけがない。ナシルも、きっと今頃、嘆き悲しんでいるだろう。


 レティとナシルことを考えると、夜会の夜、記憶をなくしてあんなことになってしまった自分を、ボコボコに殴ってやりたかった。

読んでいただいた方、ありがとうございました。お疲れ様でした!

いよいよ夜が来ますよ。

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