幼なじみ
「あの…、レティ?」
アレクスが話しかけると、レティは体にシーツを巻きつけたまま、ベッドから立ち上がった。
「うわっ」
レティにシーツを持っていかれそうになり、アレクスは焦ってシーツを抑えた。
レティが、じろりとアレクスを振り返る。
「レ、レティ。ちょ、ちょっと待って。シーツを引っ張られると…」
レティはアレクスの腰のあたりをじっと見て、ああ、と納得した。
「ちょっとそっちを向いていて」
そう言って、反対側を指差すと、レティはシーツをするりと自分の体から離した。レティの行動に、アレクスは反対を向くのも忘れて、一瞬ぽかんとした。薄い肌着しかつけていないレティの美しい体の線が、朝の光を背景に、はっきりと浮かび上がる。
呆然と自分を見ているアレクスに気づいて、レティは人差し指をくるくると二回まわす。
「あっちを向いていて」
慌ててアレクスは、レティから目をそらした。レティはごそごそと服を身につけている。
「いいわ」
アレクスは恐る恐るレティの方を見た。
レティはすっかり服を着て、ベッドの端に座り、次は長い髪をまとめ始めた。
「服を着て」
レティが少し絡まった髪をとかしながら言う。
「あの…」
「早く着て」
「いや…、その…」
「だから、早く服を着てってば」
「ごめん、レティ。そっち向くか、シーツから体をのけてくれない?俺、何も着てないんだ…」
言われたレティは、慌てて立ち上がった。光の加減か、少し頬が赤い。
「ごめんなさい。いいわ。着替えて」
レティはシーツから立ち上がって、髪をとかしながら鏡の方へと向かって行った。アレクスが、腰にシーツを巻きつけたまま、ベッド周りのあちこちに脱ぎ散らかされている服を集める。するといつの間にか、レティはすっかりと髪をまとめ終わって、アレクスの方に向き直っていた。
やっと服を集め終わったところのアレクスは、レティの視線を感じて焦った。
「ちょっと、見ないでよ!」
「何を今さら。あなたが池に落ちた時も、私が世話をしてあげたじゃない」
「いつのことだよ!子供の頃のことだろ!」
「構わないわよ。私は軍で、男の裸なんて見慣れてるんだし。弟たちのなんて、小さい時から見てきてるし」
レティは軍務についていて、いつも男ばかりに囲まれている上に、母親を亡くしてからは、かいがいしく、三人の弟たちの世話を焼いていた。
アレクスも昔、双子と一緒に池に落ちた時、レティに服をひん剥かれて、乾かしてもらったことがある。子供の頃は、何度も見られたかもしれないが、昔と今では事情が違う。
「それに、私たち、昨夜は一緒に眠った仲じゃない」
レティがいたずらっぽく笑った。
レティのいたずらっぽい笑みを見て、アレクスは、こんなに親しくレティと会話をするのは、何年ぶりだろうと考えた。レティは子供の頃と何も変わっていない。状況は最悪なのに、アレクスはなぜたかほっとした。
「昨日のこと、何か覚えてる?」
レティが言った。
「それが…。俺…」
本当のところ、アレクスには全く記憶がなかった。一晩レティと一緒に眠ったらしいのに、それをレティに正直に告げるのは、非常にまずい気がする。
アレクスが答えに窮していると、レティは話の矛先を少し変えた。
「夜会で会ったわよね?」
「…夜会には行ったと思う。家族の馬車に乗せてもらって、シルバルドの話をしたことを覚えてるから」
シルバルドと聞いて、レティの目が、懐かしそうに煌いた。
「そういえば、私たち、昨夜一緒に踊ったけど?」
「踊ったっけ?」
やっぱり夜会のことは全く思い出せなかった。レティとは、夜会では双子から助けてもらう口実にいつも踊るから、昨晩も踊ったのかもしれない。アレクスは眉間にしわを寄せて、なんとか記憶を手繰り寄せようとがんばった。
そんなアレクスを傍目に、レティが話し出した。
「昨日は、私、ここに帰ってきた時はユルドと二人だったの。ユルドが少し疲れてしまって。早めに屋敷へ帰ったわ。ギュンとアイの姿が見えなかったから、ユルドと二人でね。戻ってから侍女に湯を入れてもらって、寝間着に着替えて、一人で休んだわ」
アレクスは黙って頷いた。
「そこまでははっきりと覚えているのよ。だけど、なぜ、隣にあなたが寝ていたのかが、全く思い出せないの。なのに、家族全員にばっちり現場を押えられてしまったし」
「現場!」
アレクスが驚いた声を上げると、レティは首をかしげ、頬に手を当てて、考えるようなそぶりで言った。
「現場ってわけじゃないわね。事後とでも言っておきましょうか」
「事後!」
アレクスがさらに驚いた声を上げると、レティはふふふと笑いながら、
「冗談よ」
と子供の頃と変わらぬ優しい目でアレクスを見た。
「それより、早く身支度を済ませて!急いでお父様のところに行かないとまずいわ!」
アレクスは慌てて服を身につけた。




