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6 諦める事を諦める

「ユリーシャ。すまないが、一つだけ、仕事と全く関係ない事を質問していいか」


 そんな事をクレイが尋ねてきたのは、サキが滞在するようになって6日目の事だった。


「……何でしょうか」


 ユリーシャはだいぶ不安になった。クレイが尋ねる事と言えば、サキの事以外考えられなかったからだ。


 ユリーシャは、クレイがサキを6日間放置している事を当然知っていた。クレイがだいぶ悩んでいるのも知っていた。そして、彼が悩む事と言えば、サキにプロポーズをするか、しないかという、それだけしか考えられなかった。


 つまり、それについて私に何か質問するって事は……。我が主様は、サキ様との結婚について、かなり大きな不安を持ってるって事なの……? 一人で抱えきれないような?


 だとしたら、何を不安に思うんだろう。


 この前ちょっと考えた事が、ユリーシャの頭の中に浮かんだ。サキ様が実は浮気性じゃないだろうかとか、金使いが荒くないだろうかとか、子供を甘やかしてばかりで子育てをきちんとやってくれるだろうかとか、そんな事を心配してるの……? と、結構、緊張した。


 クレイは、かなり真剣な表情だった。そして、かなり真剣な前置きをした。おかげでユリーシャは一層緊張した。


「これを尋ねるのは、俺もだいぶ勇気がいるんだが、真面目に聞いて欲しい」


「はい」


「客観的に見て、俺の将来性をどう思う?」


「はい?」


「何も隠さずに訊くのなら、俺はいつかサキと釣り合う男になれると思うだろうか。それが知りたいんだ」


「…………」


 ユリーシャはマジで思った。


 あなた、騎士最強の誉れ高い『天騎士』様ですよねえ!? 聖女様とピッタリお似合いだと思いますよ!? それで釣り合いが取れないって言うなら、サキ様と釣り合いが取れるのって神ぐらいしかいませんけど!? 馬鹿なんですか!?


 だが、クレイはよくわからない事を一人で喋っている。何だか既視感がある様子でペラペラと。


「正直、サキには俺の将来性に期待してもらうしかないと思っている。だが、それまではサキに辛い気持ちをさせてしまうだろうし、苦労も数多くするだろう。そもそも、こんな俺に将来を期待してくれと言える価値があるのだろうか。そういう風に悩んでいてな」


 だから! 悲劇の主人公みたいな顔してアホな事を言わないでもらえますか! こっちはマジでビックリだったんですけど! あなた、自分の事を何だと思ってるんですか!? 喋る植物だとでも、思ってるの!?


「それで、ユリーシャ。俺の将来性についてどう思う? お世辞抜きで、本当に正直に言ってくれ。例えそれがどんなに辛い現実でも俺は受け入れるつもりだ」


「いやもう、そういうのいいんで。なんか聞いててイライラするだけなんで。サキ様の事が好きなら、とっとと結婚までこぎつけて下さいよ。釣り合うとか釣り合わないとか、どうでもいいじゃないですか。そこに愛さえあれば。二人がそれで幸せになれるのなら」


 しかし、クレイはその返答に全く共感しなかった。それどころか、上から目線でなんか言ってくる。


「……まだ若いな、お前は。羨ましい限りだ」


「うるさいんですけど!」


 流石に腹を立てたユリーシャだったが、前に不敬罪がどうので怖い思いをした事があったので、即座にクレイに謝った。「暴言吐いて、すみませんでした」と、かなり不満気に。「でもですねえ、我が主様」と彼女はその調子のまま続ける。


「一番大事なのは、我が主様の気持ちと、サキ様の気持ちですよね? 仮に我が主様がサキ様と釣り合ってなかったとして、それで我が主様は諦められるんですか? サキ様にそう言うんですか? 自分とじゃ釣り合わないから、結婚は出来ない、他の人を探してくれって。それが出来なかったから、今、こうなってるんじゃないんですか?」


「…………」


 クレイはそれに対して、何一つ反論が出来なかったのである。


 結局のところ、クレイはサキを諦めるなんて事が出来ないのだ。諦められるのなら、片想いを8年もやっていない。諦められるのなら、こんなに苦しく辛い思いをしていない。諦められるのなら、自分がこんなにも惨めでみっともない存在だと嘆く事すらなかった。諦められるのなら。


 ……この日、クレイは一つの決心をして、ユリーシャに頼み事をした。サキの薬指のサイズを彼は知りたかった。


 そして、それを教えてもらった後、他都市へと出掛けた。ライザニア地方には宝石店がないからだ。彼はそこで指輪を買ってきた。


 ただしそれは、サキにプロポーズする為ではなく、『告白』と同時にサキに贈る為にだ。


 そして、『とある記念日』が来るのを、不安と緊張で押し潰されそうになりながら待った。彼はその日に、どうしてもサキに『指輪』と『ある物』を贈りたかったからだ。

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