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ある日のブライアン


 王都であるイーストシティに戻って暫くしてからブライアンは国中を巡る旅を再開する。


 旅と言っても実際には転移の魔法で移動をし、夕刻には自宅に戻ってくるので旅と言うほど大袈裟なものではないが。


 肩にフィルを乗せて飛んだ先は王国南部の辺境領の少し北側にあるエリアだ。王都から辺境領内へと続く南北を結ぶ街道は広くそして綺麗に整備されているがそこから枝の様に東や西に伸びている街道は人が多く通るわけでもないので何とか馬車で移動できると言った程度の整備しかされていない。


 その街道を魔法で綺麗に整地しながら進んでいくブライアン。


『なるほど。こうやって道を整備するのもそこに住んでいる人の役に立つのね』


 肩に乗ってブライアンの仕事振りを見ているフィルが言った。


「そういう事だよ」

 

 ブライアンは杖の先を地面に向けて凹凸を綺麗に直しながらゆっくり街道を進んでいく。整地しながら歩いていると森の中に道が続いていた。森に入るとフィルは肩から飛んで木々の間を飛び回る。顔を上げるとフィル以外の妖精達も姿を現して楽しそうに木々の間と飛び回っていた。


 それを見てから再び地面を綺麗にしつつ街道を進むブライアン。道の整地の間は転移の魔法が使えないのでゆっくり丁寧にやっているとそれだけでもう昼過ぎになってしまった。


 今日はここまで、帰るよと声を出すと遊んでいたフィルが戻ってきた。


『魔力が多くて良い場所よ。明日もこの森にくるんでしょ?』


「そう。明日はここから先の道を整地していくよ」

 

 自宅に戻りリリィさんが作ってくれた昼食を食べるといつもの午後のお休みタイム。

 誰かにせかされることもなくマイペースで暮らすブライアン。



 翌日は昨日の続きで森の中の街道を整地して進んでいると森を抜けた街道の先に周囲を木の柵でおおわれている村が見えてきた。整地している道は村の門に続いている。どうやらあの村がこの道の終点の様だ。


 道を整地しながら村の門に近づいていると門の側に椅子を置いて座っていた男性が立ち上がった。年齢は50代の半ばくらいだろう。日焼けした顔をしている所を見ると村で農作業をしている人かもしれない。


「こんにちは」


 肩にフィルを乗せたブライアンが門に近づくと声をかけた。


「こんにちは。その肩に乗っとるのは何ですかね?」


「妖精ですよ。フィルっていう名前があります」


『フィルだよ、よろしく』


 そう言って肩の上で立ち上がると優雅に一礼をするフィル。見ていた男性はびっくりだ。


「妖精さんを見る日が来るとは。ところで見ておりましたがこの村へ続く道を綺麗にしてくれてたのですかな?」


 村の人から見ればローブを着て杖を持っておれば魔法使いと分かる。そして魔法使いなら自分達よりも身分が上だろうと年上でもブライアンに敬語を使ってくるのだ。これは過去からずっと続いているので今更直すのも難しいだろう。年上から敬語で話しかけられると今でも背中のあたりがむずがゆくなる。

 

「そうなんですよ。時間がある時にあちこちの村を周っては皆さんが困っている事のお手伝いをしているんですよ」


 そう言うとそれはそれは大変でしょう、まぁどうぞと村の中に案内してくれる。初老の男性に言われるまま門をくぐると柵の中の村はグレースランドの田舎に多くある村と同じでこじんまりとした民家に畑そして村の中央近くには池がある。ここには数百人の村人が住んでいる様だ。


 畑に目を向けると今も何人かの村人が作業をしているのが見えた。


「のどかで良い村ですね」


 村の中を歩きながらブライアンが言うと隣を歩いていた男が嬉しそうな表情になる。


「そういって頂くと嬉しいですな。あっ、挨拶が遅れましたが私はこの村の村長をしておりますリヨンと言います」


 村長さん?


「えっと村長さんが村の門番をしているですか?」


 彼の方に顔を向けて言った。ブライアンの言葉に頷く村長。


「少し前に私の畑の収穫が終わったんですよ。もっともそれ以前から農作業が無くて暇な時は日がな一日あの場所に座ってのんびりと過ごしております」


 なるほどと納得するブライアン。


『この村の水源、もう1つあるよ』


 肩に乗っているフィルが言った。


「私はブライアンと言います。魔法使いで王都に住んでいるんですが時間があるとこうやってあちこちを周って魔法で土を耕したり村を守る柵を強くしたりしているんですよ。道を整地するのもその1つですね。そして今肩に乗っている妖精のフィルがこの村の中で今ある水源以外にもう1つ水源があるって言っているんですよ。良かったらそちらにも新しい池を作りましょうか?」


 とりあえずその場所に行ってみようと村長とブライアンが村の中を歩いていき、家が建っていない村の中にある小さな原っぱで立ち止まった。フィルが言うにはこの下に水源があるらしい。今ある池とは村の中で正反対の場所になる。


 村長曰くこちら側は水がないので畑にできなくてこうして放置した土地になっているらしい。池を作ってくれたらここでも畑が作れて農作物を育てることが出来るというので早速作業を開始する。村長の意向を聞いてまずは池を作る周囲を広げる作業をした。これによってかなりの土地が畑として使用できる様になった。柵も頑丈にし土魔法でしっかりとした土塀を作る。村長が声を掛けたのだろう、村人が集まってきた。


 次にフィルが指さしている地点を起点にして土魔法で地面を沈めていく。池の形が出来ると今度は池の周囲を畑にすべく魔法で耕していった。これは村長初め村人の希望を聞きながら畑を作る。そしてその池から新しい畑に引く用水路を作ると最後に池の底を魔法で削ると地下から水が湧き出し、それが新しい畑の周囲に流れ始めた。もちろん最後に水が村の外にある離れた場所を流れている小川に注ぎ込む様にする。


「これでよし」


『うん、いい感じね』


 地下から水が湧き出だしてそれが池から畑に流れていくのを見ていると集まってきた村民たちが歓声を上げた。これでまた農作物が増やせるぞと喜んでいる。池から畑に流れていく水は最後は新しく作った用水路から村の外にでるので水が貯まって澱むことがなく常に畑には新しい地下水が供給される様になった。


 そう。こういう人達の為に魔法を使いたかったんだよ。人殺しの為じゃない。ブライアンが喜んでいる農民を見ながら思っているとその思いが伝わったのかフィルも良かったねと肩に座ったままでブライアンの肩を叩いて褒めてくれた。


 褒めてくれたお礼にペリカの実を上げるとこれよこれ!わかってるじゃないとむしゃぶりつくフィル。いつもこの時は女王様の威厳は全くない。


 村人からお礼だと沢山の農産物を貰ったブライアン。ありがとうございますとお礼を言ってからその場から消え、王都の自宅に戻っていった。



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