第0話 プロローグ:雷鳴の少女
血の匂いが、焼けるように鼻を刺した。
目の前で、鋼の塊が地面を抉る。
巨大な刃が振り下ろされるたび、空気が悲鳴を上げ、冒険者たちが次々と吹き飛ばされていく。
「……なんだよ、あれ……」
誰かの声が震えた。
それは“魔獣”ではなかった。漆黒の鎧に包まれた異形の巨躯。赤い単眼が、不気味に明滅している。
――巨人兵。
この世界の理から外れた、異質の存在。
「無理だ……勝てるわけが――」
次々に姿を現す漆黒の軍勢。絶望が戦場を覆い尽くしかけた、その時。
一筋の蒼い光が、空気を裂いた。
「――退いてください」
少女の声だった。
次の瞬間。
雷鳴。
轟音とともに、峻烈な蒼い閃光が巨人兵を貫いた。
「……え?」
誰かが、間の抜けた声を漏らす。
巨人兵の身体が――斜めに、ずれた。
遅れて、崩壊。
轟音とともに漆黒の巨体が両断され、地面へと崩れ落ちる。
静寂。
その中心に立っていたのは、一本の蒼い剣を手にした少女であった。
淡い蒼を帯びた髪が、風に揺れる。
光を受けるたびに銀にも見えるその色は、どこか現実離れした神秘を帯びていた。
「……終わりました」
その声は、あまりにも静かで。
あまりにも現実離れしていた。
*
その光景を、遠くから見下ろす者たちがいた。
瓦礫の上。誰にも気づかれることなく、ただ静かに佇む複数の影。
一人は、銀の髪を風に揺らし。
その隣には、白金の鎧を纏い、紅蓮の髪を一つにまとめた騎士が控えている。
「……あの子ったら」
その声は、誰にも届かない。
蒼い剣を振るった少女を見つめる黄金の瞳が、わずかに細められる。
「この世界を変えるには、十分すぎる力ね」
わずかな間。
そして――
「だからこそ、私が守る価値がある」
小さく、しかし確信に満ちた声。
隣に控える騎士は何も言わず、ただ静かに頷いた。
小さく、満足げな吐息。
次の瞬間、影は風に溶けるように消えた




