叱責
―――難は去った。
ゲーム同好会部室前にて、『掃除屋』のお陰で危機を凌いだ篝たち一同。
「ブルーノくん、大丈夫?」
「ああ、なんとかね・・・」
「大事とってしばらく休め。無理して死なれる方が迷惑だ」
「そうさせてもらうよ」
未だに腹の違和感がぬぐえないのか、少し変な笑顔を浮かべるブルーノに篝が手を差し伸べる。そうして立ち上がらせた所で、ふと『掃除屋』の元へと向かったベルリアの様子が気になり、そちらを向いた。
そこでは、何故かすこぶる不機嫌な姉となんで怒っているのか分からないという表情で戸惑うベルリアの姿があった。
「・・・何があった?」
篝が首を傾げていると、唐突に姉の方が口を開いた。
「フィリアから聞いた。奴隷を取ったってどういうことだ?」
その予想外の言葉に、篝は目を見開く。ベルリアも顔を青くしていた。
(は?その事!?)
「答えろ。一体どういうつもりでそんな事した」
「お、お姉ちゃん、私は、その・・・」
見るからに怒っている。察するにベルリアが奴隷を取った事が信じられないのだろう。
『確かにそういう事しない感じだよねあの子』
「こりゃ早々に誤解解かないと拙いぞ・・・」
そうこうしている内に、『掃除屋』がベルリアに詰め寄る。
「答えろ。場合によっちゃあ、説教だけじゃ済まさね―――」
「話割り込んで悪い!」
言葉を失っているベルリアを助けるように、篝が口を挟む。すると『掃除屋』の鋭い刃のような視線が篝へと向けられる。
その視線を難なく受け止めつつ、篝は言葉を選びながら答える。
「んだよてめぇ」
「ベルリアの奴隷ってのは俺のことだ」
「・・・は?」
注意をとにかくこちらへ向けさせるために、篝はとにかく事実だけをぶつけた。
それを証明するように、変身を解除し、本来の姿を見せる。
「な!?」
「天城篝だ。今は奴隷として『ガリリ』の名で通ってる」
全ての話を聞いた後、ベルリアの姉はこめかみを抑えてそれはそれは深いため息を吐いた。
「つまり、このアンヌメンシスで仲間が迷子になったから、そいつ見つけるまでしばらくここに身を寄せようってことか?」
「まあ、そんな所だ」
ゲーム同好会部室内にて、ベルリアの姉にして『掃除屋』である『ネルリア・アスカ』は、額を抑えて険しい顔を浮かべていた。
何しろ非現実的な情報が多すぎるので、それを処理するのに時間がかかっているのだろう。
「ご、ごめんなさい、お姉ちゃん・・・」
「いや、まあ、お前が何かしらふざけた理由で奴隷取ったってんならぶん殴ってたところだが、それよりもぶっ飛んだ事が多すぎて怒る気失せた・・・」
未だに現実を受け止めきれてない様子でなんとか話しを進めようとするネルリアは、篝を見る。
「それで、アマギカガリ・・・だったか?お前なんで男なのに戦姫になれんだよ」
「俺が聞きてえよ」
『僕も知りたい』
ネルリアの疑問にそう答えるしかない篝。そこでアネットが非常に不機嫌な様子で篝に文句を垂れ始める。
『全く。君は自分の希少性を全く分かってない。所かまわず正体を明かす事が一体どれくらい危険な事か分かってるの?』
「いや姉妹の仲に亀裂が入る方が問題だろ」
『それ以上に関係のない人間も巻き込むかもしれないってことだよ!』
アネットの姿は篝にしか見えていない。その為、彼女の端正な顔が眼前に迫って仰け反った篝の様子に全員が首を傾げる。
『分かってるの!?君の力はこの時代において存在してはいけない異端を通り越した排除すべきバグなんだよ!?下手にバレればどこからともなく暗殺者なり始末屋が襲い掛かって余計な被害が広がる可能性があるんだ!今までどこにいたのか知らないけど、こんな人目や監視カメラの多い場所で所かまわず変身してたら、いつか君が関わった人間が必ず不幸になる!そのことを肝に銘じて自重しろ!』
「お、おう・・・」
まさかここまで声を荒げるとは思わず圧倒される篝。その剣幕は声だけでも分かったのか、周囲にいる者たちも驚いていた。
『いい!?今後人目のあるところで変身するの禁止!止むをえない場合でも君の正体が周囲の人間にどんな影響を与えるか考えること!いい!?』
「わ、分かった・・・」
アネットの剣幕に逆らう事が出来ず、篝はただ頷く事しか出来ない。
そんな様子を見て、ネルリアは不思議そうな顔を浮かべていた。
「・・・リンカーの姿が見えんのか?」
「あ?ああ・・・俺以外には見えていないらしい」
「へえ・・・」
ネルリアは値踏みするように篝を見る。
その視線を受けて篝が気味悪がった事に気付いたのか、ネルリアは両手を挙げて無害のポーズを取った。
「普通、リコレクトリンカーってのは言葉を話すことは出来ない」
「そうなのか?」
「というか、会話する事自体不可能っていうのが普通だ。理由は色々あるが、アタシが一番納得したのは、別の存在だからっていう話だ」
「別の存在?」
「そ、犬がわんわん咆えるのを怒ってんのか腹減ってんのか分かるけど、実際に何を言ってるのか分からねえだろ。基本的に、戦姫とリコレクトリンカーの関係はそう言ったもんだ。飼い主とペット。もしくは―――」
『使い手か道具か、と言った所だね。まあ、基本的にリンカーは道具として使うのが普通だから当たり前だけど』
「つまり・・・道具が喋るわけないからそいつが何をしゃべってるのか分からない。多少の反応はあっても、そいつが実際に何を思ってるのかは分からないとか、そういう感じか」
篝は納得した様子で頷いた。
つまり、動物と会話する事の出来る篝はまさしく特異体質という事なのだろう。
男でありながら戦姫になれるという異常に更に別の異常が重ねっていてもおかしくはないだろう。
「まあ、考えても仕方ねえ。お前が戦姫になれる。それだけ分かれば十分だ」
「そりゃあどうも・・・」
「それとベル」
「はい!」
ひとしきり納得したのか立ち上がったネルリアは、妹であるベルリアの方を見る。突然声をかけられたベルリアは、びくりと姿勢を正してしまう。そんなベルリアの様子を気にせず、ネルリアはそっとその頭を撫でた。
「無茶はすんなよ」
「あ、うん・・・分かった」
注意されたベルリア。しかし、頭を撫でられたことが余程嬉しかったのか、頬を染めてはにかむ。
そんなベルリアの様子を呆れたように肩を落として、ネルリアはゲーム同好会の部室を出ていく。
「ああ、そうだ。アマギカガリ」
「なんだ?」
「ベルに変なことしたら殺す」
最後に特別製の釘をぶっ刺して、ネルリアはばたん、と扉を閉めていった。
その特大の釘が突き刺さった様に見入るように、静かになった部屋の中で。
「・・・何を?」
ぼけっとした顔でミリーゼがそう呟いた。
「あー、酷い目にあった」
日も暮れて茜色に染まった空を窓から眺めながら、篝は寝転がってそうボヤく。
『全く、君はどうにも迂闊が過ぎる。そして自己犠牲が過ぎる』
「師、曰く、俺は『自分勝手』らしいからな」
『言えてる』
などとぼやいているとふと背後で悲鳴が上がった。
「ギャアアアアアアア!!?」
寝転がったままそちらを向けば、丁度格ゲーをしていたサブラ姉妹、その姉の方が今まさに惨敗している姿があった。
「ウギギギギギ・・・!!!」
「うぇい」
今すぐにでも誰かを絞め殺しそうな顔で悔しがる姉ミリーゼとなんとか仏頂面を保ちながら両手拳を振り上げるエリーゼ。聞くところによると、どうやらエリーゼの方が勝ち越しているらしい。
と、勝者と敗者が決まっているその隣、テレビとは別のパソコンの方では無言、無表情、しかし手は消えている二人の男女の目の前の画面では、もはや何が起こっているのか分からないレベルの攻防で繰り広げられていた。
ダカダカダカダカダカダカダカダカダカダカ・・・・
「「・・・・」」
「「・・・・」」
異次元の攻防を前に、姉妹はむきゅ、となるしかなかった。
そんな彼女たちの様子を、篝は苦笑いをしながら見ていた。
『呑気な・・・明日は危険な冒険の旅に出るっていうのに』
「ブルーノはダメだし、リザも外に出られないが、まあなんとかなるだろ。それにここにはスーパーパワーガールがいる」
「それ、私のことですか?」
ふと声がしたので頭上の方へ視線を向けると、そこには笑顔で立っているベルリアの姿があった。どこか圧がある。
「・・・パンツ見えてるぞ」
そげぶっ!
「前が見えねえ・・・」
『今のは篝が悪い』
顔が陥没するほど踏み潰された篝の横に、怒ったようにむくれるベルリアが座る。
「全くもう、篝は今まで出会った男の子たちとは全く違いますね」
「はっ、男のくせに女になれる珍獣扱いされる奴だぞ。まともな感性を求める方がおかしい」
と、篝はへこんだ顔をなんとか元に戻して大袈裟に両手を広げて見せる。
表情もおちゃらけた笑顔だ。
「篝は、今までどういう風に生きてきたんですか?」
「なんだよ藪から棒に」
「他の男の人たちは、みんな下を向いています。でも、あなたはずっと前を向いています。誰もが怖気づく状況に、あなたはすぐに突っ込んでいきます。いっそ死に急いでいるかのように」
「そう、見えるか?」
「はい、清々しいほどに」
ベルリアが笑顔でそう言うので、篝は苦笑を零すしかなかった。
「・・・まあ、人には恵まれたからな」
「人に?」
「ああ。俺も、いつも見る他の男は、どいつもこいつももっさりとした顔で下向いてばっかの奴ばっかりだ。その癖、生きる為には他の奴を蹴落とす気満々の奴らばかりで、そういう輩に襲われた事もあった。まあ、全員殴り倒してやったが」
「あらぁ・・・」
「俺は、元々女に育てられたんだ。いわゆる母親代わり」
「お母さんがいたんですか?」
「まあな。でも、その人が死んで、勝手が何も分からない世界に放り出された後は、とにかく生きるのに必死になって、暴れるだけ暴れた。んでその後、俺に戦い方を教えてくれる今の師匠に拾われた。そいつも女だ。俺が使ってる武術はそいつから学んだ」
篝は天井を見上げたまま、静かに語り出す。
「多くの事を教えてくれた人。俺に戦い方を教えてくれた人。俺を友達だと思ってくれる人・・・そういう奴らに恵まれたから、今の俺がある。だから、お前の言う通り、死に急ぐほど真っ直ぐになれたんだろうよ」
「良い人たちなんですね。まるで、私にとってのゲーム同好会みたいです」
「その通りだな」
『・・・・人、か』
ふと、そんな風に仲良く話す二人の様子に、年上であるアネットは、つまらなそうに、しかしどこか遠くを見るような眼差しを向けていた。
遅くなって土下座




