16.食事は1日3食、きっちり摂りましょう。
まだ2週間未満ではあるが、毎日の登下校に誰かがいて、毎日屋上でお弁当をみんなでつまんでいる。
竜牙が持ってくるお弁当は最初こそ豪華だったものの、重箱が2段で卵焼きや唐揚げ、ポテトサラダのような定番のおかずや白米にごま塩だったり桜でんぶが散らされていたり、中身もすぐに落ち着いた。
不味い物は一切なく、どれも普通に美味しい。
定期的に竜牙が「嫌いな物はあるか?」と聞いてきたけど、何でも食べられて文字通り好きも嫌いも無い日和にとっては助かる救済である。
昼食を殆ど抜いていた日和にとってはそんな光景も慣れてきたものだ。
そして祖父のいなくなった一人だけの家にも、日和は慣れ始めていた…のだが。
そんな中、日和はちょっとした危機的状況に直面していた。
がば、と冷蔵庫を開ける。
中は新品が届いたように何もなかった。
「んー……食べる物が無い」
今日で水曜日だが、ここ最近買い物に行った記憶がない。
今までは米を炊き、冷蔵庫に入ってた物や祖父のお菓子等を食べていたが、それも尽きた。
つい先ほど竜牙に送ってもらった所なので、連絡して再び外へ出るのも正直面倒くさいし申し訳ない。
考えに考えた結果、日和は夕食と朝食を抜く事を選んだ。
そして木曜日の朝。
今日のお迎え担当は波音だった。
「おはよ、日和。朝食はちゃんと食べた?」
「うん、食べ――」
――ぐううぅぅぅぅ。
気軽に嘘をつこうとした瞬間、盛大にお腹が鳴った。
しばしの静寂、むわりと嫌な空気が流れた。
「……」
「……」
がっつりと視線が合って、互いに無言になる。
「…日和、ちゃんと食べた???」
波音が最高の笑顔で迫ってきた。
心の中で、大量の汗が流れる。
あまりの笑顔に殺意を向けてにっこりと笑う焔を思い出した。
数多の思考を巡らせて回避する方法を計算したが、回答する術がない。
日和は観念して正直に話すことにした。
「えっと…昨日の夜から、食べてないです…」
この後日和は1時限目を犠牲に、まるで火薬庫に火を投げられたように酷く怒る波音に、こっぴどく説教された。
そして帰りも波音が担当をし、商店街へ寄る事も約束された。
ちなみに朝食は1km弱遠回りをして最寄りのコンビニでパンとおにぎりを食べている。
これといって気になるものはなかったが、そもそもコンビニ自体中々行かない日和にはあまりにも新鮮だ。
『波音波音、これなんですか?』
『これ?どう見てもおにぎりじゃない』
『どうやって開けるんでしょうか!気になります…!』
『今買って食べたらいいんじゃないかしら』
『はっ…!そうですね!じゃあこれで大丈夫です』
『……本当にそれで足りるの?もう少し食べておきなさい』
『……じゃあ、パンを一つ…』
日和の嘘など波音にはとうにお見通しだったらしい。
でも遅刻の原因はおにぎりだった。
フィルムを全部バラしてじっくりと観察してしまった日和が原因だ。
「――……っていう事があってね」
昼になり、いつものように弁当を囲む4人。
だがその内の一人、波音は「はぁ…」と大きく深いため息をつき、卵焼きを口に放り込む。
「それならそうと言えばいい」
「す、すみません…」
真っ直ぐに竜牙はそう言うので、日和は謝罪の言葉しか出なかった。
「もう、だからちゃんと食べてる?って聞いてるのに…。だめだよ、日和ちゃん――」
めっ、とお母さんのように叱りつける玲の表情も中々に厳しいものがある。
「――ちなみに最近まではどうしてたの?」
「え?」
「え?」
しかし玲の言葉はそれで終わらなかったらしい。
本人は何の気も無く聞いているつもりだろうが、日和はぴくりと体を反応させ、少し瞳孔が開いた目で玲を見る。
「……えっと、どうしてたの?」
再度聞いてくる玲の表情は笑っているが、その声は更に冷えてお叱りのように怖い。
「……い、家に残っていた食べ物を…食べてました、よ?」
一応、事実を伝えている。半分くらいは。
「どうなの?波音」
「えっ!?――」
玲の笑顔は波音に矛先が向き、波音の体もビクリと跳ねた。
「――に、日曜日の買い物で余った食材は日和の家にそのまま置いてったけど…そもそも冷蔵庫にはあまり入ってなかったから…え、あれが昨日の朝まで保つの?」
サンドイッチに使われた野菜やチーズ、卵。
正直に申し上げると、それらは全て火曜日の夕飯を最後にお腹に押し込められた。
元々残っていた分も月曜日等で食べてしまっていた為に何も無いのを忘れ、水曜日の朝は昼にまたお弁当を食べるだろうと思って気にもしていなかった。
つまり日和は水曜日の朝食と夕食を抜き、木曜の朝食さえも抜こうとしていた。
「……日和、ちゃん?」
再び玲の笑顔が日和を捉える。
これはもう、言い逃れができない。
ちらりと何も言わない竜牙を見ると思い切り視線を外されていた。
「あ、あの……ご、ごめんなさい…」
「だめです」
「ぴっ」
素直に謝ってみるとぴしゃりと怒られ、思わず上ずった声が変に出た。
「……日和ちゃん、前々から言いたかったことがあるんだ。ご飯は、ちゃんと食べよう?ね?」
「う、あの…」
「ご飯は一日の活力なんだよ?生きるために必要な事なんだ。今まで、毎日、ちゃんと、しっかり、食べてたんだよね…?」
玲の気迫の混じった笑顔に日和の表情が青ざめた。
日和は過去、食事を抜くことも比較的多かった。
特にこうやって集まるようになった昼食は。
これは、過去の全てを吐露させられ、こっぴどく怒られるしかない。
「あ…あ、の…兄、さん…?」
「それとも、僕の言う事が聞けない…?」
「ひっ…ちゃ、ちゃんと食べる、ちゃんと食べるからっ…!」
笑顔とは裏腹に段々と冷ややかになる玲の声色に、日和の返事が恐怖に染まった。
「ごめんなさい!!」
そして響く断末魔に波音はげっそりと顔色を落とし、呟く。
「私、もう玲を怒らせないようにするわ…」
「……懸命な判断、だな…」
竜牙も深いため息をつく。
その表情は冷静に見えたが、若干引きつっていた。
神宮寺師隼
12月24日・男・25歳
身長:178cm
髪:白
目:金。たまに青くなる
家族構成:なし。兄が居た
好きなもの:手芸。酒。(嗜む程度には)
嫌いなもの:生ものが一切食べられない。野菜類込み。
真っ白老人のような髪ですが地毛。基本着流しに羽織。
体格も細くて弱弱しい、というか病人感溢れている。実際体弱め。
力も無いので既に引き籠り隠居生活状態。外で見つけた君はレアだぞ!




