(七)地上へ向かう光
◆ 観測室の空白
地上では、宇宙の戦いを追う観測が続いていた。
太陽に近い方向を見られない時間が多く、報告書には空白が増えている。
見えない時間を、戦いが終わった時間だと決めることはできない。
それは、長い観測を続けた担当者たちが何度も確かめてきたことだった。
ある日、観測筒の先に小さな光が現れた。
少し離れた場所にも、別の光が見える。
さらに離れた位置には、もう一つ。
以前の三つとは色の組み合わせが違っていた。
赤と黒に加え、淡緑色の光がある。
観測筒をのぞいていた担当者が、星図を広げる同僚へ尋ねた。
「この位置、前の記録と合いますか?」
「最後の観測位置からは、かなり離れています」
「戦場そのものが動いていたはずです。向きを比べてみましょう」
担当者たちは時刻の異なる星図を並べた。
観測できない間に何が起きたかは分からない。
太陽の近くで、終焉の炎がどのような攻撃を受けたのかも分からなかった。
新しく見える淡緑色の光が、どの瞬間に二人へ加わったのかも追いきれていない。
最初の報告だけを読んだ者は、光の正体まで断定しようとはしなかった。
これまでも赤い光が一つ消えたように見えて、次の夜にはまた現れたことがある。
何が見えたかと、何が起きたかを分けて記すやり方は、今も変わらない。
別の観測設備からも、三つの光について記録が届き始めた。
それぞれが見えた位置を重ねると、光はほぼ同じ方向へ進んでいる。
互いに追いかけ合う時のような不規則な動きではない。
進行方向を示す線が、少しずつ青い星へ近づいていた。
「こちらへ向かっています」
記録係が、まだ照合していない紙を押さえた。
「まだ確定はできません。次の位置を待ちましょう」
担当者は、報告書へ新しい点を記した。
そこから先に線を延ばしすぎない。
ずっとそうしてきたように、確認できる位置だけを残した。
次の観測でも、三つの点は同じ方向へ進んでいた。
別々に動くことも、急に戦場へ引き返すこともない。
担当者の一人が椅子から立ち上がった。
何が起きたのかは分からない。
だが、向かう先だけはもう見間違えようがなかった。
◆ 地上へ向かう光
その日も、地上の観測設備では望遠鏡が空へ向けられていた。
一年以上、途切れ途切れになりながらも続けられてきた観測だった。
太陽の近くにあった終焉の炎と思われる赤い光は、もう確認できない。
代わりに、三つの小さな光が同じ方向へ動いていた。
赤。
黒。
淡緑。
「帰ってきます!」
観測室に声が響いた。
誰かが椅子を倒した。
誰かが記録用の紙を落とした。
それでも、すぐに拾おうとする者はいなかった。
望遠鏡をのぞく者。
隣の部屋へ知らせに走る者。
窓の外へ飛び出し、まだ肉眼では見えない空を見上げる者。
観測を続けていた者たちが、次々に動き始める。
歓声は観測室から廊下へ広がった。
ほかの観測設備へも、三つの光が帰還を始めたという知らせが伝えられていく。
誰もが、あの光の正体を細部まで確認できているわけではない。
それでも、長い間追ってきた光の行き先が変わったことは分かった。
最初に赤と黒の光が星を離れた時、地上に残った者たちは、戦いがどこまで続くのか知らなかった。
途中で淡緑色の光が加わっても、救援が成功したのか、新たな戦いが始まったのかさえ分からなかった。
毎日の観測でできたのは、見える光がまだ消えていないと確かめることだけだった。
戦いが終わったことを、地上の人々はまだ知らない。
終焉の炎が完全に消滅したことも知らない。
太陽の近くで何が起きたのかも分からない。
それでも、一つだけ確かなことがあった。
三つの光は、同じ星へ向かっている。
その中にいる四人は、生きて帰ってくる。
遠い宇宙を、赤と黒と淡緑の光が進んでいた。
その先には、四人が帰るべき星があった。
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