(六)満ちる器
◆ 七つ
町の向こうに、最後の分霊核があった。
低い丘の裏側、石が崩れた場所に埋まっている。
シアは真上で止まり、反応の消える一点へ手を向けた。
周囲の石を焼き抜き、赤い玉が通れる隙間を作る。
穴から浮き上がった器は、ほとんど空だった。
シアが指を曲げる。
最後の赤い玉が、ゆっくりと手元へ来た。
町を通った時とは違い、この一個を取り出すかどうかで迷うことはなかった。
どこにあるかも、どう取り出すかも分かっている。
その確かな操作と、さっき町で止まった手が同じ自分のものだった。
六個の分霊核が、その周囲で位置を変える。
新しい一個が赤い四翼の循環へ入った。
七個。
最初から持っていた二個。
岩山から取り出した一個。
人の手を経た一個。
川底と塔にあった二個。
そして、今取り戻した一個。
それぞれが、シアの精霊力を蓄えるための器になっている。
扱える七個の器が、すべてそろった。
シア自身を加えれば、力を使える場所は八つだ。
シアが右手を動かす。
七個の核が同じ方向へそろった。
別々に動かすなら、今でもそれぞれの位置と役割を選ぶ必要がある。
だが、一つの流れに乗せるだけなら違った。
四翼は、同じ動きを七個へ同時に伝える。
シアは赤い玉を見た。
そろったから嬉しいとは感じない。
セトを助けるための準備が整ったとも思わない。
離れた器が戻った。
七個が一つになった。
その事実だけが、はっきりしていた。
◆ 黒の七つ
ネアも最後の一個がある場所へ着いていた。
岩陰の下にできた浅い洞窟だった。
長い時間をかけて落ちた土砂が入口を塞ぎ、その奥へ黒い分霊核が埋まっている。
四翼の感覚には、位置が最初から分かっていた。
ネアは手をかざす。
黒い線が岩の隙間へ伸びた。
入口の土砂を少しずつ動かし、奥から物が通るだけの隙間を作る。
大きな岩をすべて動かす必要はない。
支え合う石をまとめて崩せば、分霊核まで埋まるものが増えるだけだった。
黒い玉が姿を現す。
ネアは細い流れで引き寄せた。
器は傷ついていない。
倒れた土砂の向こうには、まだ誰も触れていない古い空間が残っていた。
ネアは奥へ入ろうとはしない。
必要な一点を取り出せたなら、周囲を調べ直す理由はなかった。
原光を受け取るだけで、自分から何かを放つこともない。
最後の分霊核が、黒い四翼の循環へ入る。
これで七個だった。
ネアは手を止めた。
七つの黒い玉も、空中で同時に止まる。
次に同じ方向へ動かすと、すべてがそろって移動した。
これだけの数を個別に細かく操作するには、それぞれの流れを分けて考えなければならない。
だが、一つの動作を全体へ伝えるだけなら難しくない。
「七つ、そろいましたね」
言葉に喜びはなかった。
かつてなら、セトへ知らせようと考えたかもしれない。
シアと合流する方法も考えたかもしれない。
今は七個を集めた理由さえ、遠く感じる。
ネアの周囲で黒い四翼が開いたまま、周囲の原光を取り込み続けていた。
◆ 満ちる器
回収した分霊核は、初めから大きな力を持っていたわけではなかった。
人間には小さな宝玉に見える、ほとんど空の器だった。
火の核も、月の核も同じだった。
それでも、七個そろえば蓄えられる場所は増える。
最初から持っていた二個は、戦闘と身体の修復に使われていた。
新しく得た五個は、回収の時に薄い精霊力を受け取っただけだ。
数がそろった瞬間、すべてが満たされるわけではない。
七個という数は、完成した蓄えではなく、蓄えを置ける場所がそろったという意味だった。
以前の二核で続けた戦いと、これから七核でできることは同じではない。
シアの赤い四翼は原光を取り込み、七個の器へ流し続ける。
小さな空白だった核の内部に、少しずつ赤い光が増える。
その流れを一度も止めずに、シアは空中で静止していた。
遠くでは、ネアの黒い分霊核も同じように満たされ始めている。
ネア自身が毎回一個を選んで補充しているわけではない。
四翼の循環が、それぞれの空いた場所へ原光を送り込んでいた。
だが、七個を個別に別の場所へ動かせるようになったわけではない。
複雑な役割を同時に任せるには、今も意識を分ける必要がある。
それに対して、同じ術を同じ瞬間に流すなら、七個を一つの循環として使える。
シア自身と七個の赤い器。
ネア自身と七個の黒い器。
それぞれ八つの出口がそろった。
まだ、そこから全力を放つ理由はなかった。
二人は力を試すことなく、満ちていく核を伴ったまま次の変化を感じ取った。
※第50話「七つの分霊核」は全七回です。
続きます。
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