(七)次代再生
◆ 二つの残滓
セトも、すぐには答えられなかった。
二人の姿はない。
創界の破片も、ほとんど残っていない。
代わりに、眠りの王が消えた場所の近くへ、二つの光があった。
赤橙色の残滓。銀青色の残滓。
どちらも人の形を保っていない。
細かな原光の粒となり、周囲へほどけ始めている。
「シア」
返事はない。
「ネア」
光がわずかに揺れた。
セトには、原光の流れが見える。
二つの残滓は、ただ消えているのではない。
一度ほどけながら、別の形へ組み直されようとしている。
火の役割。月の役割。
世界へ散らず、その場へ留まっている。
「次代の再生が始まっている」
ミレナが息をのむ。
「でも、それでは……」
「ああ」
次代は、元の個人ではない。
◆ 消えるな
赤橙色の残滓から、シアの輪郭が消えていく。
銀青色の残滓からも、ネアの気配が薄れる。
役割だけを残し、個人が失われようとしているように見えた。
「消えるな」
セトは赤橙色の光へ手を伸ばした。
触れることはできない。
「シア、消えるな」
返事はない。
「ネア、お前もだ」
銀青色の粒が、風へ散りかける。
「俺は覚えてる」
セトは二つの光の間に立った。
「火の精霊王じゃない。シアだ」
赤橙色の粒が止まる。
「月の精霊王じゃない。ネアだ」
銀青色の流れが、わずかに中心へ戻った。
「お前たちは創界の中にいた。最後まで別々にいた」
セトは名前を呼び続ける。
「シア」
「ネア」
「消えるな」
◆ つながりの残り
創界は砕けた。
剣の形は、もうどこにもない。
それでも、セトの内側には二人とのつながりが残っていた。
弱く、今にも切れそうだった。
だが、なくなってはいない。
創界の中で三人は混ざらなかった。
眠りの王を分ける間も、折れた後も、最後までそれぞれの流れを保っていた。
シアの怒り。
ネアの慎重さ。
二人がセトへ返した声。
それらは役割の知識ではない。
二人が経験した記憶だった。
「戻ってこい」
セトはつながりを引いた。
力で引き寄せるのではない。
二人の名前がある場所を、何度も示す。
「シア」
「ネア」
二つの残滓が、それぞれ別の中心を持ち始めた。
◆ 次代再生
通常の次代再生とは違った。
役割が世界へ散り、一か月ほどかけて新しい王を作るのではない。
火と月の役割は、創界の中で一つに集められたまま残っていた。
そこに、二人の記憶と人格の形も残されている。
赤橙色の粒が、人の輪郭を作る。
銀青色の粒も、別の場所へ集まる。
火と月は混ざらない。
シアとネアも混ざらない。
セトとの二つのつながりが、それぞれの形を保っている。
髪が生まれる。
手が生まれる。
顔の輪郭が戻る。
新しい身体だった。
それでも、現れた姿はセトが知っている二人と同じだった。
赤橙色の髪を持つ少女。
深い藍色の長い髪を持つ女性。
◆ ネア
先に目を開いたのはネアだった。
淡い銀青色の瞳が、空を見る。
次に、自分の手を見た。
「ネア」
セトが呼ぶ。
ネアはゆっくり顔を向けた。
「セト」
名前を呼び返す。
それだけで、セトは息を吐いた。
「覚えているか」
「創界が折れました」
「ああ」
「眠りの王を分け、最後にセトが空白だけを終わらせました」
戦いの記憶がある。
「その前は」
「シアが先に創界へ入りたがりました。わたしが止めました」
ネアは少し眉を寄せる。
「何を確認しているのですか」
「お前がネアかどうかだ」
ネアは自分の胸へ手を置いた。
「次代のセレーネではあります」
少し間を置く。
「ですが、わたしはネアです。少なくとも、あなたたちを覚えています」
◆ シア
赤橙色の光が、最後に収束した。
少女の身体が地面へ降りる。
セトは倒れないよう肩を支えた。
「シア」
橙に近い金色の瞳が開く。
シアはセトを見る。
次にネアとミレナを見る。
「眠りの王は?」
「消えた」
「創界は?」
「折れた」
「私たちは?」
「一度消えて、次代として再生した」
シアは自分の腕を見た。
握り、開く。
火を出そうとすると、赤橙色の小さな炎が灯った。
「私は、次のイフリートなのか」
「ああ」
「前の私は消えた?」
「俺には、分からない」
セトは嘘をつかなかった。
「だから聞く。お前は誰だ」
シアは少し考えた。
「私は、シアだ。たぶんそうだ」
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