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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第30話 放つ・分ける・束ねる

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(七)次代再生

◆ 二つの残滓


 セトも、すぐには答えられなかった。

 二人の姿はない。

 創界の破片も、ほとんど残っていない。

 代わりに、眠りの王が消えた場所の近くへ、二つの光があった。

 赤橙色の残滓。銀青色の残滓。

 どちらも人の形を保っていない。

 細かな原光の粒となり、周囲へほどけ始めている。


「シア」


 返事はない。


「ネア」


 光がわずかに揺れた。

 セトには、原光の流れが見える。

 二つの残滓は、ただ消えているのではない。

 一度ほどけながら、別の形へ組み直されようとしている。

 火の役割。月の役割。

 世界へ散らず、その場へ留まっている。


「次代の再生が始まっている」


 ミレナが息をのむ。


「でも、それでは……」

「ああ」


 次代は、元の個人ではない。


◆ 消えるな


 赤橙色の残滓から、シアの輪郭が消えていく。

 銀青色の残滓からも、ネアの気配が薄れる。

 役割だけを残し、個人が失われようとしているように見えた。


「消えるな」


 セトは赤橙色の光へ手を伸ばした。

 触れることはできない。


「シア、消えるな」


 返事はない。


「ネア、お前もだ」


 銀青色の粒が、風へ散りかける。


「俺は覚えてる」


 セトは二つの光の間に立った。


「火の精霊王じゃない。シアだ」


 赤橙色の粒が止まる。


「月の精霊王じゃない。ネアだ」


 銀青色の流れが、わずかに中心へ戻った。


「お前たちは創界の中にいた。最後まで別々にいた」


 セトは名前を呼び続ける。


「シア」

「ネア」

「消えるな」


◆ つながりの残り


 創界は砕けた。

 剣の形は、もうどこにもない。

 それでも、セトの内側には二人とのつながりが残っていた。

 弱く、今にも切れそうだった。

 だが、なくなってはいない。

 創界の中で三人は混ざらなかった。

 眠りの王を分ける間も、折れた後も、最後までそれぞれの流れを保っていた。

 シアの怒り。

 ネアの慎重さ。

 二人がセトへ返した声。

 それらは役割の知識ではない。

 二人が経験した記憶だった。


「戻ってこい」


 セトはつながりを引いた。

 力で引き寄せるのではない。

 二人の名前がある場所を、何度も示す。


「シア」

「ネア」


 二つの残滓が、それぞれ別の中心を持ち始めた。


◆ 次代再生


 通常の次代再生とは違った。

 役割が世界へ散り、一か月ほどかけて新しい王を作るのではない。

 火と月の役割は、創界の中で一つに集められたまま残っていた。

 そこに、二人の記憶と人格の形も残されている。

 赤橙色の粒が、人の輪郭を作る。

 銀青色の粒も、別の場所へ集まる。

 火と月は混ざらない。

 シアとネアも混ざらない。

 セトとの二つのつながりが、それぞれの形を保っている。

 髪が生まれる。

 手が生まれる。

 顔の輪郭が戻る。

 新しい身体だった。

 それでも、現れた姿はセトが知っている二人と同じだった。

 赤橙色の髪を持つ少女。

 深い藍色の長い髪を持つ女性。


◆ ネア


 先に目を開いたのはネアだった。

 淡い銀青色の瞳が、空を見る。

 次に、自分の手を見た。


「ネア」


 セトが呼ぶ。

 ネアはゆっくり顔を向けた。


「セト」


 名前を呼び返す。

 それだけで、セトは息を吐いた。


「覚えているか」

「創界が折れました」

「ああ」

「眠りの王を分け、最後にセトが空白だけを終わらせました」


 戦いの記憶がある。


「その前は」

「シアが先に創界へ入りたがりました。わたしが止めました」


 ネアは少し眉を寄せる。


「何を確認しているのですか」

「お前がネアかどうかだ」


 ネアは自分の胸へ手を置いた。


「次代のセレーネではあります」


 少し間を置く。


「ですが、わたしはネアです。少なくとも、あなたたちを覚えています」


◆ シア


 赤橙色の光が、最後に収束した。

 少女の身体が地面へ降りる。

 セトは倒れないよう肩を支えた。


「シア」


 橙に近い金色の瞳が開く。

 シアはセトを見る。

 次にネアとミレナを見る。


「眠りの王は?」

「消えた」

「創界は?」

「折れた」

「私たちは?」

「一度消えて、次代として再生した」


 シアは自分の腕を見た。

 握り、開く。

 火を出そうとすると、赤橙色の小さな炎が灯った。


「私は、次のイフリートなのか」

「ああ」

「前の私は消えた?」

「俺には、分からない」


 セトは嘘をつかなかった。


「だから聞く。お前は誰だ」


 シアは少し考えた。


「私は、シアだ。たぶんそうだ」



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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