epilogue
カイドが永遠の眠りについた春が過ぎて、季節は一巡した。
今日は、アタシの誕生日だ。
リン、リン。
ドアのベルが鳴る。
扉を開けば、花屋のおじさんが黄色い花束を抱えて立っていた。
「リリーボレアさん、お届け物です」
「花束……誰かしら」
アタシはその花束を受け取った。花束にはカードが差し込んである。
特徴的に跳ね上がる、Kの文字。
――カイド。
アタシはパッ、と顔を上げておじさんの顔を見た。
帽子を目深にかぶっていた彼は、皺だらけの目尻をさらに細め、優しく微笑んでいた。
「お代は既に頂戴しております――この先百年分、毎年妻の誕生日にと花束とカードをご注文されました。私が死んでも息子に引き継ぎますので、ご安心を」
花屋のおじさんが帰った後、アタシはカードをじっと見つめていた。
まだ中を開けない。何が書いてあるんだろう。
緊張感が指先を通り抜け、震えとなってカードに伝わる。
アタシは大きく息を吸い込み、カードを開いた。
『僕の弟子であり妻であるリリーボレアへ
やあ、僕だよ。驚いたかな?流石にまだ僕のこと忘れていないよね?
この手紙を君が読んでいるということは、僕は死んでしまったんだろう。
何を書こうか、悩んでいるよ。
論文も著書もたくさん書いてきたけど、こういう私的な手紙は実のところ――あまり、書いたことがないんだ。
だから、心を込めて書いているよ。その証拠に、いつもよりも字が綺麗だろう?
寂しい想いをさせてしまってごめんね。
分かっていたことだけれど、今君の隣に僕がいないことがとても――寂しいよ。
でも、君は悲しみから立ち上がる強さを持っている。だんだんと僕を思い出す日も少なくなっていくだろう。
もう大丈夫だと思ったら、花束を止めてもらっても構わない。
その日までは、毎年この日を楽しみに生きて欲しい。
きっと君に花束を贈りたいと思う男はこの先現れるだろうからね。
でも、そうだな。選ぶなら、僕の花束があってもいいと言うような、器量の広い男にしておきなさい。
手紙って、こんな感じでいいのかな。では、また来年。 君の師であり夫でもあるカイドより 』
視界が滲む。
彼の文字を、指でなぞった。
白いカードに込められている、深い想い。
あなたを愛せてよかった。
ただ一人に注いだ愛情。
これは、一生分の恋だ。
百年後のカードには、何が書かれているだろうか。その時、アタシはまだカイドを恋しく想うのだろうか。
これだけは分かっている。
アタシはカイドを忘れない。
忘れられない。
忘れたくない。
星に還るその日まで、祝福の魔法は消えることなく続いていく。
午後三時を告げる鐘の音が聞こえた。
花束を花瓶に移し替え、テーブルに飾る。
舌が痺れるくらいに甘いココアを飲みながら、もういないカイドのことを想った。
今日もあなたを想う花は、心の一番大切な場所で咲いている。
どれだけ長い時を刻んでも、きっと枯れることはない。
それがアタシは、なによりも――誇らしいのだ。




