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第五幕:真久郎、凜の世界を知るのこと

子供たちだけで遊びに行って、お泊り会をして、凜の社会は確実に広がって行きます。

「いつまでも籠の鳥にはしておけない」

優香の言葉を、真久郎はどう受け止めているのでしょうか。


第5幕、ショッピングモール編とお泊り会編、お楽しみください。

  At The Hop


 十一月三日、文化の日。K市最大の駅裏ショッピングモールはひと際賑わっている。各テナント、フードコート、キッズルーム、そしてゲームコーナー。

 そのゲームコーナーに、六年五組修学旅行男女A班六名の姿があった。


 凜を筆頭に林小春ちゃん、八雲縁ちゃん、藤田悠真(ゆうま)くん、那須原大翔(ひろと)くん、ちょっと影の薄い幽谷(かそだに)(ひびき)くん。

 今はエアホッケー・トーナメント決勝戦、凜と藤田くんの第三セットの真っ最中だ。

 汗が飛び散る。男子陣営と女子陣営に分かれて声援が飛ぶ。

 そして凜の渾身のシュートが藤田くんのゴールを割り、勝負がついた。


「ああー、負けたああー!」


 藤田くんががっくりと膝を突いた。


「ナイスゲーム!」


 凜が差し伸べた手を取って立ち上がる藤田くん。凜は記念の自撮りをしたくなって、藤田くんの首に腕を回した。


(わーっ、わーっ、当たってる! 当たってるー!)


 ほっぺにむにゅっと押し付けられた柔らかさ。体温と汗の匂い。藤田くんはパニック寸前だ。


「凜ちゃん近い近い近いーッ!」

「高山ちゃーん! ストップ! すとーっぷ!」

「悠真てめー! 離れろー!」

「藤田くん死んじゃうー!」


 他の四人も大騒ぎ。


「凜ちゃ~ん。気を付けないとダメだよぉ」


 小春ちゃんが半泣きで凜を向こうの方へ連れて行き、鼻血を吹いて気絶した藤田くんを他の三人がベンチに寝かせて介抱している。


(ちょっと前まで男の子だったんだから仕方ないとは言うものの。あたしの苦労、続きそう)

(こうなったら、あたしが正しい女の子のあり方を教えてあげなきゃ!)


 頭を抱える小春ちゃんだった。



 縁ちゃんがプリクラに行きたいと言い出した。


「ええ? 男が入っていいのかよォ」

「大丈夫だって、僕らと一緒なんだから」


 男子三人は渋ったけれど、凜に引っ張られて女子の聖域に足を踏み入れることになった。

 一番大きな機体。それでも六人じゃギューギュー詰め。凜は前にお兄ちゃんたちと撮った時のことを思い出した。狭いのが気にならないのは僕だけらしい。

 女子が前列、男子は後列。女子たちは平然としているけれど、男子は逃げるようにじりじり下がる。


「ほらほら、もっと寄って。入り切らないよ」

「ちょっとー、そんなにくっつかないでよー」

「いや、お前だよ!」


 なんとか全員がフレームに入った。さて撮影と言う段になって——那須原くんと小春ちゃんが同時に気付いた。それは……。


「悠真、お前こっち来い。近過ぎんだよ」

「はい凜ちゃんはこっち。あたしと交代」


 そう、また。

 本人だけが気づかないまま、凜と藤田くんがくっついていた。二人がそれぞれの列の中央にいたせいで、全くの偶然なのだが。

 その二人を引っぺがして両端に配置する。


「だからくっつくなってお前!」

「あーうるさい(笑)撮るよー!」


 フラッシュが弾け、シャッター音が重なった。その瞬間だけ、全員が同じ笑顔だった。



 那須原くんが『お腹が減った』と言ったので、少し早いけどお昼ご飯にする。フードコートは既に満席。


「どんだけ待てばいいのかな」


 幽谷くんがぽつりとつぶやく。


「もうハンバーガーにしようぜ」


 那須原くんが言った時、二組の家族が席を立った。丁度六人。でも間に一つテーブルがあって二と四に別れている。


「じゃあ藤田と那須原はあっちねー」


 小春が迷いなく席次を決めた。


「そんなんありかよー」


 トホホ……と肩を落とす二人。那須原くんと小春ちゃんがそれぞれのテーブルを代表して食券を買いに行った。

 凜の正面に座っている幽谷くん。あまり話したことは無いけれど、ドッジではいつも一緒。


「幽谷くん、何頼んだの?」

「炒飯。高山……さんは?」

「僕は海老ドリア。ここの、美味しいんだよねー」

「そうなんだー」


 藤田くんに限らず、どの男子にも同じ距離感(めっちゃ近い)の凜を、縁ちゃんは不思議そうに——そして少しだけ面白そうに眺めていた。

 注文の品が揃った時、偶然にも間のテーブルの客が席を立った。

 これはチャンス! 藤田くんと那須原くんは自分の皿を持って移動し、テーブルをくっつけて六人掛けにした。ただし藤田くんの席は凜の斜め前、隣は那須原くんのものになった。

 反対側の隣? もちろん小春ちゃんだ。


 幽谷くんの炒飯が湯気を立て、香ばしい油の匂いを運んで来る。


「美味しそう……」


 凜の呟きが幽谷くんの耳に届いた。


「ん? 食べる?」

「いいの?」

「一口だけだよ」


 凜が幽谷くんの炒飯をひと匙すくって食べ、満足そうに微笑む。


「じゃあお礼上げるね」


 ザ・ワールド! 周囲の時間が凍り付いた。


「はい、あ~ん」


 凜が海老ドリアをひと口分、自分のスプーンに乗せて幽谷くんの口もとに差し出したのだ。


「どうしたの? 食べないの?」


 幽谷くんの肩が上がり、呼吸が止まった。


「い……頂きます……」


 恐る恐る、幽谷くんが口を開け、凜がスプーンをその中に突っ込んだ。


「どお? 美味しいっしょ?」

「は、はい。結構なお点前で……」


 凜は、他の四人が完全に凍り付いている事に、全く気づいていない。


(何アレ……何なんだよあれ……)

(響……ズルいぞお前……)

(アウトだよな……)

(ああ、アウトだ)


 テレパシーで会話する藤田くんと那須原くん。

 なおこの後幽谷くんは、抜け駆け禁止同盟(←協定からランクアップした)に無理やり加盟させられたと言う。



 お腹がいっぱいになった後はウインドーショッピングの時間。小学生のお小遣いでは小物くらいしか買えないから、ファッション関係は見るだけだ。

 誰にどれが似合うの、タレントの誰に似ているのと、まあ賑やかなこと。男子三人はとっくの昔にあっちの方で背景に溶け込んでゲームなどしている。

 凜も本当はそっちに混ざりたかったのだけれど、小春ちゃんと縁ちゃんがそれを許すはずもなかった。


「凜ちゃん見てみて、これ可愛い~」

「ポケット多いね! ケータイとゲームとモバイルバッテリーとデッキと財布と……全部入りそう」

「高山ちゃん、見るとこ違うって(笑)」


 次のテナントでのことだった。凜には解らないけれど、女子には結構人気のブランドらしい。

 眺めていたら優しそうな店員さんが声を掛けてきた。


「試着してみません?」

「でも、お金ないですし……」

「いいんですよ~。ファッションショーしちゃいましょう」


 まず縁ちゃんが試着室に入った。彼女が選んだのは薄い紫色の緩やかなワンピース。白い襟とフリルが際立つ、王道の可愛さだ。

 次は小春ちゃん。ちょっと背伸びして、フォーマルっぽいブラウスとスカート。


(どっちも可愛いなあ)


 口を開けて眺めている凜に、縁ちゃんが言った。


「次は高山ちゃんの番だよ」

「ふぇ?」

「凜ちゃん、もう選んだんでしょ?」


 凜ちゃんのことだから、きっと何を着ても似合うだろう……。

 でも凜が選んだのは、ざっくりしたカッターシャツとハーフパンツ。期待を見事に裏切られ、でも予想通りと言えば予想通り。小春は天井を仰ぎ、縁は下を向いて肩を震わせる。


「凜ちゃん(泣)」

「まるで男子(笑)」

「げ……元気系でよろしいんじゃないでしょうか」


 店員さんがフォローしてくれたが、小春ちゃんの中に決意が生じた。


(あたしが凜ちゃんを可愛くする!)

(そう言えばあたし、凜ちゃんのスカート姿一度も見たことない!)


「凜ちゃん、スカート何枚持ってる?」

「え? も、持ってない……」

「やっぱり」


 小春ちゃんが選んだのは、ブラウスと水色のカーディガン、同系色の膝丈サーキュラースカート。スカートの裾には温暖前線をイメージしたと言う白いライン。さて、どうなるか……。


 いつの間にか男子グループも店内に来ていた。ゲームにも飽き、本屋を回った挙句退屈を持て余したらしい。

 試着室のカーテンが開いた。おお……とどよめきが走る。


「めっちゃ可愛いよ!」

「うん。似合ってると思う」


 幽谷くんが抜け駆け的に感想を述べると、那須原くんも負けじと続く。


「高山ちゃん、ボーイッシュだけじゃなかったねー」

「藤田ァ、こんなありがたい事ないからちゃんと見た方がいいよ(見なよ……俺の凜を……)」


 一人だけ黙っている藤田くんに、小春ちゃんが感想を求める。だがそれでも、藤田くんは何も言わない。ただ黙って凜を見つめるだけだ。

 凜は藤田くんと目が合うと、ついそっぽを向いてしまった。


「お客さま、姿勢がいいからなんでも似合いますよ~」


 店員さんに声を掛けられそれまで俯いていた凜が顔を上げた。


「はい! 鍛えてますから!」


 ダメだこりゃ……と頭を抱える小春ちゃんだった。


「ねえねえ林ちゃん、私たちでこれ買ってあげない?」

「あ!」


 ナイスアイディア! 独りでなら厳しいけれど、分担すれば何とかなる。


「え? いいよ、そんなことしなくて……」


 凜が遠慮しても、小春ちゃんも縁ちゃんも譲ろうとしない。仕方なく凜も三分の一負担することで妥協しようとしたら、男子たちもお金を出すと言い出した。


「あのね男子ぃ」


 小春ちゃんが立ち塞がる。


「これは女子のお話だから」

「そだねー。男子は遠慮してくれる?」


 確かに……と納得する藤田くん。えっちな下心があると思われても嫌だし……。


 お会計の時、店員さんから「ここで着て行きます?」と聞かれた凜は全力で否定した。


「無理無理! 絶対無理です!」


 小春ちゃんだけでなく、そこにいた全員がそれはそれは残念そうな顔をしていた。


 まだ三時前だけど、お小遣いも乏しくなって来たので、今日はこれで帰ることにしよう。

 郵便局前でバスを降りたらそこで解散。幽谷くんと那須原くんは右へ、凜、小春ちゃん、縁ちゃん、藤田くんは左へ。

 五分歩いたところで藤田くんが「俺こっちだから」と言った。


「あ、あのさ、高山」

「?」

「その……似合ってたよ……あの服」

「……バカ///」


 聞いていた小春ちゃんが噴き出した。

 三人になってさらに三分後。ここで小春ちゃんともお別れ。


「ねえねえ。今度の三連休、うちでお泊まり会しない?」

「お泊まり会?」

「うん。いいでしょ? 一杯お喋りしようよ。服も貸してあげる。サイズ合わないかもだけど!」

「わたしは日曜の夜から先約あるから、土曜からならオッケー」

「よっしゃ!」


 凜はちょっとの間考え込んだ。


「お兄ちゃんがいいって言ったらね。その代わり小春ちゃんたちも泊まりに来てよ」

「うん! お兄さんに会えるの楽しみ!」

「楽しみはいいけど……取らないでよ?」


 凜の声が少しだけ低くなる。


「ぶははっ! なにそれー(笑)」

「わたしもお兄さんに会いたいなー。参観日に見たけど、かっこいいもんねー」


 凜の口調があまりにも真面目だから、小春ちゃんは大笑いしてしまった。



「ただいまー!」


 玄関には鍵が掛かっていた。中に入ると、お兄ちゃんはソファーにひっくり返って居眠り中だった。


(助かった!)


 凜は胸をなでおろし、自分の部屋に降りてスカートの入った紙袋をクローゼットにしまい込んだ。

 もう一度リビングに上がる。お兄ちゃんはまだ寝ていた。

 足音を立てないように忍び寄り……そっとその隣に横になった。




  I Only Wanna Be With You


「ふがっ!?」


 左腕の重みと、甘く柔らかな汗の匂いに目を覚ます。いつの間にか凜が添い寝していて、脚まで絡めている。


(友達と遊びに行ったんじゃなかったのかよ)


「おい、起きろ」

「あ、お兄ちゃんおはよー」

「おはよーじゃねえ。こういうのやめろって言ったろ」

「いいじゃん別にー」

「よくねえの。なんか飲むか?」

「うん。カフェオレがいい」

「よし。じゃあ俺の分も入れてくれ」

「なにそれずるい」

「今日遊びに行けたのは誰がお小遣いくれたから?」

「ぐぬぬ……」


 真久郎、一本勝ちであった。凜が入れてくれるカフェオレがすっかり休日の楽しみになっている。


「お兄ちゃんが入れた方が美味しいのに」

「俺は凜が入れたやつを飲みたいんだよ」

「じゃあお兄ちゃんのは僕が入れるから、僕の分はお兄ちゃんが入れて」

「なんじゃそりゃ(笑)」


 結局二人でキッチンに立つ。冷蔵庫を開けて牛乳を用意する凜の背中は、たった三ヶ月で随分と大人びたように思えた。



「今度の三連休なんだけど……」


 カフェオレを飲みながら、凜が恐る恐る切り出した。


「お泊り会に誘われたんだ。縁ちゃんも一緒に、小春ちゃんの家で」

「ほう、いいじゃないか。……まさか男子はいないよな?」

「いるわけないじゃん(笑)強いて言えば僕だよ(笑)」

「はっはっはっ。違いない(笑)」

「それでね、土曜に小春ちゃんのとこに泊まったら、日曜の夜はうちでお泊りしたいなって……」

「おう、構わないぞ。向こうはそれでいいのか?」

「うん。小春ちゃんはお兄ちゃんに会いたがってる。縁ちゃんは都合で来れないんだけど」

「そうか、それは残念だ。でもこっちは問題ないから。優香姉ちゃんには俺から言っとく」

「ありがとー! お兄ちゃん大好き♡」

「そりゃどうも」


 一緒にカフェオレを飲んで、一緒にゲームをして、一緒に晩ご飯の支度をして、お姉ちゃんが帰って来たら三人でご飯を食べて、お姉ちゃんが『凜ちゃんと一緒じゃないとお風呂に入らない』ってわがまま言うから仕方なく一緒に入って、いつも通りの高山家の夜が過ぎて行く。


 夜、布団に入った凜はスマホの画面を見つめながら独りニヤケていた。


(楽しみだな……)



 あっという間に三週間が過ぎ、お泊り会当日が来た。

 予定では小春ちゃんの家で二十一日(土)の午後から二十二日(日)のお昼まで。そこで縁ちゃんは帰るけれど、二人は高山家に移動して二十三日(月・勤労感謝の日)の夕方まで。

 凜は縁ちゃんと途中合流して、午後三時に到着した。


「いらっしゃ~い!」


 呼び鈴を押すと小春ちゃんが飛び出してくる。何度も遊びに来ているけれど、今日は何か特別な感じがする。


「入って入って! おやつの準備できてるよ~」


 相変わらずテンション高い小春。

 リビングに向かおうとすると奥から男の人が二人出て来た。一人は小春のお兄さん。凜は一度だけ会った事がある。凜を可愛いと絶賛してくれた人。

 もう一人はお父さんかな?


「あれ? お父さんたちどこか行くの?」

「小春たち女子会するんだろ? 邪魔しないように友諒(ともあき)と出掛けることにした。今夜は帰らないから安心しろ」

「え~? そこまでする~?」

「こっちが恥ずかしいんだよ、察しろよ(笑)」


 そう言いながら小春と軽くボクシングごっこをするお兄さん。小春のパンチは一発も当たらなかったが、お兄さんのは最後に小春の脳天にヒットした。


「痛ってえ~!」


 二人が出て行った後のドアに向かって悪態をつく小春。まったく、仲が良いのか悪いのか。


 リビングに入るとお母さんが迎えてくれた。テーブルにはショートケーキと紅茶が並ぶ。


「わっ、これ『ひのえや』のケーキ!?」


 小春のテンションが更に上がった。


 おやつの後はファッションショーが始まった。お母さんが次から次へと持って来る可愛い服に着替えて、まるでアイドルの撮影会だ。

 その中心が凜ちゃんなのは言うまでもない。


「凜ちゃんスタイルいいから、おばさんも気合入るわ(笑)」


 大きな一眼レフを構えて、ストロボを四つも使って、本当に気合入れてる。


「凜ちゃんってスカート履かないからさー。もったいないよねー」

「あら、そうなの?」

「この前買ってあげたんですけど、一回も学校に履いて来てないんですよ」

「あらあらまあ」

「だって恥ずかし過ぎるじゃん」

「何が恥ずかしいの?」

「脚出ちゃうし、その……パンツ見えそうだし……」


 小春が堪え切れずに笑い出した。


「凜ちゃん、普段から見えてるよね。ショーパンの時とか隙間から」

「そうそう。男子から『見えてる』って言われても平気じゃん。『こんなの見て楽しいの?』って言って」

「いや、そうなんだけど……それはそれって言うか……」

「じゃあインナー穿けば?」

「いんなー?」

「そう。パンツの上に穿くやつ。知らないの?」

「知らない……」


 小春が持って来たそれを呆然と見つめる凜ちゃん。


「女子ってこんなの持ってたんだ……」

「あんたも女子でしょ!」

「高山ちゃんて時々女子力低いよね」

「これで学校にも来れるでしょ?」

「いや無理」

「なんでっ!?」

「……一番大事な時に取っておきたい」

「一番大事な時って?(例えば、藤田くんとデートの時とか?)」

「そんなの分かんないよ……」


 ファッションショーは続く。メイクを試したり、ヘアアレンジに挑戦したり。


「凜ちゃんもっと髪伸ばしなよ~。その方が色々試せて楽しいよ、きっと」

「え~? 洗うのめんどいじゃん」


 凜ちゃんの男の子みたいな反応に、縁が吹き出した。


 晩ご飯の後は三人一緒のお風呂タイム。

 小春のところのお風呂は個人住宅にしては大き目だけど、それでも三人では少しばかり狭すぎる。順繰りに湯船に入ってスペースを作る。

 小春がお湯に浸かっている時に縁が抜け駆けを始めた。


「高山ちゃん、背中流してあげる」

「え? 遠慮します」

「いいからいいから」


 ボディーソープを掌にたっぷり取って、タオルを使わず直接背中を擦り始める。髪を洗っている最中の凜ちゃんは逃げることも抵抗することも出来ない。

 小春はその光景を野獣の眼光で見つめていた。


「ずるーい! あたしもやるー!」


 我慢し切れずお湯から飛び出し、自分もソープを取って凜ちゃんの体を洗い始めた。背中は縁に取られちゃったから、小春は前側担当だ。


「あひゃひゃひゃひゃ(笑)やめてやめてやめて(笑)」


 恥ずかしいよりくすぐったい。笑いが止まらなくなる凜ちゃんだった。


「高山ちゃん、結構大きいよね」

「カクサゼセイを要求する!」


 泡だらけの身体で凜ちゃんをサンドイッチにして、大笑いの大騒ぎ。

 キッチンでは、微かに響いて来るその声を聞きながらお母さんがお風呂上がりの冷たい飲み物の準備をしていた。



 小春の部屋は和室だった。今どきの子にしては珍しく、ベッドは使わない。


「だって布団上げちゃえばお部屋広くなるじゃん?」


 そこへ客用のお布団を敷いて三人雑魚寝をするわけだ。『修学旅行・第二段』みたいで、既に楽しい。

 縁は髪が長いので(腰まで伸ばすと言って頑張っている)ドライヤーに時間が掛かる。凜ちゃんと小春はお菓子とジュースを持って先にお部屋に入った。


 レエェッツ! パーリナーイッ!!


「凜ちゃん凜ちゃん」

「ん?」

「えいっ!」

「わっ!」


 小春が不意打ちで袈裟固めを仕掛けた。不意を突かれ、凜ちゃんは為す術も無く下敷きにされた。


「なに? どうs」


 小春は凜ちゃんに最後まで言わせず唇を塞いだ。


「んんっ」


 凜ちゃんもジタバタするけどびくともしない。小春は週一で柔道教室に通っているのだ。


「んぐぐ」


 小春の舌が口の中に入って来て、凜ちゃんの舌と絡み始めた。最初は暴れていた凜ちゃんも、やがて大人しくなった。

 凜ちゃんの身体から力が抜けたのを確かめ、小春が唇を離した。凜ちゃんは口を開けたままぽけーっと天井の染みを数えている。


「凜ちゃん。これはね、教育だから。自分が女の子だって分からせてあげる」


 勝手なことを言って小春はまたほっぺにキスし始めた。


 チュッ♡

 チュッ♡

 チュッ♡


 音を立ててキスの雨が降り注ぐ。凜ちゃんは時々痙攣するだけで全くの無抵抗だ。

 調子に乗った小春は、凜ちゃんの首筋にキスして、パジャマのボタンを外して胸元にキスマークを付けた。


「どお? 女の子になれそう?」


 コクリ……と凜ちゃんが肯いた。小春は満足そうに笑みを浮かべた。


「じゃあ起きて。そろそろ縁ちゃん来るよ」


 凜ちゃんが布団の上に座り直してパジャマのボタンを留め終わったのと、縁が襖を開けたのがほぼ同時。縁はお部屋の空気がそこはかとなくピンク色に染まっているのを見て怪訝な顔をした。

 高山ちゃんは真っ赤な顔でぼんやり天井を見てゆらゆら揺れているし、林ちゃんはそんな高山ちゃんをニヤニヤしながら眺めている。


 どうしてこうなった。



 いや、そんな事よりパジャマパーティーの時間だ。口うるさい先生たちもいないし、修学旅行の時よりワクワクする。

 縁のタブレット端末でME‐YUBE動画を流しっ放しにしながら、さっそく自撮りタイムが始まった。

 お互いのパジャマを評価し合い、写真を撮り合い、縁は自前の自撮り棒を使って、小春はお母さんから借りたスマホ用の三脚を使って記念撮影。

 手持ちで撮るしかない凜ちゃんは少しだけ肩身が狭そうだったが、他の二人は全然気にしていなかった。


「林ちゃん、撮って撮って!」


 縁が凜ちゃんのほっぺにチューしてる。


「ずるーい! あたしもー!」


 負けじと小春も凜ちゃんのほっぺにチューする。面白がってシャッターボタンを押しまくる縁。

 凜ちゃんの両側から二人同時にチューしながら、縁の自撮り棒を使って撮影。


「今度は高山ちゃんの番」

「えー? そんなの恥ずかしいんだけど……」

「恥ずかしくないよ。女の子同士のコミュニケーションじゃん」

「えー……怒られないかなぁ」


 渋々……と言うか恐る恐る、縁のほっぺに唇の先端を着ける。


「そんなんじゃダメ、もっとしっかり!」

「むぐっ!?」


 小春に後頭部を押されて、縁がコケるほど強力なキスになってしまった。


「はい、今度はあたし!」


 小春が自分のほっぺを指差す。


「ええ~……」


 凜ちゃん、縁の時より躊躇いが強い。


「遠慮しないの、高山ちゃん」


 縁に促されて顔を近付けると、小春は自分で凜ちゃんを抱き寄せてチューさせた。


「むぐぐっ!」


 照れる凜ちゃんの反応が可笑しくて、大笑いしながら代わる代わる何度もチューさせる。

 そうしたらお母さんから「いつまで騒いでるの!」と怒られてしまった。


 灯りを消して布団に入るが、こんな楽しい夜がそれで終わるはずがない。

 さあ、恋バナの時間だ。


「高山ちゃんはぶっちゃけどんな人が好き?」

「どんなって言われてもなー」

「アイドルとか芸能人で言うと?」

「テレビ見ないから分かんない」

「ええ? もったいなーい!」

「だってお兄ちゃんとゲームしてる方が楽しいし」

「「男子か(笑)」」

「じゃあさ、クラス男子のランキングやろ?」

「いいねえ!」

「なにそれ怖い……」

「まず顔。一番は誰?」


 それから「運動神経ランキング」だの「優しさランキング」だの、次々と名前が挙がる。更には「彼氏にするなら」「結婚するなら」etc.etc.……。

 凜ちゃんが喋らないので質問することになる。


「高山ちゃんは彼氏にするとしたら誰? やっぱり藤田くん?」

「ふぇっ!? な、なんで?」

「結構仲良しじゃん。手も繋いでたし」

「藤田もぜったい凜ちゃんのこと好きだよねー」


 真っ赤になる凜ちゃん。余計なことを思い出させてしまった。


「藤田くんは……友達だよ。ドッジ仲間……」

「「ほんとぉ?(無邪気)」」

「ほんとホント(笑)」

「じゃあさじゃあさ、クラスの中では誰がタイプ?」

「う~ん。分かんない」

「凜ちゃん誰か好きな人いないの?」

「うーん。思いつかない」

「好みのタイプってないの? 背が高いとか」

「あー。背は高い方がいいよねー」

「ふんふん。顔とか髪型は?」

「それはどうでもいいけど……大人っぽい方がいいかな」

「お、具体例キター!」

「それでそれで?」

「僕を守ってくれそうな人……かなあ?」

「ウチらの周りで言うと?」

「……お兄ちゃん……みたいな?」

「「ぶふっ!」」


 クッキーの粉が気管に入り、咽る二人。


「……僕、なんか変なこと言った?」

「(ゲホッ、ゲホッ)いやあ、凜ちゃんらしいなって(笑)」

「(ゲホッ、ゲホッ)お兄さんカッコいいからね。仕方ないね(笑)」


 小春と縁、二人は顔を見合わせて、同時にひっくり返ったのだった。


「高山ちゃんのお兄さん、今いくつ? だいぶ上だよね?」

「此間の誕生日で二十五」

「十三歳上かー。付き合うのはちょっと無理かも」

「カッコいいお兄ちゃんは憧れるよねー」

「小春ちゃんだってお兄ちゃんいるじゃん。ダメなの?」

「あんなんコドモじゃん(笑)」

「でも仲良さそう」

「ケンカばっかだよー(笑)」

「そうなの?」

「林ちゃんのお兄さんて何歳?」

「十五」

「中三?」

「そう」

「じゃあ若過ぎるよねえ」

「何歳ならいいのさ(笑)」


 やがて凜ちゃんが寝落ちして、小春と縁は視線を交わして微笑みを浮かべた。凜ちゃんを起こさないようにそっと濃厚なキスをして、二人とも布団に潜り込んだ。




  If I Needed Someone


 日曜日の朝。身支度と食事が終わったら今度は小春の部屋で動画鑑賞会が始まった。お互いお薦めの動画を見ていると、あっという間に時間が融ける。

 お昼ご飯を食べたら第一夜は本当に終わり。縁とはお別れの時間だ。

 火曜にはまた学校で会えると言うのに、何故か胸がキュンとする。


「ねえ、公園で遊ぼうよ」


 縁の提案で近所の児童公園に行くことになった。林家から高山家へ向かう途中にある、少し大きめの富士見公園。

 そこへの移動中のこと。


「あ……あのね、小春ちゃん、縁ちゃん。一つお願いがあるんだけど……」


 モジモジと恥じらう凜ちゃんの姿に、二人の目はキラリと……いや、ギラリと輝いた。


「なになになに?」

「高山ちゃんのお願いなら、わたし何でも聞いちゃうよ?」


 凜ちゃんは二人の勢いに気圧されながら、目を合わせることなく言った。


「僕がスカート持ってること、お兄ちゃんには言わないで欲しいんだ」

「え? なんで?」


 素っ頓狂な声を出す縁。


「そっかー。恥ずかしいんだねー、凜ちゃん」

「学校にもまだ穿いて来てないもんねー」


 アハハ……と笑ってから、二人はようやく気付いた。


「「まだ秘密だったの!?」」


 男子と密着するのは平気なのに、スカート姿を恥ずかしがる。高山ちゃんって不思議な子……。


 その時丁度公園に着いた。

 縁は刻限まで三人でお喋りしようと思っていたのだけれど、クラスの本条くんを含めた男子数人がサッカーをやっているのを見た凜ちゃんが「入れてー!」と飛び込んで行ってしまった。

 ちょっとだけズッコケる縁。


(ほんと男子みたい……でも可愛い)


 その横で、小春はひっくり返ってお腹抱えて笑い転げた。スカートがずり上がっているのにも気づいてない。


「ちょっと林ちゃん! パンツ! パンツ丸見え!」


 縁が大きな声で叫んだものだから、男子が二人くらいこっちを見たまま固まってしまい、その隙に凜ちゃんがゴールを決めた。


 午後二時、凜ちゃんをサッカーチームから引き剥がし(凜ちゃんも本条くんも不満そうだったけれど)ベンチでお喋り。

 二時半、縁が帰って行った。

 凜ちゃんの家へ向かう時間だ。

 またサッカーに戻ろうとする凜ちゃんの襟首を引っ掴んで、小春は公園を後にした。


 凜ちゃんのアパートが見えて来た。凜ちゃんのスマホが音を立てる。


「あっ」

「凜ちゃんどしたん」

「お兄ちゃん出掛けてる。パン粉切らしてたんだって」

「ありゃ。鍵は?」

「持ってる。一応ね」


 そう言った時の凜ちゃんの寂しそうな瞳。


(この子、本っ当にお兄ちゃん大好きなんだなあ)


 小春はなんだか却って微笑ましくなって来た。誰もいないお家に帰るなんて、いつものことなのに。

 地下の凜ちゃんの部屋に降りる。相変わらず男の子みたいな部屋。まあ中身が男の子だったと知って違和感は無くなったけど。

 それでも知り合って約三カ月でかなり改善されたと思う。


 隠されたスカートを探し出そうとする小春と、隠し切ろうとする凜ちゃんとの、言葉にはならない熾烈な争い。

 その最中、突然凜ちゃんが部屋を飛び出した。訳が分からず、慌てて後を追う小春。

 階段を駆け上がると、左手にエコバッグをぶら下げた真久郎が戻ってきたところだった。


「おかえりーっ!」


 凜ちゃんが抱き着く。真久郎は転びそうになっている。


「ただいま。待ったか?」

「ちょっとだけ」


 二人はお互いの背中に手を回して、見つめ合って、お兄さんは凜ちゃんの髪を撫でて……。()るで()スする()秒前って感じ。


(はぁ~。尊い(てえてえ)……)


 思わず伏し拝む小春だった。


 三時のおやつはパンケーキとウインナーコーヒー。

 パンケーキはともかく、生クリームたっぷりのウインナーコーヒーは小春には初体験だ。


「これね、お兄ちゃんのお得意なんだよ」

「マジ? お兄さんの手作りなんですか!?」

「そうだよ。気に入ってもらえたかな?」


 真久郎お兄さんが微笑む。

 本当は、おやつは凜ちゃんの部屋で食べてもらってお兄さん自身は上でのんびりするつもりだったそうだ。でも小春がお兄さんも是非一緒にと懇願するものだから急遽自分の分もコーヒーを淹れることになった。

 ただし真久郎は大人のブラックだ。


「こんなの初めて! すごく美味しいです!」

「そりゃどうも」

「凜ちゃん羨ましいなー、こんな素敵なお兄さんがいて。ねえねえ凜ちゃん、ウチの兄貴と取り換えっこしない?」

「しなーい」


 子供らの会話を微笑みながら眺める真久郎だった。


「あれ? お兄ちゃん砂糖は?」

「ん? ああ、めんどいから入れなかった」

「しょうがないにゃあ」


 凜ちゃんがシュガーポットから砂糖をひと匙、お兄さんのカップに投入する。

 それをニヤニヤしながら眺める小春。


(仲良しだなあ……)


「お兄さん、すっごくオトナですよねえ」

「そう? まだ二十代なんだけど」

「ウチの兄貴とは大違いですよお。あいつすぐケンカ売って来るし」

「友達みたいでいいんじゃない? ウチは年が離れ過ぎてるから親子みたいだしね」


 お兄さんが苦笑する。


 午後五時半、晩ご飯の支度が始まった。メニューはカツカレーだそうだ。やったぜ、とガッツポーズを決める小春だった。

 凜ちゃんとお兄さんが並んでキッチンに立つ。小春もお手伝いを申し出たのだが、お客さまなのだからと丁重にお断りされた。


 ソファーに座って二人の背中を見つめる小春。

 テレビは点いているが音声が辛うじて耳に届く程度、全神経が凜ちゃんとお兄さんの横顔に集中している。


 凜ちゃん、玉ねぎを刻むのが巧い。あたしには出来ないよ、あんなこと。

 お兄さんはとんかつの準備をしている。卵を溶く、お肉に衣を着ける、その手際の良さ、もしかしたら母さんより上かも……。

 サラダに取り掛かった凜ちゃんは時々『これでいい?』みたいな顔でお兄さんの方を見上げる。

 お兄さんは『OK』と言うように微笑みを返す。


(なにこれ、ラブラブじゃん……兄妹(きょうだい)……だよね?)


 カレーが煮込みの段階に入った。とんかつはまだトレーの上だ。


「カツは揚げ立てで食べたいからね。もう少し後でね」


 凄い!

 小春はお兄さんの拘りに驚嘆した。ウチのお母さんならきっと面倒がってさっさと揚げちゃう。


 晩ご飯の時間まで、三人でババ抜きをすることにした。

 小春のジョーカーを凜ちゃんが引いたが、お兄さんはそれを華麗に回避した。ムッとする凜ちゃん、可愛い。

 何度やってもジョーカーは凜ちゃんで止まる。


「だってお前、解りやすいんだよ(笑)」

「もうやだ、お兄ちゃんのイジワル!」


 とうとう凜ちゃんが泣き出した。


「小春ちゃん、場所代わって!」

「はいはい(笑)」


 さて、今度はどうなりますか……。

 ジョーカーが凜ちゃんの手から小春の手に移った。お兄さんが内心を窺うように手札に指を掛ける。


「これだ!」


 見事にジョーカーを引き当てた!


「あれえ?」


 凜ちゃんが笑い転げる。


「うるせえ、さっさと引け」


 なんだかお兄さん、子供みたいなところもあるんだなあ。

 しかし凜ちゃんは余裕の表情、巧みにジョーカーを回避する。


「お兄ちゃん分かりやすいんだもん」

「ぐぬぬ……」

「あ、お鍋噴いてるよ」

「おっといけねえ」


 なし崩しにババ抜き勝負が終わった。


 お鍋にルウが投入され、カレーの香りが部屋に満ちた頃。玄関の呼び鈴が鳴った。


(なんだろ。宅配便?)


 小春は首をかしげたが、凜ちゃんが『お姉ちゃんだ』と言って立ち上がった。


(お姉ちゃん?)


 却って小春の疑問が膨らむ。


 ゆっくりと歩いて行った凜ちゃんが戻って来た。だが小春は息も出来ないほど驚かされた。

 凜ちゃんが、ものすごくきれいなお姉さんを連れて来たからだ。


(誰? 新キャラ?)


「あら、初めまして~」


 顔中疑問符だらけの小春に、そのお姉さんは優雅に挨拶した。


「優香です。よろしくね」


 小春は救いを求めるように凜ちゃんに顔を向けた。


「小春ちゃん、お姉ちゃんのこと知らなかったっけ?」

「知らないよォ。お兄さんと二人暮らしじゃなかったの?」


 小春たちは大人の邪魔をしないよう、一旦凜ちゃんの部屋に降りている。


「お兄ちゃんのお嫁さんになる人だよ。言ってなかった?」

「言ってない言ってない」


(お兄さん、恋人いる……って言うか、婚約してたんだ……)

(じゃあじゃあ、さっきの凜ちゃんとのアレは何?)

(え? え? え?)


 これは大変なことになった……小春は体が震えるのを感じた。


「おーい、ご飯だよー」


 お兄さんの声が一階から響いて来た。



 正直に言うと、小春はカレーの味を思い出せない。

 それどころじゃなかったからだ。

 テーブルの長辺、キッチン側にお兄さんとお姉さん。リビング側に小春と凜ちゃん。

 それはいい。いいのだが……。

 何も言わず福神漬けを正面のお兄さんの皿に乗せる凜ちゃん。お兄さんは何も言わない。ただ微笑んだだけだった。

 小春の福神漬けはお姉さんが取ってくれた。


「あ……ありがとうございます」


 お姉さんが優しくて親切な人なのは良く分かった。サラダも取ってくれたし。


「あのー、お兄さんと優香さんって……」

「お兄ちゃん、サラダこれくらいでいい?」

「おう」


 マヨネーズをかけて小皿を渡す凜ちゃん。

 おやつの時と違って居心地が悪くて、なんだかすごく落ち着かなかった。


 お風呂の時間になった。


「いつもはお姉ちゃんと一緒に入ってるんだー」


 凜ちゃんの突然の告白に、小春の脳はフットー寸前だ。ここへ来る前はいろいろ悪戯してやろうと計画していたけれど全部棚上げ。

 一緒にお湯に浸かりながら、何気なさを装って聞いてみた。


「凜ちゃんは、お姉さんのことどう思ってる?」

「めっちゃ優しい」

「それだけ?」

「う~ん。時々お兄ちゃんより頼りになる。女の子の日とか」

「げほっ」


 昨日と違って、パジャマパーティーもあまり盛り上がらなかった。人数が減ったからと言うのもあると思うけど。

 何より、あのお姉さんの存在がショックだった。


 凜ちゃんと一緒に同じ毛布に包まって、昨日より高い密着度の中でぼんやり考える。


 この家庭って、実は結構変なのでは?


 今夜も先に寝落ちした凜ちゃんにチューしながら、小春は寝付けない夜を過ごした。



 遅めの朝ごはんの時、お姉さんはもういなかった。お仕事に行ったそうだ。


「お姉ちゃん、おやすみは平日なんだー」


 なるほど。時々凜ちゃんがお家に呼んでくれない時があるけど、あれはお姉さんが家にいるからなのか……小春の名推理が光る。


 凜ちゃんのお部屋でゲームをしたり、ぬいぐるみで遊んだり。

 お昼ご飯にパスタをごちそうになって(パスタソースはお兄さんの手作りだそうだ。凄い人だなあ)少ししたら二泊三日のお泊り会はおしまい。


「楽しかったよ、凜ちゃん」

「僕も! またやろうね!」

「うん! じゃあまた明日、学校で!」

「また明日! ばいばーい!」


 小春ちゃんを見送り、ドアが閉まると凜がその場にへたり込んだ。


「おいおい、どうした」

「つ……疲れた……」

「はっはっはっ。良かったじゃないか、女の子の輪に入れて」

「でもさ」

「うん?」

「小春ちゃんと……」

「小春ちゃんと?」

「チューしちゃった///」


 真久郎の笑いが止まらなくなった。一説によるとその笑い声は優香が帰るまで続き、アパートの上と隣の部屋から苦情が入ったそうである。


  (続く)



一見ほのぼの家族に見える高山家。

そこに小春ちゃんと言う第三者の視線が加わることで、実態が明らかになる回となりました。


これからどうなることやら。

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― 新着の感想 ―
今回は小春と言うフィルタを通した高山家の解剖回でしたね。 凜が女子のディープな洗礼を受けつつも、やっぱり帰る場所はお兄ちゃんの隣であるという軸がぶれないところが愛おしいです。 藤田くんが別れ際に行った…
幽谷くんラッキー! 小春ちゃんとの百合百合シーンをもっと下さい!
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