第65話 気持ちが変わる
「アンタ達みたいな奴が馬鹿にすんなや」
桑原さんは男達の前に立ち、言い放つ。
「なっ、なんだよ……」
「集団でイキって女子一人相手にナンパする連中が一人で庇ってくれる戸松君を馬鹿にするな言うとんのや」
桑原さんの言葉を聞いて男たちはうぐっと苦しい顔になる。正論を言われてタジタジなのだろう。
「う、うるせえ。ちょっと美人だからって調子に」
男達の一人が桑原さんに手を出そうと腕を振り上げる。
「や、止めてください。手を出したら通報しますよ」
俺は慌てて前に出て叫ぶ。他の人達もこちらの様子を見ているし証人は沢山いる。
「ちっ、もう良いや。行こうぜ」
男達は通報という言葉に怖気付いたのか舌打ちをしながら何処かへ行ってしまう。何とか助かったみたいだ。
「はあ〜、怖かった〜」
桑原さんは気が抜けたのか崩れ落ちて地べたに座り込んでしまう。俺も緊張がとけてため息を付く。
「大丈夫?」
「あ、うん。平気平気」
そうは言うが立ち上がれないのか座り込んだままだ。
「歩けないようならおぶっていこうか?」
「え、ええ?そないな事させられへんよ」
桑原さんは俺におぶられている姿を想像したのか恥ずかしそうに顔を赤くしている。
「でも立てないんじゃ」
「だ、大丈夫やって……」
桑原さんは立ち上がろうとするので俺は掴まれる様に手を差し出す。桑原さんは一瞬ビックリしていたが意図を察したのか俺の手を握って立ち上がる。
「あ、ありがとう……」
桑原さんは顔を赤くしながらお礼を言う。桑原さんはそのまま帰り道を歩き出したので俺は並んで様子を見ながら付いていく。ちなみに荷物は俺のほうが多く持つようにしている。
「なるほど。二人はこれにやられたんか……」
「何か言った?」
桑原さんは小声で何かを言ったみたいだが小さすぎてよく聞こえなかった。大丈夫なんだろうか。
「ううん、何でもない……」
「本当?顔まだ赤いから緊張しているのかと」
怖い目にあったんだから仕方ないよなあ。
「平気やって。そんなに心配せんといて」
桑原さんは笑ってそう言ってみせる。少し虚勢を張っているのかもしれないが本人がそう言うなら様子を見るか。
「でもありがとうな。二回も助けてもらって」
「いや、大した事してないよ。困ってる女子を放っておくほど廃れてないだけ」
「ううん。さっきもカッコ良かったで」
「いやいや、通報するよって言っただけだし」
カッコいい人なら腕っぷしで追い返しちゃうだろうし。
「そんな事無いよ。もっと胸張って良いと思うで」
「さっきの連中にもダサいって言われちゃったし」
知らない女の子に声をかけちゃうのはどうかと思うがビジュアルはまあまあカッコ良かったし、ナンパなんかしなくてもモテそうだったのに。
「あんな奴ら、集団じゃないと女の子一人口説けん半端者やん」
「……」
迷惑をかけられたから仕方ないとはいえ辛口だな。俺も女の子を口説く事なんて出来ないけども。
「まあアイツ等が悪いな。まあでも、俺だって女子を口説いた事無いし、出来ないだろうなあ」
「……、無自覚って怖いんやね」
え、それってどういうこと。女子を口説いたことなんて一度たりとも無いんだけど?
「……、ねえ」
「どうした?」
桑原さんは立ち止まって下を向きながら俺に話してくる。
「戸松君って竹之内さんや溝口さんの事を好きではないんよな?」
「……、勿論友達としては大好きだよ。でも」
「……」
彼女が聞きたいのは俺が女の子として二人を好きかと言うことだろう。何故いきなりそんな事が気になったのだろう。
「恋愛感情っていうのは……、ちょっと分からないんだ」
「……、そうなんや」
俺の言葉に満足したのか桑原さんは再び歩き出す。俺の前に出ているので今彼女がどんな顔をしているのか分からない。
「ねえ、今から私もさ……」
「え?」
「ううん。何でも無い」
桑原さんは満面の笑みで振り返り俺を見つめる。俺はそれを見てドキッとしてしまう。
「はよ帰らんとみんなお腹空かして待っとるで」
「そ、そうだった」
俺達は慌てて別荘まで戻る。桑原さんを見ると嬉しそうに笑っている。どうやらもう大丈夫みたいだな。
その後、無事別荘まで戻ってきた。
「二人、おそ〜い」
「悪いな。ちょっとあってな」
キッチンに立っている溝口はエプロン姿で立っていた。何か家庭的な感じで良いな。
「ふ〜ん。まあ後で聞くから食材出して」
「あ、ああ」
俺は野菜や肉を渡してバーベキューの準備を始める。後ろから桑原さんもやってくる。
「遅うなってごめんな」
「……、何があったか聞くから」
溝口はチラッと桑原さんを見て何かを感じ取っているようだ。どうしたんだ?
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