第五十八話 非情な再会
「ごめん、遅くなった!」
息を切らせながら響里が大声で叫ぶ。
陽ノ下が住むアパートの庭先には芝原も既に到着していたらしく、響里の姿にホッとしたような反応を示した。傍らには泣きじゃくる陽ノ下の姿。どうやら芝原は陽ノ下を慰めていたらしく、いつまでも泣き止まない彼女に途方に暮れていた。
「ぐす、ぐす……綾音ぇ……」
「ったく、しっかりしろっての。お前がその調子でどうすんだよ」
「うぅ……だってぇ……」
手の甲で何度も目元を拭う陽ノ下だが、涙はいつまでも溢れてくる。
何ともいたたまれないその様子に、響里は昨晩の出来事をひとまず言わずにおくことにした。月村が紫堂と接点を持ったなんて言えば、いたずらに不安を煽るだけだ。
「一応、ここに来るまでの間に注意して見てたけど、月村さんっぽい人はいなかったよ」
宵残しの林からこの陽ノ下家までは、直線距離にして四キロ程度。林が町外れにあるために、住宅地まではかなり遠い。その間、女子高生らしき人影があれば目立つのだろうが、のどかに農作業に勤しむ老人ばかりだった。
「俺も商店街を中心に回ってみたんだがな。連休で人は多いんだが、月村はどこにも」
被りを振りながら、肩をすくめる芝原。
「法浄山の展望台にもいなかったし」
「そんなところにまで?」
「連絡を貰ったときは病院にいたんだよ。法浄山はあそこから近いしな。一人になりたいなら絶好の場所かと思ったんだが……外れだった」
法浄山は、御伽町総合病院のさらに北――御伽町が誇る巨大な霊峰だ。登山道として有名で、中間地点にある展望台からの景色は絶景。時期によっては雲海も見えるため他県からの客も多い。
「やめてよ、縁起でもないから……。それに綾音運動苦手だから、そんなとこ行かないよ」
鼻をすすりながら陽ノ下は掠れた声で言う。気落ちしている彼女も必死に月村の行きそうなところを考えているようだが、候補は思いつかないらしい。
黙り込む三人。見当違いな場所を探せば労力の無駄になる。かといって、こうして顔を突き合わせて考えていても始まらない。
時間だけが悪戯に過ぎていく状況に、焦りばかりがどんどん膨らんでいく。
「まさか、もう町の外に出ていったとか……」
口元に手を当てて、響里がふと呟く。
「まさか、綾音がそんなことするわけ……」
「――いや」
陽ノ下に怯えた目を向けられた響里は即座に否定する。
「お芝居の勉強をするために東京に行ってみたいって、昨日月村さんが話してくれたんだ。部活のことで喧嘩になったんなら、可能性としてあり得るかもしれない」
漠然とした夢だが、あの話をしていたときの月村の顔は確かに輝いていた。
月村には悪いと思いつつも、今は四の五の言っていられない。
「綾音、そんなこと考えてたんだ。アタシにはちっとも話してくれなかったのに……」
「言いにくかったんだと思うよ。告白すればきっと陽ノ下さんが悲しむんじゃないかってさ」
「…………」
「ショックだった?」
黙って俯く陽ノ下に、響里は曖昧に問う。
それは月村が隠し事をしていたことに対してか。それとも月村が夢を実現するとなると、自分から離れなくてはいけないことに対してか。
ただ、陽ノ下は両方の意を汲んだ上で首を大きく横に振った。
「ううん、そんなことない。別に怒る気もないし、やっぱ綾音は凄いと思う。アタシにはないものをたくさん持ってるんだ」
決然と唇を結ぶ陽ノ下。涙を拭った目は腫れぼったくなっていたが、ようやく彼女らしさが戻ってきた。
呆れたような笑みを漏らす芝原が、気合を入れるため一つ手を叩く。
「なら行ってみようぜ。駅員さんに訊けば月村が電車に乗ったか分かるかもしれねぇ」
御伽駅は町の南西部にあり、横断するように流れる細い川を跨いだ先にある。周辺は一面の田畑。農業を営む民家が所々に建っているだけで、見晴らしはすこぶるいい。
住宅地からの距離はかなりかけ離れているが、陽ノ下が新聞配達のバイト仲間から聞いたという裏ルートのあぜ道を使い、時間をかなり短縮して到着することができた。
老朽化の著しい御伽駅のホーム。まるで民家のような三角屋根の下の外壁に刻まれた御伽駅の文字は欠けていて少し読みづらい。
響里は引っ越しのときに訪れた以来でもう記憶に薄いが、構内はお世辞にも綺麗とは言えなかった。照明の灯りが弱いせいか、昼間なのに妙に暗い。壁掛けの病院の看板にはクモの巣が張り、御伽町の町おこしのポスター何枚かあるが、催されたのは数年前のもの。タイルの床だけは唯一、ちゃんと清掃されているようだった。
「綾音……いない……」
きょろきょろと視線を巡らせていた陽ノ下が肩を落とす。もしかしたらと、淡い期待を抱いていたのだろう。
普段なら閑古鳥が鳴く静かな構内も、連休とあって人の姿はちらほらとあった。ベンチに腰掛けて時刻表を見つめる人や券売機で乗車券を買う人。ただ、学生らしき若者は一人もいなかった。
三人は意を決して、改札機横の駅員室へ歩を進めた。
ガラスの向こう側には一人、若い男の駅員がいた。まるで卸したてのような糊の効いたスーツががっちりとした体躯にぴっちり張り付いている。この地域でもあまり見ない角刈りの髪に、無骨な顔立ち。
構内を凝視していた男のぎょろっとした大きな瞳が響里たちの接近に気付くと、ゆっくりと彼らの方に移動する。
「あの、すいません。少しお伺いしたいのですが……」
響里がガラス窓に近付き、通声穴に顔を寄せる。
「はい! なんでありましょうかぁぁぁあああああ!?」
直後だった。
至近距離で突然大声を放つ男の駅員。危うく音圧だけで吹き飛ばされそうになった響里は反射的に上半身を仰け反らせた。
「お、おい、響里!?」
「こ、鼓膜が……」
肉声なのに大音量が過ぎる。おかげで近くの芝原の声が、あまり聞こえてこない。
そこで自分の失態に気付いたのか、若い男の駅員はあたふたと警察官のような敬礼を取った。
「し、失礼しました! 自分、いつも声の加減が間違うものでして!」
その姿勢のまま何度も頭を下げる若い男の駅員。その度にガラス窓に頭が激突し、鈍い音が響き渡る。
その衝撃的な光景に、さすがに響里たちだけではなく周囲の人々もドン引きし始める。
「いつもなら先輩方に怒られるのですが、本日は自分しかいないもので! 申し訳ありません!」
「あーいや、大丈夫です……」
「自分、名を鏑木正男というであります! 配属したばかりですが、御用がありましたら何なりと言ってほしいであります!」
威圧感たっぷりな見た目に反して、礼儀正しいというか腰が低いというか。ド真面目なのは伝わってくるので、とりあえず話は通じそうだ。
響里は少し距離を取りつつ、気を取り直して訊ねてみることにした。
「俺たち、友達を探してるんです。町のあちこちを回ってみてるんですけど、もしかしたら電車に乗ったかもしれないって思って。それらしい人見なかったですか?」
「友達……ですか。それは学生さんでありますか?」
「はい。明霊山高校の生徒なんですが……」
「ちなみにどのような見た目とか、詳しく教えて頂けると助かるであります!」
やはり距離感を掴めてないものの気を遣ってくれているのか、声量を抑えつつ耳を傾けてくれる鏑木。響里が口を開きかけた――そのとき。視界の端から陽ノ下が割って入った。
「眼鏡をかけた女の子です!」
ガラス窓の下にある台に両手をつき、陽ノ下は前のめりになりながら通声穴に叫ぶ。少女のあまりの剣幕に、今度は鏑木の方が身をのけぞらせてしまう。
「髪をこう……二つに絞って、肩に垂らしてて。大人しそう……っていうか、で、でも美人なんです! アタシとは月とスッポン、清潔感? 清楚感? がすごくあるんです! あと……あとは……!」
どうにか特徴を分かってもらおうと、自身の短い髪を掴みながら大きな身振りで必死にまくし立てる陽ノ下。だが、頭が整理出来てないまま喋っているだけに、すぐに言葉に詰まってしまう。
隣で芝原が「だから落ち着けって」と肩を叩く。鏑木も、自身の胸元までしかない陽ノ下の視線に合わせるように前屈みになりながら、諭すように声をかける。
「自分はちゃんと聞いてるであります。だからゆっくりでいいでありますよ」
「は、はい」
「自分はちゃんと聞いてるであります。だからゆっくりでいいでありますよ」
「は、はい」
呼吸を一度、二度、と繰り返す陽ノ下。そこで思い出したかのように、彼女はオーバーオールのショートパンツからスマホを取り出す。
「この子、この子なんですけど……」
素早く操作し、撮影された写真を表示。月村の姿を拡大させ、画面を鏑木に向ける。
「月村綾音っていうんですけど……。彼女、今日も部活だって言ってたから制服だと思うんです。見かけてないですか?」
鏑木が厳つい顔をガラスに寄せ、画像を凝視する。記憶を探りながら、やがて低い唸り声と共に首を捻った。
「自分、朝からここにいますが、そのような方は見ていないでありますよ」
「……ということは町の外には出ていない?」
「少なくとも改札を通っていないかと。自分、記憶力は良いので自信はあるであります」
「……そうですか……」
安堵と落胆を混ぜたように、陽ノ下はゆっくりと屈み込む。
「町の外に出る方法って限られてっかんな。学生の足なんかたかが知れてるし。チャリは無理があるしなぁ」
「綾音は自転車なんか持ってないんだ。そもそも乗ることすら無理だよ」
芝原の言葉に、陽ノ下が立ち上がって否定する。
「差し出がましいようですが、事件性が高いなら警察に言った方がいいであります」
親切心から鏑木が助言するも、陽ノ下は疲れたようにかぶりを振った。
「いえ、そこまでは……」
「こちらでも見かけたら連絡するでありますが」
「……お願いします」
少し待っていてほしいと、鏑木が駅員室の奥に行き、無地の用紙を取ってきた。陽ノ下は自分の連絡先を記入して渡す。
「もし来たら絶対に引き留めておいてください」
「了解であります!」
再び力強い敬礼で返す鏑木。
第一印象で度肝を抜かれたが、基本悪い人ではなさそうだ。単純に不器用なだけで、仕事に対しては忠実なのだろう。
しかし、結果は空振り。
月村はまだ村のどこかにいる確率が高い。
「綾音……本当にどこにいるのかな……」
こうなれば、しらみ潰しに探すしかないか。
まだ陽は高い。事を大袈裟にしたくないだけに、三人で町中を走り回るしかない。
(深雪さんにも協力してもらうか……)
担任教師である彼女には伝えておく必要があるだろう。家出の件然り、その先に孕む危険性も含めて。自分たちが唯一頼れるのは彼女だけだ。
そう思い、響里がスマホを取り出した――そのとき。
踵の辺りから、冷気を感じ取った。
それは直接的に肌へ痛覚を与えるものではなく。這い上がる蛇のような、どす黒く粘着質な闇。全身が異常な速度で粟立つ。
一瞬にして五感すべてを奪われてしまったような恐怖感。
(この感覚……!?)
暗黒の霧。
見慣れたくもないその現象は、駅の外から流れ込んでくる。
「お、おい! 響里……!?」
「なにこれ……!」
周囲の町民には何ら変化はない。この息苦しい感覚は響里たち三人だけにしかない異変。
聖傑としての異変。異常。這いよる闇。
焦燥感の駆られながら、響里は駅の外に出た。
普段であれば閑散とした駅前でも、今日に限っては人通りは多かったのだ。しかし、果て無く続く道路には誰の姿もない。
否――、一人の男を除いては。
「紫堂!」
黒のスーツが、暗く堕ちた空間に映える。
紫堂尚嗣。提供者と呼称した男は、あまりに静かに、どこまでも不自然に佇んでいた。
「聖傑の諸君、ごきげんよう。そんなに血相を変えてどうしたのかな?」
紫堂は、響里を見据えてシニカルに微笑む。
「喜ばしい再会だな、響里少年。その鋭敏な感性は大事にしたまえ。今後の戦いにも絶対的に必要なものだからな」
敵対する存在だというのに、紫堂から放たれる文言はあくまで俯瞰的。聖傑ですら、紫堂の計画には刺激的なファクターでしかないということなのだろう。
「…………!?」
響里が息を呑む。
紫堂は一人ではなかった。
穏やかな眠りにつくように、紫堂の両腕に抱えられた一人の少女。汚れもなく無垢な血色の薄い美しい顔が、寝返りを打つように響里たちに向く。
「綾音!」
陽ノ下の引き裂くような悲鳴。だらりと、力なく月村綾音の腕が垂れ下がる。
「綾音ぇぇええ!」
あらん限りに叫ぶ陽ノ下の呼びかけにも、月村は何ら反応を示さない。響里が注視するも、月村の顔や服に外傷はない。危害は加えられていないようだ。
いや、違う。
「紫堂……。月村さんをどうするつもりだ……!?」
「おや。聡い君なら、もう気づいているものだと思っていたがね」
歯噛みする響里。
紫堂の手中にあるその意味。
これからなのだろう。提供者としての役割を果たすのは。
くつくつと喉を鳴らす紫堂は、月村に目を細めた。
「安心するといい。彼女は貴重な卵を持った大切なサンプルだ」
「彼女を放せ! 天権になんてさせない!」
響里が吠える。紫堂は歯牙にもかけず、笑みを深めるのみ。
「君たちも興味あるだろう? 月村綾音という少女がどんな世界を創造するか。これまでにない、美しくも残酷な世界だと私は個人的に期待しているのだがね」
「この……!」
響里でさえ立ち竦んでいた、その直後。地面を蹴って飛び出したのは陽ノ下だった。溢れる憤怒をぶつけるように、紫堂に突進する。
「綾音を……返せぇぇぇえええええええ!!」
常人離れした跳躍で、蹴りを放とうとする陽ノ下。
「陽ノ下さん!」
「バカッ、やめろ!」
しかし、遅かった。
紫堂の全身が黒い粒子と化していく。陽ノ下の一撃が届く寸前に霧散。月村も彼と一緒に消え去ってしまう。
『今回も追ってくるのだろう? 楽しみにしているよ、新たな異界を君たちがどう盛り上げてくれるのかを』
紫堂の残響。そして不意に訪れた静寂。
紫堂は本当に実体だったのか。幻影のように風に溶け、その場を支配していた重苦しい空気も消失した。
「陽ノ下さん!」
衝動に任せたために着地のことまで考えていなかったのだろう。地面に倒れこむ陽ノ下の腕を掴む響里。
「綾音……」
抜け殻のようにぐったりとした陽ノ下。激しい転げ方をしたが大きな怪我はない。彼女の重みを感じながら、響里はホッとしつつも唇を噛み締めた。
最悪な想定は見事に的中した。しかしここまで露骨に紫堂の意図する方向に転がるとは。
「どうして月村が……」
芝原の誰に問うまでもない呟きに、響里は肺腑に溜まった息を一気に吐き出した。
「月村さんが抱える闇を、紫堂は前々から知っていて機会をうかがってたんだと思う。異界のリアリティーは、その人の魂がどれだけ強いかによって決まる。負の感情は閉塞した世界を創るには最も適しているから」
蓄積された精神的な負担。その大きな歪みが異界の礎になる。天権としての素質なら、月村は十分に満たしているだろう。
どれだけの悪意が彼女の中に渦巻いているのか。本人さえ感知しづらい部分を表現するのが異界。現世の影響を考えれば、一刻も早く対処するべきだ。
「――扉を探さないと」
響里は拳を固く握りしめた。
防げなかった事態を悔やんでいても仕方がない。頭を強く振って、鋭く息を吐く。
「俺たちはまだ月村さんを救える。助けるんだ」
その言葉に我に返ったのか、芝原や陽ノ下の表情に生気が戻っていく。
「お、おお。そうだな!」
「うん」
三人は頷き合う。
「けどよ。場所はどこだ?」
「そこだね。月村さんにとって大事な場所……」
現世と異界を繋ぐ導線となる扉はどこに現れるのか。
響里と芝原が思考に囚われる中、一瞬にして答えに至ったのは陽ノ下だった。
「アタシ、分かったかも!」
そう言って、男子二人に伝えもせず颯爽と駆け出す陽ノ下。響里たちは驚きながら、慌てて彼女の後を追った。
到着したのは明霊山高校だった。
休みでも活動しているクラブは多く、運動部の生徒が汗を流している。響里たちは本校舎とは別のクラブ棟に足を踏み入れる。その二階――演劇部の部室へと。
「あった……」
何度も見た白磁の豪奢な扉。清掃が行き届いた綺麗な教室の中央でそれは輝きを放っていた。
部員は誰も残っていない。稽古が終わるには早い気がするが、主役が不在だったために時間を切り上げたのかもしれない。隅にあるロッカーの近くには小道具やセットが多く並べられていた。
「やっぱり……!」
頬を上気させながら、陽ノ下が言う。
「そうか。ここが、月村さんの存在証明となる場所……」
響里も納得する。
表現者として、己の殻を脱いで輝ける天国。同時に、地獄の現実を切り離して忘れさせてくれる逃げ場。
月村綾音の全てが、演劇部の部室には詰まっている。
「よし、行こう」
「おう!」
響里の呼びかけに、芝原も拳を打ち鳴らして応える。扉の淡い光が徐々に強さを増していく。まるで待ちかねていたとでも言わんばかりに。
「待って!」
陽ノ下の強い語気。二人が振り返ると、彼女は意を決したように静かに言葉を放つ。
「アタシも行く」
唇を固く結んだ彼女に、芝原が眉をひそめた。
「おま……。戦うの嫌じゃないのかよ」
「アタシだって綾音を助けたいもん」
二人の間に割り込むように入り、陽ノ下は表情を崩した。
「むしろ、アタシが行かなくってどうすんのって感じっしょ」
「陽ノ下さん……」
強がりの笑み。ふと視線を落とせば、彼女の足は震えていた。
「――いいんだね?」
「分かってる。危険は承知の上の介っての」
響里に覚悟を問われ、陽ノ下は深く頷く。気合を入れるように自分の両頬を叩き、そして言った。
「綾音はアタシの憧れなんだ。アタシは明るいなんて言われてるけど、本当は違うの。キラキラしてんのは綾音の方だし、そんなあの子がアタシは好きなの。実家のことで苦しんでいるところを支えてもらってたし、今度はアタシが綾音を助ける番!」
眼前に立つ扉に向けて、これまでの想いをぶつける。
両開きの扉は彼女に呼応するかのように、荘厳な物音を立ててゆっくりと開いていく。隙間から漏れる光が三人に纏わりつき、異界への誘いを始める。
「くっそたれな連休の始まりだが、月村を助け出して最っ高にハッピーなゴールデンウイークにしてやろうぜ!」
「おう!」
友人二人の言葉を聞き届け、響里も静かに瞳を閉じる。
事前に有沢には連絡はしておいた。メッセージだけなので返信を確認する暇もなかったが、龍源の使者としてこちら側の世界を守ってくれるだろう。
(頼みます、深雪さん……!)
今度はこれまでとは少し違う意味で難しい戦いになる。
天権を倒すのではない。
天権を救うための戦いだ。
絶対に月村綾音を無事に帰し、現世の問題も片づける。そう考えながら、響里の意識は薄れていった。




