Method18:時の迷宮5
タイトルバックイラスト:西山りょう
その昔、かにがRPGツクール2000で制作したゲームの小説化!
ゲーム版のメッセージや内容を抽出したものを再構成し、西山さんが小説化を担当しました。
エンドレス・ロード関連作品。
https://ncode.syosetu.com/n7077gj/
施設から逃げ出した由香は、空腹と疲労でふらふらしながら街の中を歩いていた。
人通りの多い道端でよろめき、行き交う車がいきなりクラクションを鳴らした。
ドンッ。
鈍い音とともに由香は車にはねられ、空を舞い地面に転がる。
「あうっ……」
もだえる由香を無視して車が走り去った。
「大丈夫かっ!」
一部始終を見ていた靴屋のおやじが由香の元に駆け寄ってきた。
事故に気づいた人々もがざわざわと集まってくる。
「すぐに医療センターに連絡するからな! しっかりしろっ!」
人々の中の誰かが叫ぶ。
動く力もない由香は言葉も出せず、意識が遠のくのを感じていた。
次に由香が目を覚ましたとき、真っ白な天井が映った。
気づくと体中に湿布と包帯が巻かれている。
左腕には点滴の針が刺してあった。
「目が覚めた? ご飯は食べられるかしら?」
声をかけてきたのは食事のトレイを持った女性看護師だった。
その声は穏やかで由香に大きな安心感を与えた。
由香は痛む体を起こし、差し出されたトレイを受け取るともくもくと食べ物を胃に押し込んだ。
「慌てなくてもおかわりはあるから大丈夫よ」
「う、うん……」
2回おかわりをして満腹になった由香が世話を焼く女性看護師を見上げた。
「あ……ありがとう……」
「気にしなくてもいいのよ。あなた、3日間も目覚めなかったの。気分は大丈夫?」
支えられながら由香が再び横になる。
「か……体中が、痛い……」
「そうよね、痛いよね」
女性看護師はテキパキとパルスオキシメーターを由香につけ、点滴袋を交換した。
由香の視線に気づいた看護師はにこっと微笑んだ。
まだ10代にも見える彼女は、笑うと頬にエクボができる。
「私は響歩美。よろしくね」
「……う……うん……」
歩美の話では由香は全身打撲と第6肋骨骨折をしているらしかった。
呼吸をすると胸が痛いのは肋骨骨折のせいらしい。
「様子はどうかな? 目覚めたと聞いたけど……」
聴診器を首にかけ白衣を着た男性が間仕切りカーテンを開けて入ってきた。
見た目は20代後半くらいの青年と言ってもいい若い医師だ。
「食欲はあります。自力で食事が摂れます。生体パルスも正常です。でも体中が痛いのよね?」
「だろうな。打撲と骨折以外に栄養失調だ。もっと食事を摂って元気にならなくてはね」
医師は寝間着の上から由香の胸に聴診器を当てた。
「呼吸、心音に異常なし。胸はとても痛むかな?」
「……う、うん……」
「頭は強くぶつけていなかったよ。胸の痛みが取れるまで2ヶ月半くらいかかるだろうね」
「……あ……あの……」
困惑する由香の髪を医師はかがんでそっと撫でた。
「ここにいればいずれ治る。心配はいらないよ」
担当看護師の歩美とはすぐに打ち解けた。
彼女はは面白い話をたくさんしてくれるし、担当医も優しかった。
由香が目覚めてから4日経った朝食後、担当医が歩美と共に折り紙を持ってやってきた。
「由香ちゃん、胸がすごく痛いでしょ? 折り紙はまだ無理なんじゃないかなぁ?」
医師がしゃがんで由香と視線を合わせると、由香は残念そうに目を伏せた。
「腕も痛いし、起き上がれるようになってからがいいと僕は思うけどね?」
「……う……うん……」
「じゃあ、しっかり食べて早く元気になるように頑張ろうか。僕にも折り紙を教えてくれるかな?」
「先生、ずるいですよ。由香ちゃん、私にも折り紙を教えてね?」
「うん、いいよ……」
優しい笑みが2つ由香を包む。
つられて由香も笑顔になる。
「折り紙はここに置いておくね。由香ちゃんはどんな折り紙ができるんだろうね?」
医師が楽しそうに由香の枕元に色とりどりの折り紙を置く。
その時、由香は医師の名札に気づいた。
難しい漢字の上に平仮名で『ひびき』と書いてある。
「え……? 先生の名前、……歩美さんと……同じ?」
「そうだよ。僕は響義文。奥さんが歩美なんだ」
「……ええ、と……?」
動転した由香が歩美に目を向けると、彼女は照れくさそうにエクボを作った。
「えへへ、私と先生は結婚しているの」
「そう、……なんだ……」
仲が良く、由香に優しい2人が互いに身内だと知り、由香は微笑ましく感じた。
「もう少し時間がかかるけど、みんなで折り紙パーティーをしようね?」
「うん!」
響医師は笑顔で由香の頭を優しく撫でた。
医療センターでの生活は由香にとって楽しい時間だった。
たくさんの折り紙を折り、久々の幸せな時を由香は大いに味わった。
しかし、体が癒えるにつれ、由香は退院後のことを考えるようになった。
また施設に連れて行かれるのだろうか?
施設ではぐれてしまった少女はどうなってしまったのか?
様々な思いが交差して、小さな由香の胸を締め付ける。
由香は手をぎゅっと握りしめて押し寄せる不安と戦うのだった。
2ヶ月が過ぎたある日。
昼食の後で歩美が由香に話しかけてきた。
「由香ちゃん。そろそろ怪我が治るけど、帰るお家がないのよね?」
「……え、えっと……」
どう答えていいのかわからずに由香が言い淀む。
歩美は由香の両手をそっと握った。
「ねぇ? よかったら家に来ない?」
突然の提案に由香は驚いた。
「先生ともいっぱい話したのだけど、由香ちゃんがよければもっと仲良くなりたいの。駄目かなぁ?」
「だ……だめじゃない、……けど……いい、の……?」
「もちろんよ。先生も私も由香ちゃんが大好きよ。みんなでたくさん折り紙を折りたいわ!」
溢れんばかりの笑顔を浮かべて歩美が小さな手をぎゅっと握りしめた。
こうして由香は退院後、響夫妻に引き取られることになった。




