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配信までの段取り1

 その週の土曜日。

 あの時の約束を果たすべく、予定を組んだ。

 予定の時間は前回より遅めの午後七時。

 僕の母親も夜勤のため、時間的には都合が良かったからそうなったのだが、僕として秋山さんの両親の方が少しだけ気になっていた。

 さすがに『異性の家に行く』なんて馬鹿正直に答えてはいないだろう。

 だからこそ、もしバレた時のことを考えると気が気ではない。


「って、そんなことを考えてる場合じゃないな」


 僕はちょくちょく考えてしまうこの事を頭の端に追いやり、時間まで残り少ない時間で部屋の掃除の追い込みをかける。

 前回は不意打ちで来られたため、部屋の掃除なんてものは出来なかったのだが、今回は約束をして会う以上、部屋の掃除は免れない。

 そのため、朝から部屋の掃除をしていたのだ。

 ハタキでホコリがありそうなあらかた落とし、掃除機をかけ、念のため布団も干した。

 ただここで誤解がありそうなのであらかじめ言っておくが、布団を干したのは秋山さんが前回のように座る可能性を考慮してだ。性行為などのためではない、断じて。

 それに今回はもちろん飲み物も買ってある。

 なので準備はばっちり。

 あとは僕の家宝とも言えるエロ本とパソコンに保存してあるエロ画像などをしっかりと隠せば終了という段階。

 こればかりは僕はかなり神経を使っている。

 なんとなくこういうことに対して、女性は第六感が働くらしい。

 だからこそ、その先読みなどもしっかりして……と、それが駄目らしいので、僕は素直にエロ本はベッドの下の奥にレジ袋に入れて隠す。


「よし、終わり。あとはパソコンだな」


 パソコンの方もほぼ同時というタイミングでデータの移動をしていたウインドウが消えていた。あとはそれを読み取り専用にすれば、全て問題が解決される。

 さすがの秋山さんでも、放送するためにやってくるというのに僕の粗探しをする行動をするはずがない。そんな理屈からである。

 パソコンの前にセットしてある椅子に座り、『読み取り専用』にセットを変えて、あとはそれをファイルからは見えないように二重に設定を変えた。


「これでもう大丈夫だよな?」


 誰もいない部屋に誰かの安心の言葉をかけてもらうかことを望むように呟いた瞬間、学習机に近くに置いてあったスマホがブルっと大きな振動を立てる。

 思わず、僕はビクゥと身体を震わせた後、おそるおそるホームボタンに手をかけ、スマホを起動させる。

 ロック画面には秋山さんからのLINEが来た知らせる通知があった。


「……怖いって」


 内容は『もうすぐ着くよ』というメッセージとスタンプ。

 それを既読にした後、僕は適当にスタンプを返す。


「まさか……LINEまで交換しちゃうとはなぁ……」


 予想も妄想もしてなかった相手とのLINE交換したことに今も驚きを隠せないでいた。

 もちろん、それを言ってきたのも秋山さんだ。

 ヘタレである僕はそんなことをする勇気なんてない。

 本来は僕が聞いた方がいいのは分かっているけれど、この流れでそれを聞くのは卑怯な気がして気が引けていたというのが正しいのかもしれない。

 けれど、やっぱり男としては情けない。


「って、そんなことをしてる場合じゃないな。準備しとかないと」


 僕は椅子から立ち上がると駆け足で一階へと降りる。

 そしてキッチンに向かい、トレイとコップを念のため二つ出して、それを二階へ急いで運び、机の上に置く。

 これであとは秋山さんが来たら、冷蔵庫に入れてある飲み物ーーオレンジジュースを運べば、全ての準備が整う。

 抜かりはない。

 が、そこで僕はあることを思い出す。


「お菓子……買ってないやんけ」


 なんでそこで変な風な方言がでたのは分からない。

 けれど、それぐらい僕はそのことを抜けていたことに気付き、慌ててキッチンに戻り、僕が食べると思い、親が買ってくれているお菓子を確認する。

 ロクなものがなかった。

 思春期の男が食べるお菓子を母親が一生懸命考えたであろうお菓子のチョイスはピザポテトやカラムーチョなどの味が濃いものばかり。

 女性受けしそうなものは……なかった。

 それもそのはず。

 僕がポテチの定番とも言える塩味系統は飽きてしまったことを伝えてしまったからだ。


「僕のアホー‼︎!」


 そう叫んだ瞬間、玄関のチャイムが「ピンポーン」と鳴った。


「あ、来ちゃった」


 時間的には買いに行ける余裕などなかったのは分かっていた。

 しかし、自分の準備万端と思い込んでいた愚かさに少しだけ後悔しながら、僕は玄関へと向かう。

 もちろん、今さら悔やんでも仕方ない。

 素直にお菓子の用意を忘れたことを伝えよう。

 そう思いながら僕は「はーい」と返事し、チェーンロックをかけた状態でドアを開ける。


「こんばんは」


 開けた先には案の定、秋山さんがいた。

 そこで、僕はいつもの秋山さんの雰囲気が違うことに気がつく。


「こんばんは?」


 その違和感がなんなのか分からず、挨拶の語尾に思わず「?」がついてしまった。


「え? なんかおかしいこと言った?」

「あ、ごめんごめん。ちょっと待ってて。チェーン外すから」

「うん」


 秋山さんはよく分からないと言った反応を取りつつも頷き、扉から一旦離れる。

 僕は素早くドアを閉め、チェーンを外した後、今度はドアを全開にして開ける。


「どうぞ、いらっしゃ……」


 思わず、そこで僕は息を飲む。

 そこには制服ではない秋山さんの姿があったからだ。

 いや、休日である以上、当たり前のことだ。

 当たり前のことだけど、私服姿が新鮮すぎた。

 清掃系に近い黒いワンピースに黒タイツ、上にピンク色のコートを着ていた。

 それだけで秋山さんのファッションセンスもいいことが分かる。

 なぜか分からないけれど、僕はドキドキしていた。


「あ、あの……さっきからどうしたの? 入るよ?」


 僕の言動がおかしいことに戸惑いつつも、秋山さんは僕の返事を待たずに家の中に入りながら、


「お邪魔しま〜す」


 の一言を近所迷惑にならない程度の大きさで言った。


「いっらっしゃい」


 先ほど言えなかった言葉を再びちゃんと言った後、僕は玄関のドアを閉める。

 その間も僕はなんで秋山さんがこんなにも雰囲気が違うのかを、うまく回らない思考を必死に回転させながら考えていた。

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