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配信までの段取り2

 僕がそのことを考えていると、秋山さんが僕に向かって、レジ袋を突き出してきた。

 それを受け取りながら、


「え? なにこれ?」


 僕は中身を確認する。

 中には店でよく売っているプリンが入ってあった。


「何もなしなのはちょっとダメかなって思って、近くのコンビニで買って来たの。一緒に食べよ。ついでにこれも持ってて」


 そう言って、手提げ鞄を僕に差し出す。


「ありがとう」


 お礼を言いながら、僕はその手提げ鞄も受け取る。

 秋山さんは僕の横を通り過ぎ、履いていたヒールを脱ぎ始めた。

 その時、ようやく雰囲気が違う理由を察することが出来た。


「ねぇ、もしかして化粧してる?」


 いきなりの僕の質問に秋山さんは一旦、動きを止め、僕の方を見る。しかし、すぐに視線にヒールの方へ戻し、脱ぎながら、


「うん、してるよ。女性の(たしな)みとしてね」


 と僕の質問に答えてくれる。

 なるほどね、そのせいか。

 普段から秋山さんが幼いというわけではない。見た目や雰囲気からしてみれば、周りにいる女子と比べて、大人っぽいのは事実だ。そのせいで街中でクラスメートに出会ったとして化粧した時は気付くのに、秋山さんは元々の雰囲気のせいで気付きにくかった。それが違和感として残った。

 それが分かった僕は心がすっきりした。


「というか、それがどうしたの?」

「え? あー……ちょっと普段と雰囲気が違うなぁって思ってさ。それで『なんでだろう』って考えてたんだよ」

「だから様子がおかしかったの?」

「そういうこと」

「一応、気付いただけでも良しとしようかな」


 ヒールを脱ぎ終えた秋山さんは僕の方を向き、少しだけ嬉しそうな表情を浮かべていた。

 言っている意味が分からない僕は首を傾げながら、手提げ鞄を返そうと差し出す。


「良しって?」


 その手提げ鞄を受け取りながら、


「もし、そのことに触れなかったら男性としてどうなんだろうなって思っただけだよ」


 少し意地悪そうな口調でそう言ってきた。


「そうだったとしても女性経験少ないからね。しょうがないさ、しょうがない。でも気付いたんだからセーフってことで」


 この件を相手にしていたら負ける。

 そう思った僕はこの会話は手早く終わらせるべきだと判断し、背中を向けて、二階へ歩き出す。

 秋山さんはちょっとだけつまらなそうに「ちぇっ、逃げられたか」と僕に聞こえるか聞こえないかの声でそう言い、僕の後を付いてくる。

 ただこの時、僕はすでに秋山さんにすでに敗北していたことに気が付いていた。

 そもそも服装の差が酷いからだ。

 お互い私服なのは間違いないなのだが、秋山さんとは違い、僕は普段通りすぎた。完全に家で過ごすスタイルのため、長袖のTシャツにジャージなのだ。

 せめてお出かけ用の服装に着替えておけば……ッ!

 今さら後悔したところで時すでに遅し。

 僕はもうこのことに関して考えるのは辞めることにした。

 そして、次回からは気をつけることを心に誓った。

 前回同様、部屋に通した後、


「じゃあさっそく始めようか。パソコンの前の椅子に座って。荷物は好きな場所でいいよ」


 そう言って僕は秋山さんを案内させる。

 その指示通りに秋山さんは椅子に座り、手荷物は自分の膝に置く。

 そしてパソコンの前に置いてある配信用の機材を物珍しそうにキョロキョロと見始めた。

 全部が新鮮すぎて、何をどうしたらいいのか分からない状態のようだ。

 もちろん、そんなこと僕も分かっている。

 僕は学習机の上にお土産のプリンの入ったレジ袋を置き、その椅子を座って、秋山さんに近寄る。


「まず配信に必要なアカウント作りから始めるね。学校でも軽く説明しておいたと思うけど、ツイキャス専用のアカウントかTwitterのアカウントでやるか考えといてくれた?」

「あ、うん。Twitterのアカウントにするね。アカウントはまだ作ってないけど」

「作ってないのは分かってるから大丈夫だよ。とりあえずまずはそこから始めるか」


 僕は自分のスマホを使い、素早くアカウントを作る画面を表示する。

 ここまでは別に何の問題もない。

 問題は秋山さんが使いたいと思うアカウントのIDとパスワード。


「IDとパスワードは考えておいてくれたよね?」

「うん、もちろんだよ! これでいいかな?」


 そう言って、秋山さんは自分のスマホを取り出し、僕に渡してくれた時にはメモ帳にそれを書いてある画面を表示して渡してくれた。


「ありがとう。ここまで出来ているなら大丈夫だね。あとはこれが使えるかどうかの問題だけど」

「そこは語尾に適当に数字入れてくれたらいいよ。あ、でも別垢って作っても大丈夫なの? 規約でそんなのはダメって書かれてなかった?」

「そこらへんは気にしたら負けだと思ってくれたらいいよ」


 秋山さんの言葉はそんな感じで流し、僕はそのIDとパスワードを打ち込む。

 偶然にもそのIDは使えたたため、何の問題もなくアカウントの作成が完了。そして、すぐにアカウントが停止や凍結されないように、ツイキャスの公式のフォローと『あ』のみのツイートを行う。


「こんなもんかな? Twitterの方は。じゃあ秋山さんはこれをスマホに打ち込んで、アカウントを自分のスマホに入れといて。やり方は『作成済みのアカウントを使う』から行けるから。っと、ちょっとだけパソコン使うよ」


 スマホを返しつつ、僕は秋山さんにそう言う。

 僕の素早い行動に秋山さんは少しだけ戸惑った様子で言われたように椅子を動かして移動。移動した後は自分のスマホでそれを打ち込み始める。

 僕はそれを確認した後、椅子から立ち上がり、パソコンの前立つとツイキャスの画面を開き、ログイン設定を行う。

 ここの手続きはTwitterのIDとパスワードさえ間違えなければ、すぐに終わるのでそんなに時間はかからなかった。


「はい、これで大丈夫。両方のアカウントはこれで完成だね」

「え、もう出来たの?」

「うん。ここまでは別にすぐだから。あとは配信の方の設定かな。やり方は教えるから安心していいよ、そんなに不安そうな顔しなくても」


 ここまでの流れが早すぎて、不安そうになっている秋山さんにフォローを入れる。


「う、うん。そっか〜。もうすぐ私の配信生活が始めるんだ……」


 秋山のその言葉にはワクワクというよりは緊張の割合が強い言い方だった。

 最初はみんなこんな感じなんだろうなぁ……。

 配信を行ったことはない僕は、そんな秋山さんをなぜか保護者に近いような感じで見るような、そんな気分に軽くなってしまっていた。

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