表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/89

3回戦。

 滋賀県代表、浸中高校。琵琶湖湖中、水深100メートルにたたずむ水生のエリート校。日本有数の歴史有る学校。その伝統は、嘘か真か、数万年前にさかのぼると言う。現代に在っては、最精鋭の進学校だ。通学する生徒の半数は湖畔から潜水艇で通学し、もう半数は水中トンネルを用いている。もちろん寄宿生も居る。学校に隣接する湖底宿舎だ。浸中は、学生の教育機関でありながら、学生自らの研究施設でもある。いわゆる高大一貫教育なのだな。その分野は幅広く、水産資源やウォータースポーツ、環境学等のお膝元機関以外にも、水中施設である利点を活かした地質学にも及んでいる。その学校の性質上、卒業生の何割かはグレートアトランティスへの就職を希望する。そして、実際にアトランティス内で魚などの養殖に携わっている者も居る。ひょっとしたら、己業達が食べた魚介類は、ここの卒業生が育てたものかも知れない。


 リアディウムに於いても、爆発力のある新生箱根火山を破り実力を証明して来た。


「正直、箱根が来ると思っていた。失礼ながら意外だな」


「新生箱根火山は前年度ベスト4。格で言えば、浸中よりも上のはず、ですよね」


 ここら辺の情報は、己業も初耳。野牛は、己業にオリーブと輝光白蛍の情報だけ覚えろと言っていた。それ以外、己業なら問題無い。また、己業頼りも嫌だったので、自分達でカバー出来るよう、情報収集は野牛と戦草寺で行っていた。


「でも、おれは戦ってみたいですよ。十分、強い」


 1回戦終了後、ざっと他校のモニターを見ていた己業は知っている。面白い、と。


 ドリンク管理をしてくれている先生にジュースの空きボトルを渡し、己業が出る。


 本来の作戦では、己業は隠し通す予定だった。漠府との戦いでも、己業はムミョウの真価を一切見せずに終わらせた。素晴らしく、作戦通り。可能な限り、野牛、戦草寺の2枚を交代で使い分け突破し続ける。それで、全国制覇も確実に近付く。


 だが、己業が目覚めた。戦いに打ち震え、吼えたくなった。


 なので、オリーブまでの試合では、己業を前に出す。即ち、この浸中戦でだ。隠す事より、己業の精神の開放をプラスと見込んだ計算。


 更に言えば。秘密兵器としての己業が居なければ、技四王では勝てないのなら。


 勝たなくて良い。


 野牛には大会優勝の目的が有る。その後の人生に用事が有る。だが、それでも。いや、だからこそ、か。自身の力で行けない道なら、それは、私の道ではない。己業におんぶに抱っこは、まだ早い。結婚してからだ。いや、結婚はともかく。そう言う事だ。


 戦草寺は。実の所、どうでも良かった。最大効率で以って、敵陣営を翻弄ほんろうするのも戦の悦び。素晴らしい。だが、敵の希望を打ち砕き絶望の表情を浮かび上がらせるのもまた、戦の華。どう転んでも、そこには楽しみ以外無い。そして。楽しみは、自分で味わいたい性質たちだ。己業が戦うのも、自分が戦うのも、どちらも良し。外面上は、先輩や己業を立てられるので、何一つ問題も無い。己のイメージを維持しつつ、皆への気配りが可能。うん。己業君の好きにして良いよ。


 そして、激戦必至のオリーブ戦からは、全員で戦い、勝つ。己業1人に頼りきらない。


 そう言えば。他校の様子として注目すべきものは、地獄高校とオリーブの戦いか。泥沼に引きずり込む地獄の持ち味を料理するオリーブ。しかし、地獄側の善戦も素晴らしかった。それまで1人で抜いて来たオリーブ先鋒を破ったのだから。まあ、2人目にしてやられたので、そこは知明の教えの成果か。Bブロックでは、あの関刃と黒曜石心を破ったナウマンゾウ高校も目を見張る強さだった。タフさと粘り強さ、剣を跳ね返す頑強さ。その他の学校も、面白いのは多々存在した。


 己業は、たまらなかった。何故、自分はこの会場の全員と戦えないのだ?この会場には、いくらでも面白い奴らが居るのに。しかし、この欲求不満も学生時分まで。プロになれば、堂々と毎日戦えるのだ。以無のままでは出来ぬ事も、ドレスをまといさえすれば、可能となる。


 この己業の認識は、少し間違っている。毎日戦っていれば、己業の商品価値はあっという間に消えて無くなる。己業は、トップランカーと戦うのは難しいんだろうな、ぐらいにしか思ってないが。それでも、方法は有る。チャリティーショーだとか銘打っておきさえすれば、その日その時は、何戦しようと価値は下がらない。むしろ高まる。その時、それなりのランカーを混ぜておいて、己業の満足度を充実させ、かつリアディウムの評価を高める。この辺りが、リアディウム公式の答えだ。己業も、今はまだ知らない事だが。ま、人前でさえなければ、練習相手は自由だ。それこそ、知明であろうとも。双頭韻あたりの、暇な者を当てても良い。双頭韻は腐らせるには惜しいプレイヤー。お互いの刺激となり、良い影響を与え合って欲しいものだ。


 浸中の面々は、かなり変わっている。それぞれのお国柄、特色が出ているだけなら、普通なのだが。そう言う意味ではない。


 幻想の力をその身に宿す、新時代の憑依者達。


 つまり。コスプレ集団だ。


 これが一般社会ならば奇異なるものだろうが、ここはヴィジョンでありリアディウム。騎士装束などの非日常的コスチュームはゴロゴロしている。むしろ、そんなのしか居ない。コスプレも、注意のかからない限り自由であった。扇情的な衣装は、他所でやれ、ではあるが。


 そして、彼らのヘンな所は、コスチュームではない。いや、そこか?技も、戦闘スタイルまでも、その服装の元ネタに準じている。だから、笑うほど対策を立てやすい、にも関わらずここまで勝ち進んで来た。折り紙付きの実力と、好きなものに殉じる自負。テレビのヒーローになりきれるだけの練習を積んで来た、見上げたバカの群れ。


 だから、己業は、戦いたい。己の求むる所に愚直に忠実に鍛錬を積んで来た彼らと。


 強いか弱いかは、この際どうでも良い。お前らの全てを見せてくれ。




 1人目。ヴィジョン内には水着姿の男。現実では、もちろん学生服だ。浸中の順番は、基本バラバラ。強い方からでも弱い方からでもない。ただ、こいつは、間違い無く強い。


 以無己業の体が、そう言っている。


 敵シルエットは、仮面ダイバートサカ。そう、オーバーアトランティス製作のテレビ番組だ。アトランティス産の子供向け番組として、アトランティスマンと伍する人気を誇る。日本ではまだ放映されていないアトランティスマンの人気がすごすぎる、と言うのは有るか。現在放映中の仮面ダイバーエレガントの2つ前のシリーズが、トサカだ。


 この仮面ダイバーは、全体を通して、ワイルド(野生)かマンメイド(人工)かを問いかける。生き方、人生観、そして死に方。誰にも従わず、本当に野たれ死んだダイバー。誰かに言われた事を聞き、己のやりたい事を何もせず100年生きたダイバー。幾多のダイバーの運命を見て来た時の語り部が、主人公、トサカだ。


 幾つもの時代を、ある時を野鳥として、ある時は家禽かきんとして過ごして来たトサカは、ふと気付く。輪廻転生を自在に生きる自身の力ならば、全てを支配する事も、全てを破壊する事も出来ると。トサカは、即断即決した。ある時代の世界を、50回の転生を経て破壊し尽くし、自分の餌すらをも消滅させた。それゆえ、51回目の転生は、世界の再生後だった。実に、数万年の後だ。その次は、世界支配に乗り出した。300回の転生の後、全世界全国全ご家庭に鶏の餌場が出来ていた。


 だが。そこまでやって、トサカには、足りないものが有った。誰にも従わない意思、誰かに従う意思。トサカは、有能で優秀。だから。出来たから、やっただけ。そこに、己の意思が無かった。負けん気も、不満も、楽しみも、悲しみも。トサカは、また語り部に戻る。失望、と言う思いを味わいながら。


 そして、数十億年が経過した後。山中に住みながら、海にダイビングに向かう男、天負裸てんぷら 付湯地つゆじ。その男が、トサカが転生した鶏を飼う所から。新たな運命が始まる。


 己業も、見た事が有る。


 目の前の男は、その力を身に付けたか。


「変身!」


 何処いずこからか走り寄ってきた鶏を抱きかかえ、ウェットスーツの胸元に当てる。鶏はトリガーと化し、装着者の本性を引き出す!


 そこからか。流石だ。己業は、棒立ち。変身シーンで攻撃をしかけるのは、無粋。だから、己業が出て来たのだ。付き合う意味の無い野牛や戦草寺なら、この瞬間に攻撃をしている。この敵の真髄も見ずに。・・・もったいないだろう?


 ダイビングにでも行きそうな格好が、鶏を模した装甲服に変化した。そのフォームチェンジは、現実的な工程を一切踏まえていない。文字通り、「変身」。ヴィジョンで再現するため、構築には並々ならぬ努力を要したであろうが。


 その後、更なる強化変身を行う。


 それまでも立派だった鶏冠とさかが、更に大きく禍々しい姿に。


「ホットフォーム!」


 トリガーと化した鶏の頭部をスイッチに、変身!トサカの強化形態。この姿を見せた以上は、敵に敗北以外の結末は無い!


 面白いなあ。出来るだけ長引かせて、技を見せてもらおう。


 ムミョウを歩かせる。鶏の力を手に入れた超常者、トサカ。その強化形態、ホットフォームの行動速度は、通常の鶏の実に2倍以上。・・・う、うむ。本当に、そのくらいだ。そらまあ、ダイバーに地上での移動速度は必要無いが・・・。


 だから、可能な限り手を抜く。相手の本気を見るために。己業の欲望を、全力で満たすために。手抜きせず、手抜きする。これが、我欲の使い方だ。


「ダイバー、キック」


 冷たい声だ。まるで、冷凍庫から出したての鳥肉のような。トサカの主人公は、冷静沈着でありながら大物然とした、わけの分からない男だ。その動作には、コンソメを香らせるほどの気品が漂う。


 だが、遅い。子供向け番組のゆえ、子供が見えない速度で動き回るなどあってはならないのだ。


「ムミョウ、キック」


 合わせる。敵は間違い無く必殺技。破壊力は、部位破壊にたっぷりのダメージだろう。本来、受けてはいけない。幸い、ゆっくりした速度だ。ムミョウの速さなら、躱せる。更に、今までの試合でも、一瞬の加速強化は見せている。避けるのが、理に適った、問題の無い行動。


 そう。つまらない方法だ。


 無論、そんな事のために、おれは戦うのではない!


 敵必殺技に対抗するため、蹴り足に気をまとわせる。敵の大火力に対抗するために、こちらも全力を込める。ここなら、全力でも、相手は壊れない。プロテクションは持ちこたえ、センサーがおれの気を伝わらせる。誰が作ったか知らないが、本当に感謝するぞ。


ギオ!!


 衝突。


 ダイバーキックとは、回し蹴りの事を言う。ダイバースーツの足ひれを利用、水中ならば大量の水を蹴り足と同時に動員、自らのパワーとして活用する。水中なら水圧、地上ならば、すさまじい風圧をもたらす。もちろん、それだけの大容量を蹴り込むだけのキック力を必要とするため、いかなトサカのパワーであっても、必殺技としてしか使えない。


 その必殺技に、ムミョウもまた回し蹴りで対抗。己業は、この技だってテレビで見ている。だから、出来る。


 ダイバーキックにより、ムミョウの右足は破壊。350ポイントのダメージ。だが、トサカにも右足に2回の攻撃判定。350ポイントのダメージ。低防御のムミョウでも、蹴りの圧力で威力を相殺すれば、相打ちくらいには出来る。


「通常攻撃を仕掛け、ダメージで必殺技と五分に持ち込む。本当に、あの男は怪物だな」


「はい。それに、気と蹴りで2回の判定も得ました。こっそり計算してるんでしょうか?」


「どうだろうな。染み付いた戦闘経験が無意識下に於いて働いているとしても、不思議ではないが」


 だが、違うな。聞いておきながら、戦草寺自身も、否定の言葉が帰って来ると思っていた。計算の出来る男は、わざわざ相打ちに持ち込んだりしない。


 底無しのバカめ。


 敵は、何事も無かったような顔をしていながら、ものすごく驚いていた。なんで、蹴り返して来たの?て言うか、蹴り返せるの?この人、何?


 疑問渦巻く相手の思考を読み取った己業は、更に相手の全てを引き出させるよう、努力する。


 何故か分からないけど、敵は、トサカに付き合う。なら、付き合えないフォームで、付き合えない技を!


「カロリーオフ」<<calorie off>>


 ボディから走る謎の機械音声。チェンジボーンモード。あたかも鶏の皮をいだかのような、軽量化モード。肉すらも、行動最低限しか残していない。


 そして、この状態でしか使えない超加速攻撃。


「オン・ア・ダイエット」<<on a diet>>


 速い!少なくとも、野牛の目からは消えた。オン・ア・ダイエットは、自らの体力を削り、尋常ならざる加速状態に入る。それこそ、戦草寺でもギリギリ見えるかどうか。


 ・・くくく。そうだ。それを見たかった。


 お前なら、おれと同じ世界に居るはず。


「オン・ア・ムミョウ」


 破壊されている右足は当然動かず、移動手段に制限がかかっている。楽しむには、良いハンデだ。狙ってやったのではなく、単なる結果だが。


 カロリーオフからのダイエット。これでトサカの行動速度は、通常の鶏の100倍を超える。もちろん、ただの人間が追える速度ではない。


 しかし、己業とムミョウなら。


ゴ、オ、オ!


 右足が利かぬなら。左足一本で動くしか無いな。両の足で時速800キロを叩き出すムミョウの足は、片足でもトサカと同速を出せる。もちろん、自由行動は不可能。跳躍のみだが、つまり。


「ムミョウ、キック」


 これが使える。トサカを破るなら、この技しか無い。


「ダイバー、キック」


 反射的に使ってしまったか?だが、2度同じ技は、面白くないぞ。


 片足で跳躍した後、両腕で姿勢制御。体のひねりを加え。ムミョウキックのみが相手の肉体に炸裂した。


 カロリーオフは、行動速度を50パーセント上げるが防御力50パーセントオフ。更にダイエットで、決着量は先に200ポイント削られていた。


 即ち、決着。


「楽しかったです!」


「あ、はい。ありがとうございます」


 お互いに礼をした後、改めて己業からの感謝。ダイバーと戦えた事も、自分と同レベル帯の動きを見せてもらった事も。とても、楽しかった。


 あと、4人。まさか、2人に我がままを言っておいて、1戦で満足しました、残りお任せー。とは、行くまい。


 片足と350ポイントダメージの肉体。


 ま、おれのデビュー戦を飾るに相応しいアクセサリーか。


 行こう。ムミョウ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ