己業とムミョウ。
4人目。やはり統一された装束。だが、重要なのは見た目ではない。
野牛は、もちろん己業が相手を評価した事を知っている。私で、勝てるか?
ゴ
身を包み込む緊張感。ダメージもそれなり。
オ
やはり、夏だからか。暑いな。
オ!
開始!
突撃!!
「やはり。それしか無い」
「私なら、待つかも」
「泉鬼なら、お札で搦手を考えても良いな」
見守る人間は和気藹々(わきあいあい)としたものだ。
砂海原を用いない敵。ミノテリオンの決着量は、順調に削られているのに・・。
斧の最大威力を発揮する間合いで、正確に打ち込む!
ゴ、ギイ!
受けられた!!
「思ったより、速い。それに、」
「それに?」
「気が強い。戦草寺と似てるな」
「・・そうかな」
いちゃこらしている2人を他所に、火花を散らせる舞台の2人。
ミノテリオンの斧を受けて、ギリギリで踏ん張っている。敵が用いるのは、槍。ただ、今までのような普通の物ではなく、先端部が切り離せる。本当に矢じりとなって、飛ばせるのだ。ひもの付いたアンカーのようなものと思えば分かりやすいか。これの基本思想もまた、砂海原の向こうから撃ち込む事にある。実に漠府らしい武装。
だが、奴は砂海原を使わなかった。何故?それも、可変式などと言う、もろそうな武器で張り合う意味は?
キ、イン!
斧で、槍を弾いた!・・・否!流された!!
斧が、槍の柄を削りつつ、大地に食い込む。そこに、敵の体は、無い。更に不味い事に、野牛の意思と外れた動きは、ミノテリオンの動作を、一歩遅らせる。反応が、間に合わない。前の試合のように、間を空けず振り上げるなど、出来ない。ラストコアではないが、重量級のミノテリオンもまた、先読みが無ければ、重いのだ。
敵は、ミノテリオンと瞬前まで鍔迫り合いをしていながら、その身を自在に優雅に泳がせ、槍を的に向けた。
ミノテリオンが斧を振り上げ防御に移るには、時が足りない。
ドオ
敵槍は、見事にミノテリオン胴体を貫いた。
「うむ・・」
「相手も、やっぱり強いね」
ミノテリオンには200ポイントのダメージプラス胴体部の部位破壊。更に、皮鎧の消失。が、順番は違う。先に、皮鎧の消失。そう。
野牛は、攻撃を食らうと判断した瞬間にカウンター、外周必食を発動。可能な限り敵の攻撃力を削ぎ、かつダメージを与え相討ちに持ち込んだ。
だが、己業と戦草寺はそこを評価しているのではない。野牛ならば、その程度の業は、当然やってのける。
その野牛を、カウンターを使わざるを得ない状況に追い込んだ敵。
槍に2回の攻撃判定に150ポイント。出来れば、ノーダメージが理想だったが。流石に、ここまで1人抜きをして来た怪物。ただでは、負けてくれないか。
槍を撃ち込んだ瞬間に防御力は50パーセント下がる。その前に皮鎧の爆裂を食らったので、運は悪くなかった。そして、相手の防御は鎧を失い、胴体部破壊まで追加。もはや、クレナイ以下の装甲。こちらの武器が2度直撃で入れば、終わる。
だからこそ、相手は死に物狂いだろう。油断はするまいよ。
「強い」
「うん。まるで隙が無い」
斧に対抗するほど気が強いかと思えば、今度はクレバーに無駄な動きを見せない。まだ、ミノテリオンの斧は生きているのだ。そして、自分は4人目。5人目までに、目前の相手を倒し、可能な限り敵を削り続ける。それが、漠府4人目の仕事と自覚している。
やはり、どいつもこいつも強い。日本全国の強さの結晶が、ここに集い来たのだ。
早く。早く、自分も戦いたい。仲間の勝利で終わるなら、それも良いと思っていたが。
ダメだ。
おれも、戦いたい。思うままに、力をぶつけたい。そして、ぶつけられたい。
戦いたい!
「大丈夫」
心を熱していた己業は、戦草寺に服をつままれ、なだめられた。
「己業君の出番は、必ず、最高の時にやって来る」
「・・何故か、聞いても良い?」
「今日、ここまで来れたのが、己業君のおかげだから。だから、必ず己業君の舞台になるんだよ」
保証は無い。根拠も無い。だが、戦草寺が言った。
戦草寺の言った事なら、信じよう。彼女の存在が、証明だ。
おれをリアディウムに呼んだ彼女を信じず、誰を信じる?
「でも、この戦いは先輩が勝つ」
その戦草寺の言葉には力が入っていた。
が。
己業は、そう思っていなかった。
敵の出来る事、野牛の出来る事。そして、今までの機微。
野牛が、戦闘開始直後いきなり突っ込んだのは、そこにしかチャンスが無いからだ。野牛の想定では、敵は砂海原を使うはずだったろう。何せ、ミノテリオンの残り決着量は650。五分にやり合えば、普通に削り勝てる。更に、槍は斧よりも遠距離から届く。接近する方がどうかしている。
その中で、敵は近付いて来た。確実に当てるために。そして、近接で、野牛に競り勝った。あれはシルエットの能力ではない。プレイヤーの練度だ。
ミノテリオンよりリーチが有り、野牛と斬り合って見事に技を決める敵。
野牛は、負ける。それが、己業の答え。
「オオオ!」
「ふん」
野牛は声を出し、己を鼓舞しつつ突っかかる!
防御を失った状態で、自ら来るか。勇敢さと賢明な判断。流石と言っておこう。
野牛がただ縮こまっていたなら、砂海原から槍の流れで、削り倒されただろう。敵は、必殺技をより正確に撃ち込むために、砂海原を使わなかったのだから。撃ち終わった今、削りの時間なのだ。
さて?砂海原を使うか?
否。こいつから、目を逸らすのは、怖い。強力なブラインド効果は、当然自身にも適用される。相手の視界を塞ぐと言う事は、こちらからも相手を見にくいのだ。
本当に、上手い。砂海原を使えば、確実に間違い無く削れる。だが、それは、野牛に千載一遇の勝機を与える事にも繋がる。ミノテリオンの瞬発力なら、一瞬の間が有れば、相手の不意を突く事も出来よう。
その間を、与えない。
何とか槍を弾く。ただ、運が良かっただけの攻防だが。どうする。今度、敵必殺技を食らえば、1発。通常攻撃でも、2発。それで終わってしまう。それでも。
行くしか無いんだがなあ!!
怖い。目くらましを使いたくなる。でも、
威をまとい迫り来る大男。これを打ち破れば、次に進める。後、たったの2人。ならば!
槍よ!漠府を導け!!
オオ!!
・・・。
「お疲れ様です」
「お見事でした」
野牛は破れた。丁寧に編み込まれた必殺技の展開によって。だが。
最後の最後、敵の決着量は削られた。わずかに槍より早く、斧が敵に食い込んだのだ。
泣く千誌先生が、野牛を抱き締める。
悔しくは有る。が、強い奴と戦えた。私も、もっと強くなれる。手応えを、もらった。
己の技量を上回る敵との斬り合いは、野牛に新たな喜びを与えた。
野牛が破れた。次に出るのは、もちろん。
「行きます」
「頑張って下さい」
「行って来い!」
「楽しんで来てね」
見送る仲間達。
公式戦初登場。そのシルエットは、犬頭獣人。白をなびかせる威風。即ち、
ムミョウ。
データの無いプレイヤー。シルエットそのものより、そっちが怖い。野牛、戦草寺の仲間である以上、ザコでは有り得ない。強敵と、仮定するべきだ。その際、こちらが取るべき戦術は・・。
5人目のために、データを取る。相手の技を少しでも、出させる。
開始!
即、砂海原。相手の速度を削りながら、槍にて様子を見る。このまま削れるなら、それも良し。突破して来たなら、得意の戦法も見える。さあ、来い!
己業は、後退。砂海原の効果範囲を抜ける。そして、改めて回り込む。
むう・・。獣性を持った戦士を現したのかと思えば。賢明な立ち回り。だが、得手が分からない。無駄な動きの無い、見事な足運びだが。格闘術か?
ならば、と槍を前に出し、距離を保ちつつ必殺技の機会をうかがう。真価も見せず終わるなら、そうしてくれ。都合が良い!
オ!
突き入れる!
その動作に、油断は無かった。きっちり距離は取られていたし、相手の拳打足刀の予兆も無かったのだ。
パン
槍が弾かれた、と同時に負けた。
まず、右手の甲にて、槍先を流された。それも、一歩も動かずに。槍が流され、体が、ほんのわずか前のめりになった瞬間に蹴り込まれた。あごを蹴られ、体が浮く。そして、隙だらけの身を思いっきり殴られ、終了。
強い!やはり、動作に無駄が無い。上手い。流石、野牛の次に出ただけの事は有る。だが、シルエット本体の速度は、そこまででもない。ミノテリオンと同じく、攻撃時の速度は大したものだが。情報を探りきれなかったのは残念。格闘タイプであることは分かった。
己業は感動していた。槍を弾いた瞬間の快感。遅くはなかった攻撃、適切だった間合い。その敵を、技を、この身で味わう。そして、この拳で殴り、この足で蹴る。相手の五体を知る。相手の堅さを、強さを、おれの鍛え上げたおれ自身で、知る。それが戦い。
爆発する喜びを体内で循環させる己業。静かにたたずむムミョウ。
野牛は苦笑した。自分が敗北した強敵を、造作も無く屠られては。戦草寺は、血を熱くした。今すぐ、ムミョウを斬り刻みたい。自分が構築、調整した、言わば我が子なのに。千誌は初めての己業の戦いを、微笑ましく見ていた。強さうんぬんは良く分からないが、楽しそうなので。うんうん。
5人目。己業が目を付けていた獲物の1人。こいつが、強固な守りの史往カルデラを粉砕したのだ。
このおれは。どうなるかな。
開始!
動かない。動きを出来れば見せたくない己業はともかく。相手も。
敵武器は、大砲。林密の可変大剣のようなギミックは無い。本物のカノンだ。大火力遠距離武装。それゆえ、距離を取るが定石。なのに。
・・・不味い。何故か分からないが、動けない。この敵を前にした途端、体が止まった。まるで、目前の相手に見つかりたくないとでも言うように。更に、勝ちパターンが、視えない。視えるのは、大砲が避けられ踏み込まれる未来。後退する動きに合わせ踏み込まれる未来。どちらにせよ、どうにもならない・・?
にらみ合って、6秒が経過した。
・・愚か!我が頭脳は、砂にまみれたか!この場この時に、容易に勝利の光景を想わせる敵が、居るものかよ!!
強者と対峙した恐怖に飲まれるは、流砂に沈むよりも耐え難い。動け!!
ガア!!
撃った!しかも、必殺技状態で。
砂砲灼熱。一撃千殺、広範囲放射射撃複数判定技。そのリーチの長さと判定の多さ、ダメージの大きさ。何を取っても一級品。もちろん、条件も最高に重い。自身の移動速度を90パーセント、防御を80パーセント、攻撃力を50パーセント、試合終了まで低下。決め技としてしか使えないほどに厳しい。だが、これを食らって無事で済むシルエットは存在しない。・・食らえばな。
躱したムミョウは、3撃で敵大将を沈めた。
分からない・・。どうやって、負けた?いや、3連撃を食ったのは理解している。防御力の低下している今なら、当然だろう。見事に避けられたのも認識している。
その、方法が分からない。敵シルエットの速度では、とても砂砲灼熱を避けきるなどと。
一瞬。一瞬の加速は、ミノテリオンを超える。ダッシュ系か、速度強化の技か。モニター越しに見ていた漠府生徒と他校の人間は、そう結論付けた。
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
今回は、己業にも立場が有った。今までは、補欠のようなポジションだったが。やっと胸を張れる。
漠府は、砂に帰る。いや、死ぬのではなく、普通に学園に帰るだけだ。無論、大会の全てを見届けてデータを手に入れてから。来年、優勝するためにな。
3回戦の相手は、滋賀県浸中高校。




