2回戦。漠府。野牛。
奴らは、砂の中から現れた。
スーパーハッスルした先生を落ち着かせてから、技四王は小休止に入った。他校の1回戦が終了するなり、また同時に2回戦が始まる。最後の決着が付いてから、10分間の移動時間を挟んで、2回戦。だから、技四王やオリーブなどの、先に試合を終わらせた学校は、より多くの休憩時間をゲット出来る。これまた、強者が有利なのだな。
2回戦、技四王と当たるのは、どうやら漠府学園だ。
鳥取県代表、漠府学園。鳥取砂丘の地下数百メートルに立地する、宮廷学校。その昔の中国地方を席巻した、現代で言う所の貴族、豪族が砂丘深くに避難場所を建設したのだ。その後、何十度かの改修を経て、寺院、城砦、武家屋敷。様々な変遷をたどりつつ、ようやく落ち着いたのが、学園だった。はっきり言って、日本国でも指折りのヘンな学校である漠府学園は、あらゆる意味で目立っていた。
一目で分かる事として、色白美人しか居なかった。
「あの・・」
「言いたい事は分かる」
戦草寺は、無言で観察していたが。己業は、ちょっと言葉に出してしまいたかった。
白、過ぎる。
おしろいでも塗ってるなら問題無い。また、妙齢の方が美白効果を狙いお化粧されていても良い。
だが、これは。不健康の領域に足を踏み入れている。
今は、真夏の太陽の下だぞ。今日まで、日焼けもせずに来たのか?自動車でやって来た技四王の面々も、腕を焼いたと言うのに。また、普段外に出ず、ヴィジョンに入り浸っている戦草寺でも、ここまで白くない。色白で可愛いのは認めるが。野牛は、人並みに外に出るので、まあ普通。己業は、普段から屋外で稽古に励んでいるので、かなり焼けている。
しかし。漠府は、全員が白かった。
簡単な理由・・・。地下の学園生活を送る漠府の生徒達は、日焼けをしない。地下のプールを使った水泳の授業も行われているので、肌をさらさないのではない。
そして、彼らは日焼けを出来ない肉体になってしまっている。真夏の日中に、己業のように肌をさらせば、間違い無くやけどする。
砂の中の、選りすぐりの白砂が、奴らだ。
現在、漠府優勢で、史往カルデラとの対戦が進んでいる。珍しい戦法だ。先に試合が終わっていると、敵情視察も簡単だ。たっぷり偵察させてもらおう。
「もうオリーブは良いのか?」
「構いません。先鋒の奴以外、出ませんでしたし。知明クラスではありません。勝てます。でも、奴が露払いであった場合。・・・楽しい戦いになるかもです」
言うなれば、自分や戦草寺より格上の相手を、どうでもいいと。
見慣れた、己業の威を伴った笑み。見ているだけで、戦いたくなる。が、戦草寺は、別のモノを見ていた。
岐阜の関刃と、栃木の黒曜石心。少々ケタの違う斬り合いだ。まだケリが付いていない。己業並みとまでは言わないが、戦草寺や野牛の腕前では、立ち向かえない。そう言うレベルだ。剣筋が、見えない。鍛え上げた戦草寺の目でさえ、おぼろげにしか。相対していれば、全く見えないだろう。1回戦の剣道家とは違い、防御が無い、完全速度特化型同士の鍔迫り合い。カウンターすら持ってなさそう。手持ちの武器のみにて屠るを尊んでいる。それで、全国まで来たか。
震えが走るな。アレらを。
斬りたい。
「戦草寺。試合までは、もう少し時間が有る。気を入れるのは、もうちょい後で良い」
己業が、戦草寺の背をなでる。子供をあやすように。実際、こと戦いに於いての己業と戦草寺の差は、大人と赤ん坊ほどには違う。
今のは、あたかも鬼業が、己業や威業に言い聞かせているようであった。
この会場中に、強者が満ち満ちている。まだ1戦も交えていない己業も、かなり居心地が良かった。
短時間で休息を取るため、会場内スペースにシートをしき、戦草寺と野牛はアイマスクを着用。座っての休憩だが、万が一、通行人に踏まれないために、己業が側に。
「案外、時間がかかりますね」
「そうですね。関刃とかは、実力拮抗してましたし。どうしても削り合いにならざるを得ないんでしょうね」
千誌と己業は手持ち無沙汰だった。どうしよう。すごい忙しいイメージで来たので、暇つぶしなんぞ持ってない。今すぐ出来る試合対策も存在しない。
モニターにかじりついて、他校の様子を伺うのが正解だろうが・・。
飽きた。
見てるだけでは、うーむ。
「空いてるユニットを・・ってそれじゃ作戦が終わるか」
試合の終わったヴィジョンユニットで体を動かそうかと思ったが。モニターは誰でも見れるのだ。バレる。
「しりとりでもしましょうか」
「そうですね」
高校教師と高校1年生の暇つぶしの方法は、しりとりと決まった。
1回戦全組み合わせの終了まで、1時間30分を要した。これは、確かに同時進行でなければ終わらんな。
「先輩。そろそろ終わります。次までに頭を覚醒させておいて下さい」
「・・・ん。了解だ」
戦草寺は先に準備運動をしていた。これに、リアディウム上の意味は無い。ただ、体を目覚めさせておけば、ヴィジョンでもちゃんと動けるだろうと信じている。
見た限り、漠府は面白い動きをする。が、特化型として言えば、砕落の動きの方が鋭いだろう。
ぽんぽん
戦草寺は千誌の腕を叩いてヴィジョンを終了させる。空きを使わせてもらう事は出来た。ので、先生が訓練をしていた。
正確には、先生の相手をしつつの、己業の動きの調整だが。ムミョウは、問題無く動いてくれる。いつでも、出れる。
一切、速度を上げず、ゆっくりとした動きで、先生のレオと組み手を行っていた。真価を見せぬように。それでも、気付く者は気付いた。数合わせじゃない。3人目の実力者だと。それでも、やはり実力を発揮している野牛と戦草寺のマークに重点は置かれていた。当然ながら。
2回戦。鳥取県漠府学園。相手の休憩時間は技四王より1時間も短い。逆に言えば、集中力を維持出来ている・・かも知れない。
相手方の戦術を見た限り、野牛なら押し切れる。戦草寺は、実は危ない。この敵を圧倒するためには、パワーかスピードに秀でている必要が有る。身軽とは言え、バランス型の泉鬼では厳しい。だから、
野牛が破れるような事が有れば。己業が出る。
1人目。と言っても、奴らは戦闘衣服を統一している。肌に合わせでもしたのか、真っ白な頭巾に装束。武器に些細な違いが有るだけで。基本的には、剣と槍。たまに銃。つまり、野牛なら。
オオ!!
押し通れる!!
敵基本武装、槍。1番槍か?まあ、良い。
開始と同時に全速力で敵に向かい、千畳海苔を、相手武器に。まず武器破壊。だが、相手も即座に発揮した。
漠府の持ち味。砂海原。
見えない。そして、体が重い。
ミノテリオン周囲が、完全に砂に囲まれている。圧力さえ感じる。頭までお風呂に浸かった時より、重い。これが、砂風呂って奴か。
砂海原。広範囲特殊効果技。漠府の全員が使用する、これを前提としてシルエットを組むほどの象徴的必殺技。千殺万札より大きなブラインド効果と継続ダメージを維持し続ける万能技。しかし、発動時に使用者の決着量を200ポイント削るリスクを背負っている。それでも、相手身体速度を5パーセント削る効果さえ持っている。
だが。知っている。先に試合を終わらせた技四王は、この技の効果も、突破策も承知している。
所詮、砂は砂。ミノテリオンのパワーなら。
ゴ、オ!
振り払える。砂の壁を斬り裂く!
そして、叩き斬る。相手方の防御策は、剣のみ。本来なら、槍で砂壁の向こうから突いて来る予定なのだろう。そして、それを主作戦としているため、突発的な対応が出来ない。この戦法は、1回戦と変わっていない。1回戦では、2戦目の学校に速攻を仕掛けられ敗れていた。今回のように。
だからと言って、戦術を大会の真っ最中に変える事も難しい。そんな練習は、していないのだから。技四王が、なぜか格闘に強いように、各校もまた、それぞれの強さを引き出し、高め、ここまで来た。それを、土壇場で、通用しないのでやめます、ぱっと閃いた新作戦を実践もした事は無いけど信じ実行します・・とは行かない。
リアディウムであろうと、ヴィジョンであろうと。人間は練習もせず強くなれたりしない。もし、そんなものが居るなら。それは人間じゃあ、ない。己業はおろか、鬼業ですら、鍛えもせず今の強さを得たのではないのだからな。
野牛は問題無く、勝利。
「良し!」
賞賛する己業、拍手を送る戦草寺と千誌。良い出足だ。これは、2回戦も堅い。
だが、漠府は後方に強者を置いている。油断は出来ない。
2人目。砂海原が、こちらに効かないとその目で理解したはずだ。必ず、何かの工夫をして来る。
全く表情を緩めていない己業の顔。その真剣な眼差しを見て、野牛は再度ゴーグルを付ける。ただし、こちらは獰猛な笑みをたたえて。
己業が、まだ余裕を見せていない。私には、丁度良い敵か。
オ オ
1人目を造作も無く屠っておきながら、余裕ではなく、絶対的強者に立ち向かう時の威を身にまとうミノテリオン。
対戦相手からも、その威風が見えた。砂海原を使う漠府の者には、野牛の熱砂の如き気迫が伝わった。
それは、漠府の難敵。砂漠の陽光を避けるために地下に居るのだから。
開始!
やはり開幕と同時に駆け出すミノテリオン。そして、砂海原。
ワンパターン・・・。と、思わせたいのだな?
野牛は、飛んだ。ミノテリオンのパワーなら、ダッシュの勢いを跳躍に使えば、10メートルは飛べる。飛んだ直後、ミノテリオンの居た場所に槍が突き刺さった。
やはり。先鋒と同じ戦術と思わせながらの速攻。間を空けず、串刺しの予定だったのだろうな。
惜しいが、先輩のが上だ。己業は、野牛の巧さを改めて思い知った。この全国の舞台で、自分の読みを疑わない自負も。
戦いたいな、海苔子。
己業の中で、野牛は戦うべき獲物として認識され始めた。
ギイ!
思いっきり槍を弾く。大火力武器である斧と長距離対応の槍ならば、ぶつかり合いでは斧に分が有る。
敵は、まさか無思慮に当たったのではない。ちゃんと距離を保つつもりだった。だが、ミノテリオンの踏み込みと腕の振りの速さが、想像を超える。鈍重な見た目の大男が、恐ろしい速度で向かって来る。いかに、痛みの伴わないリアディウムであろうと、人間的な恐怖心を抑えるには、根性か覚悟か意思か。とにかく。腹をくくらないと、怖いもんは、怖い。しょうがない。
相手は、呑まれた。まだ反撃の機会は生きているのに。ここら辺は、安全が確保されていようと、リアディウムもまた戦いであるのだろう。
もっとゲームらしく、恐怖心を喚起させない作りにする事も出来る。ヴィジョン内なら、いかなるグラフィックも可能なのだ。しかし、武道的側面を求めたのか、リアディウムはそのようなグラフィックを用意しなかった。シルエット単位なら、可愛らしいものも可能なのだが。だから、意図して恐怖を置いているのだろうと想像されている。やはり、遊びごとと思われるのは、学生競技として相応しくないからだろうか。
押し潰される漠府の生徒。数瞬の斬撃にて倒れた。
「楽勝、なのはここまでかな?」
「ああ。1回戦も、3人目からが強かった。4人目と5人目は、おれも戦ってみたいぐらいだ」
その、3人目が出て来た。外見に変わった点は無い。武器が違うわけでもない。
だが、中身は違う。野牛も見た。
開始!
砂海原は使わない。野牛も飛び出さない。にらみ合い。
ただ、静寂が舞う。お互いの構えの変化の音さえ、無い。
「さて」
「気が、合いそうですね」
戦場の2人には、お喋りの暇は有ったようだが。
オ!
同時に駆けた!
ミノテリオンは、斧を振り回し、リーチを稼ぎつつ攻撃にかかる。敵は槍を収めつつ、接近を試みる。遠距離を得手とする槍が、近付く?
「あの槍をどうにか出来れば、いくらかダメージを食らっても勝てる」
「ノーダメージは、無理?」
「ああ。動きを見られていれば、おれでも無理だろうな。あれは、砂の鎧」
己業は相手を、過大評価している、と戦草寺は見た。本当に何でも有り、つまり対策実現を考えず貫吼を使うのなら、どうとでもなるはず。
近接に持ち込まれず、さりとて武器の届く範囲。ミノテリオンの今回の目標エリアはそこだ。その領域を、上手く陣取っている。
敵も何とか接近しようとしている。槍を後ろ手に持ち。
あからさまに過ぎる。だが、そうせざるを得ないか。普通に、何の工夫も無く槍を突き入れたなら、当たり前のように弾かれる。その光景を、既に見ているのだから。
槍砂爆。武器の喪失を条件に発動する必殺技。条件の重さのゆえに、かなりやばいダメージをもたらす。だが、槍を相手シルエットに突き込む条件も有る。その瞬間を見た技四王は、こうやって対策を練る事が出来る。
ただ、ここまでの条件なら、野牛はとにかく密接して格闘に持ち込んだ方が良い。そうしないのは何故か。
見計らっているな。アレを使う機を。構わない。いつでも来い。
・・・来・・・ない。ならば、そのまま終わってもらおうか!
ゴオ!
上手い!己業は心で、敵へ向けて快哉の声を上げていた。ミノテリオンが、リーチでなくパワー重視にした瞬間。その時を丁寧に待ち望みながら、反撃の素振りさえ見せず、そして。完璧なタイミングで撃った。敵ながら、なんと見事な技量よ。
砂爆。砂海原と同じく、漠府の共通必殺技。近距離にて砂塵を高速発射する、散弾銃のような技。ただ、本当に接近戦にしか使えない。リーチは恐らく、1メートルか。面の範囲は広いが、あまりにも距離が短過ぎる。1回戦では、カウンター気味に使用していた。本来の使い方をされてしまったわけだ。
これは、野牛の油断。と言うのは厳しい。斧の持ち替えのモーションを見せず、ただ振り回しの遠心力をリーチからパワーに変換しただけ。その微妙な動作と意思だけを、相手は読んだ。
野牛が狙っているのは、武器破壊、もしくは安全に削り勝つ事。だから、武器破壊を諦めたのなら。時間をかけてしまい、相手の逆転手を呼び込む時を与えるくらいなら。野牛は力尽くで来る。そう考え、実践してのけた。
相手もまた、ミノテリオンの戦術を2回見たのだ。そして、敵は木偶ではない。こちらと同じく全国まで来て1回戦を勝ち上がった、同レベルの実力者達。
何の対策も無いわけがない。
今後、こう言った読み合いは、更に顕著になるだろう。その時、己業の価値は最大限に高まる。見られていない己業には、何の対策も立てようがないのだから。
砂爆を撃ち込むため、全速力でミノテリオンの内懐に飛び込んだ敵は、即時離脱しようとした。次は、槍砂爆の出番だ。突き入れるには、そのリーチを発揮するだけの間合いが必要。
だ・・・・が
敵は、地面を強く蹴り付け、逃げようとして。捕まった。漠府レギュラーにパワーファイターは存在しない。ミノテリオンのパワーからは、逃げられない!
片手で敵の腕を捕まえ、もう片方の手に握り締めた斧を振り下ろす!!
ギイイイイイイイ!!
連続して斬撃を浴びせているにも関わらず、音は1つ。これは。斧で頭部から胴体部にかけて斬り裂いている間に、上向きのパワーを発動。そのまま振り落とした斧を胴体部から離れない内に、逆向けに頭部目掛けて斬り上げる。その音だ。
衣服を斬っているので、この金属音は、本来オカシイのだが。生身の音など再現するわけにもいかない。わざと作り物にしてある。
イイイイ!!・・・ン
そして、音が途切れたと言う事は。
パチパチパチパチ
技四王の拍手。相手の決着量を思う存分削り取り、野牛の勝利だ。
次は、お待ちかねの4人目。己業をして、戦いたいと言わしめる。
「残念。私が、あなたに勝つつもりでしたのに」
「いや。ギリギリだった。あなたが、先に槍砂爆をこちらに入れていれば。勝負はどう転ぶか分からなかった」
「ふふ・・。槍砂爆を食っても、負けるとは限らない、と」
相手、白砂の少女もまた、野牛の強さの本質を知った。パワーが有るとか、読みが上手いとかではない。負ける気が、全く無い。如何なる状況であろうとも、勝機を見出す。それ以外の考えを、頭に入れていない。キチガイと紙一重の戦闘の天才か。
3人目の対戦者と握手をして別れる。戦っていれば、またいつか、会う日も有るだろう。
ミノテリオンには、2戦続けて食らった砂海原で蓄積したダメージに砂爆分がプラス。合計350ポイントダメージに胴体部と両腕、斧に2回ずつの攻撃判定。斧で斬っていたにも関わらず、その最中、短く持った槍で削られた分も含まれている。中々キツイ。
そう。野牛が攻撃している時、同時に反撃ももらっていたのだ。これもまた、野牛の読み勝ち。槍砂爆は、いくらなんでも槍の穂先が触れただけでの発動は有り得ないだろう、と。
千畳海苔を、武器依存の必殺技を操る野牛だからこそ、予想出来た。千畳海苔に上段の構えと言うフォームが必要なように、槍砂爆にもまた、構えが必要なはず。そして、それは恐らく、思いっきり槍を突き込む構えなのだろう。
結果、野牛は勝利をもぎ取った。だが、ダメージは重い。部位破壊も一歩手前状態だ。
それでも。その状況を楽しんでいるように見えるのは、己業達のひいき目だろうか?




