旅行4日目の朝。
朝。ホテル周辺を走る、以無3兄妹。
流石に、1週間も体を動かさなければ、なまりきる。走るくらいはしておかないと。早朝、ホテル前に出てみたが、さて、地理が分からない。考えていると、ロボット犬がやって来た。
「話を聞くよ!」
「あー。ジョギングコースって有る?」
「有るよ!」
マップが出て来た。ホテル前、つまり現在地から、赤線が伸び、ちゃんと戻って来れるようになっている。時間も、決められるようだ。
「じゃあ、時速20キロで、30分って設定出来る?」
「オッケーだよ!」
出た。しかも、ロボット犬も一緒に走ってくれるらしい。
早朝、ご飯前なので、軽く走るに留める。体に軽い刺激を与えるだけで良い。どうせ本格的なトレーニングをするには、狭い。以無が、高知の田舎に居るのは、広いスペースを容易に確保出来るからでも有る。人口は少なく、面積は大きいからな。
「君。名前、有る?」
始業が走りながら聞いてみる。トップスピードではないので、お喋りしながら走っていた。
「アイル!」
「アイル君かー」
オス?メス?どちらとも取れる名前に設定してるのかな。始業は、考えるでもなく考えていた。
早朝の街を散歩する人々は意外に多い。こんなリゾートまで来て、健康など考えずとも良いだろうに。
だが、逆だ。こんな時だからこそ、普段なら3日坊主になる散歩も楽しめるのだ。
朝早くでも、既に店が開いていたりする。フレッシュジュース売り場には、ちらほら行列さえある。そして、横のベンチには新聞を読んでいる人達も。海の上、明るい太陽を浴びながらなら、毎日やっている事も、新鮮な喜びにあふれる。
読んでいるのは、おそらくアトランティス新聞。その名の通り、この地でしか発行されていない。そのため、お土産物としてまとめて買う人も多い。内容は、アトランティスの日常。新しいショップの案内や、ホテル、レストランのメニューの更新。ロボット犬のバージョンアップ紹介、海上都市の歩き方など。もちろん、海流や気温、この海域での気候も。かなり充実した内容を余す事なく書き連ねてある。普段、新聞を読まない己業ですら、欲しい。持ち帰りたいと思っている。面白い。
気持ちの良い道だ。走りやすく、足への衝撃も少ない。コンクリートじゃないな。かと言って、土ほど柔軟でもない。
「この道って、素材は?」
「家と同じ、強化プラスチックだよ!」
へえ。正直、驚いた。こんなに柔軟性を持てるのか。簡単に壊れたら、面倒だろ。
己業の疑念を察したのか、アイルが答えを寄こしてくれる。
「1年ごとに交換してるから安心だよ!」
「ほー」
まじで?いくら何でも、無駄遣いじゃねえか?
己業の疑問は、最も。だが、回収されたプラスチックは、ほぼ完全にリサイクルされる。もちろん、そのためのエネルギーは使うが。だが、アトランティス側、管理センター側は、人間の安全第一で動いていた。
人間の歩く場所は、どれだけ広い道だろうが、ある程度パターン化される。端っこを好む者、真ん中を好む者。家族なら家族らしい歩き方が有る物だ。そして、特定箇所のみに傷みが生じ始める。良く、道路にわだちが出来ているだろう。あれだ。だから、アトランティスの道は、壊れる前提で作られている。だからこそ、最もリサイクルしやすい、使いまわしやすい素材で作ったのだ。
全ては、人間の歩きやすさのために。より良い社会のために。
ロボット犬との早朝ランニングは、思ったよりも楽しかった。犬なのに、何を聞いても答えが返ってくる。すごい。
「あれ、欲しい!」
威業もお気に入りのようだ。日本でも過去に販売されたはずだが。まだ、人間と一緒に走る犬は、製造されてないよなあ・・。
実は、以無家は本物の犬を飼った事は無い。ペットの世話が途切れる瞬間が有るので、飼いにくいのだ。その点、ロボット犬ならクリア出来る。ふむ。威業の感覚は、正解かも知れない。
ホテルに帰ると、順次、朝風呂。シャワーだけど。威業は、まだ己業と一緒だ。
風呂も快適快適。気持ち良く出て来て、始業と交代。
「ん・・。おはよう」
寝ぼけ眼の雪尽が起きて来た。己業が早朝のランニングに出るのは、もう慣れている。
「おう」
口付け。おはようのキスだ。
始業と威業も、して欲しいが。
「一人前になったらな」
と言ってある。雪尽には、もう何もかもで世話になっているのは、皆が知っている事なので、納得させられる。だから、妹弟の小目標は、何かで兄を超える事だったりする。
今日もヴィジョン漬け、でも良いのだが。
朝食をホテルのレストランで。
「今日はどうする?」
「一日中ヴィジョン、は昨日したからな。散策か、ショッピングか」
己業の全員への問いかけに、野牛が答える。己業は和食。・・・朝から天丼。野牛は、洋食、カツカレー。こいつら。
「何も決まってないなら。ぶらぶらしようか」
「そうですね。ただ見て回るだけでも、楽しかったですし」
雪尽は極普通に、味噌汁、ご飯、漬け物、菜っ葉。焼き鮭も付いて来た。戦草寺は、パン食だ。クロワッサンにスープ。サラダも。
子供達の間では、話が決まった。
「お父さんらは?」
始業はビーフシチュー、威業はエビフライカレー。こちらも朝から良く食べる。
「んー」
何も考えていなかった。鬼業は雪尽と同じ物を。龍実はトースト、ベーコン、目玉焼き、サラダ。
「一緒に回りましょうか」
龍実は、そう提案する。特に異論も無いので、皆で観光。これはこれで、旅行らしくて良いか。食事後、ホテル前で待ち合わせする事に。
午前9時半。ゆっくり準備をしていたので、こんな時間に。
「アトランティスマン面白かったー」
「ああ」
ここ、グレートアトランティスには、自前のテレビ局すら存在する。メインは娯楽番組。観光客を当てにしているので、当然と言えば当然か。根強い人気を誇る海洋冒険ものを筆頭に、あらゆるジャンルのドラマ、アニメ、特撮が放映されている。演劇、お芝居も。これは劇場で見た方が良いかも知れない。
アトランティスマンは、海洋都市グレートアトランティスに住む普通のサラリーマン、海野 水面が主人公の特撮だ。ある日、水面は拾った流木によって、海洋超人、アトランティスマンに変身する。そして悪の海洋怪人をギッタバッタなぎ倒す運命に巻き込まれる、痛快アクションだ。敵の怪人との、禁断の恋も交えつつの、王道娯楽劇と言える。
ちなみに、現在シーズン4まで出ている。今朝、威業が見ていたのは、アトランティスデルタだ。アトラとティスの兄妹が、浜辺に打ち上げられていた謎の実を拾った所から物語は始まる。
アトラは、たった2人の兄妹の生活を支える漁師。海岸の村でも、めきめき頭角を現している。ティスは、兄とは逆に運動の類は苦手だが、勉強が良く出来た。現在、村の学校に通っているのだが、いつかは街の学校に通わせてやりたいと、アトラは考えていた。そのためにも、頑張らなきゃあ。
そんなある日。海岸を、海に近い国々を、大きな嵐が襲った。それは、村の長老ですら聞いた事の無い、大嵐だった。幸い、漁師が嵐の前兆を察知、全員で高台に避難して、命は助かった。
だが。漁の道具が、船が、家が。壊滅状態にあった。
このままでは、飢えて、村は終わる。若い衆は、山に街に出て、出稼ぎを始めた。女達は海岸で、海草を、貝を拾い集め、その日の糧を探した。
アトラもまた朝早くに家を出て、街で嵐からの修復の工事の仕事に就き、夜遅くに帰って来る生活だった。ティスは、そんな兄に、少しでも良い物を食べさせようと、朝早く、学校に行く前に、海岸を探し歩いた。そして。
実を、見つけた。ヤシ、ではない。もっと、大きい。日本人なら、分かる。桃だった。だが、この辺りでは、桃はならない。しかも、その大きさは、直径1メートルは優にあった。更に、青い。それを、例え日本人が見たとしても、すぐに桃と判断するのは、常識が許さないかも知れない。
そんな桃を見つけたティスがやる事は、兄に知らせる事だった。よほど大きな獲物ならともかく、漁では、一番に見つけた者、一番にモリを突き込んだ者に、優先権が与えられている。兄に、食べさせてやれる。
兄を連れ、海岸に戻った。大き過ぎて、ティス一人では運べなかったのだ。
確かに、見た事が無いほど、大きい。亀か、マンボウか。何にせよ、食べ応えが有りそうだ。村の集会場に運んで、皆で分けよう。そうすれば、少しは明るい雰囲気が戻ってくるかも知れない。そう考え、アトラは、桃を抱えようとした。果汁が詰まっていようと、アトラは若くたくましい漁師。誘導してくれる者が居れば、一人でも運べる。流石に、1メートルサイズのモノを持ち上げると、前が見えない・・。
えっちらおっちら、集会場まで、半分来ただろうか。
桃が、動いた。
アトラは、驚いた。何かの木の実だと思っていたが、卵だったのか?まあ、良い。卵焼きにしてやろう。
ドクン
もっと、大きな鼓動。
ドクン
さらに、大きく。
・・・馬鹿な。こんな卵は、知らない。
桃を置き、ティスを離れさせる。自分は、小刀を持ち、構える。
「ティス。大人を呼んで来い」
「う、うん」
武器を構えた兄に従い、離れようとしたが。
桃が、ぱくりと割れた。それに目を奪われた。アトラは、飛び出るかも知れないモノを警戒していた。魚か、亀か。
どちらでもない。
怪物だ!
右逆手に持った小刀を、思いっきり叩き込む!牙を、爪を閃かせる前に、止める!!
見事、怪物の子は、一突きで、死を迎えた。突き立てた小刀を引き抜く。アトラには、少々の返り血が残っていた。海で洗おうとする。が。
ティスは、兄の倒れ伏す様を、間近で見てしまった。
その後、アトラは、数ヶ月に渡り寝込んだ。長老の知識にも、怪物の姿は無かった。だが、怪物を倒したアトラとティスの家には、村の者達からの差し入れが途切れなかった。皆、楽ではないのに。
医者を招く金は、無い。それでも、ティスの献身によって、村の皆の支えによって、命を永らえ。そして、何とか起き上がれるようになった。
「ティス。逃げろ。街に、いや、遠くの国に行くんだ」
「兄さん?」
何を。うわごとだろうか。
「おれは、あの怪物の血肉を浴び、怪物になってしまった。そして、あの怪物は、あれで終わりじゃない。もっと。この海を覆い尽くすほどの怪物が、来るぞ」
「何を言っているの!」
ティスは、兄のたわごとを真に受けなかった。それはそうだ。先程まで、半死半生の病人だったのだから。それに、身動きもせず、死骸から話を聞いた?それなら、我々は、魚の死骸から、いくらでも良い漁場を教えてもらえるではないか。
兄は、その後、ヘンな事は言わなくなった。だが、どこか。思いつめた表情をするようになった。
来る前に。この体を動かせるように、ならないと。妹をすら説得出来なかったのに。大人達に信じてもらえるわけがない。おれが、何とかしないと。
アトラは、起き上がれるようになると、すぐにモリの練習を始めた。
アトラの目覚めた世界には。嵐の跡は、もう無かった。皆、元気に漁に出れるようになっていた。そして、起き上がり様にモリを触り始めたアトラに、頼もしさを覚えた。
それは、穏やかな春の日。
来たのだ。
アトラは、体に走る衝動によって、怪物の襲来をいち早く知った。目覚めてから、一月。まだ万全とは言いがたいが。
妹を。おれ達を助けてくれた皆を。守らねばならない。おれが!
「クジラだ!こっちに来る!浜辺から上がれ!!」
少し沖合いで、素潜りをしていた組みが、警告を出してくれる。
「お前らも逃げろ!!」
アトラも声を荒げる。久方ぶりに、大声を出した。漁に出ていなかったので、少し、体に響く。懐かしい感覚。
モリをしっかと握る。
「オオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
大声。鯨波の声。怪物を全て、こちらに引きつけるための声。
目を完全に見開き、殺す気を入れる。
さあ、来い。
オオ!!
でかい!体長20メートルはかたい!だが!!
クジラなんぞ、いくどとなく狩ったわ!!
ドオ
きっちり引きつけ、全力で振り抜いた。頭部を貫通、脳まで達したろう。
オオオオ
倒したは良いが、勢い良くこちらに体が流れて来る。上手く動かない体を、それでも頑張って動かし、逃げる。もう、大丈夫だ。
あと、数百体居る事実から目を背ければ。
「逃げろ!!」
アトラは、皆に聞こえるように叫ぶ。幸い、と言って良いのか。妹は、学校だ。ここで死ぬ事は無い。
神よ。海の神よ。生に、死に、感謝します。妹と生きられた事に。村のために死ねる事に。
突き込んだモリを、全身全霊の力で引き抜く。そして、また突く!
18体を狩った所で、19体目の挟撃に会い、アトラの命は潰えた。集まり来た他の漁師達も、何人かが既に犠牲になっていた。
怪物は、手足の生えた魚。問題は、クジラ並みの大きさ。それが、浜を目指して押し寄せてくる。長老始め非戦闘員は、高台に避難出来た。皆が戦い時間を稼いだおかげで。
き、いいいいいいいい
ドゴオ!!!
「クソッ!!間に合わなかった!!」
飛んで来たのは、青の巨人。
「でも、まだダークアトランティスは来るわ。この人達の犠牲を無駄にしないために、私達にはやるべき事が有る。そうでしょう?」
「ああ・・。ダークアトランティスめ!今日がお前らの最後の日だ!!」
青の巨人達は、現れ来る魚の怪物共を皆殺しにしていった。その光景は凄惨を極め、魚を仇と思っていたはずの海辺の人間でさえ、二度は見たくなかった。
青く光り輝く拳が、蹴りが入るたび、怪物は肉を飛び散らせ、動かなくなっていった。その光は、怪物の群れの中のアトラをも包んだ。
「ちくしょう。おれが、イービルアトランティスに、ちゃんとトドメを差しておけば。この人達は、死なずに済んだ!」
「泣き言は、後よ。アトランティスガンマの行方も分からない今。私達が立ち止まっていては、またこんな事が繰り返される。だから、私達は」
震える手で青の巨人に手を差し伸べる、女性型の青の巨人。
「ああ、そうだ!そうなんだ!」
差し伸べられた手を、強く握り返す。
「アトランティスレディ、おれは今からダークアトランティス本拠地に乗り込む!付いて来てくれるか!」
「答えは決まっている。アトランティスアルファ。・・・いいえ、私を、アトランティスベータをレディと呼んだ、アトランティスマン」
「ああ!」
青の巨人達は、全速力で海に飛び込んで言った。
海岸には、敵と味方の死骸が並ぶ。その中に。
もぞり
動くモノが一つ。
おれは・・・・。死んだ、はず。体が潰れるのを、確かに感じた。なのに・・。あまりの事態に、医者が来て、助かったのか?
アトラは、怪物の血と自分の血で、ぐちゃぐちゃのどろどろながら、何とか立ち上がった。
・・・・・皆を、運ばないと。
「アトラは生きてたぞ!」
歓声が海岸に響く。
「あれ、さっきの。おれ、街のテレビで見たぜ。アトランティスマン、だったか言うんだ。遠くの国の、ヤーポンってとこで怪物を倒してるらしい」
「へええ。すげえ奴も居たもんだな。でも、おかげで助かった。死んじまった奴らも、怪物を倒してくれたなら、報われただろう」
村の、家族のために体を張ったのに、結局誰も助からなければ、死んでも死にきれない。
一人一人、怪物と戦い倒れた漁師を運んで行く。集会場に置いて、家族との別れをさせて。それから、弔いだ。
ところが。突然、怪物の肉が。死骸が、アトラに集まり来た。
「死にぞこないが!」
素手のアトラは、それでも抵抗しようとしたが、どうにもならず肉に飲まれた。
またか。せっかく拾った命を、むざむざ・・・。
ぎゅお
お?
きゅう
体が、動く。ヘンな気はするけど、動きは、する。
「まだ居たぞ!アトラが飲まれた!!」
ああ。おれも立ち向かうぞ。敵は、どこだ。
のそり
「アトラの仇、皆の仇!」
「ティスに何て言えば良いんだよ!」
?おれが、見えないのか?おれは。こうして。
立っているじゃないか。
オ オ
身の丈、15メートルはあるか。直立した、怪物。
名を、
アトラと言った。
物語は、ここから始まる。
「ドキドキした」
「うんうん。正統派、王道だよなー」
威業も己業も、ヒーローモノは大好きだった。日本では、アトランティスマンは、まだ未放映のはず。その代わり、仮面ダイバーの新シリーズが、グレートアトランティスと同時放送されている、はずだ。現在は、仮面ダイバー・エレガントをやっているのかな。初めての、豪華客船を操る仮面ダイバーで、今までの仮面ダイバーと違う!と批判の声も少なからず見受けられた。どんなに大きくても、今まではボートだったのだ。だが、子供達、そして普段特撮を見ない親御さんにも受けた。客船内部のシーンが、あまりにも作り込まれていた。そこら辺は、流石にアトランティスのお株と言えるだろう。
アトランティスマングッズを見に行っても良い。もっと別のヒーローのおもちゃを探しても良い。そんなショップも、いっぱい在るだろう。更に、ここはアトランティスマンのロケ地なのだ。撮影場所を見に行ったって良いさ。
さあ、今日はゆっくり観光を楽しもう。




