第八話 終わり
入学から、どれだけだったのだろう。
――作戦は、何度も繰り返された。
手紙を渡す。
翌日、疑われる。
そして――
「待って!」
同じ声が、同じタイミングで割り込む。
何度やっても、変わらない。
言葉を変えても。
態度を変えても。
順番を変えても。
「エトワールがそんなことするわけない!」
結果は、同じだった。
――また、失敗。
手紙を渡さずに、もう少し待つようにもした。何週間、何ヶ月と待ったが
「エトワールがそんなことするわけない!」
変わらない。同じ。
「……もう少し調べよう」
まただ。
また、この流れ。
また、あの女が口を開く。
「待って!」
――やめろ
「エトワールは――」
――やめろ
「そんなことする人じゃ――」
ぷつりと、何かが途切れた音がした。
「――ワタクシの邪魔を、するなぁ!!」
声が、教室を裂いた。
静寂。
誰も、動かない。
息が荒い。
胸の奥が、焼けるように熱い。
「……はぁ……はぁ……」
――また、失敗。
理解した瞬間、熱は冷めた。
「……もう、いいですわ」
短剣を抜く。
躊躇いはない。
これは――ただの、やり直し。
刃が、喉元に触れる。
「次こそは」
迷いなく、引いた。
世界が、途切れた。
…何回目だろう。もう数えたくないほどに繰り返した。死ぬのは怖くない。でも、疲れる。
「…行かなくては…」
学校へ向かう足が重たい。街の人たちからの挨拶に、答える気力がない。
教室の扉を開ける。王子三人が話し合っている。何も言わず、席へ着く。本来ならここでセレナが来るはずなのだが、
「…」
セレナは遠くにいた。教室の隅で、他のクラスメイトと話している。その姿に違和感を持ったが、気にせずに王子達が来るのを待つ。
「エトワール…話がある」
来た。いつも通り、声をあげる。
「…何か用ですの?」
「君に裏切り者の疑いがかかっている」
「…ええ、敵国に情報を渡したのは、ワタクシですわ。それがなにか?」
こういったとしても、セレナが庇ってくる。だが、言わないよりはマシだ。
「…」
クラスを沈黙が覆う。来るであろうセレナの声は来ない。全員驚愕の顔をしている。
「…本当…なの、か?」
「ええ、嘘なんかつく意味ないですもの」
「あの…王子様…」
セレナが声をあげる。色が着き出した世界から、色が取り上げられていく。全てが、白黒に変わっていく。絶望が、支配してくる。
「私…エトワール様が前から商人さんに手紙を渡しているの…見ました」
セレナは、エトワールのことをせめた。どんなことをしても、エトワールを庇った彼女が、だ。そんなことはしていないが、エトワールにとっては好都合だった。
「…本当か…エトワール」
王子の声が、低くなる。クラスメイトに向ける声ではなく、”敵”に向ける声だった。
世界に、色が戻る。温度も、音も、全てが。
「…ええ…そうよ…そうよ!ワタクシが!全部!やったことですわ!全ては!敵国のため!」
気分がどんどんと上がっていく。声が上ずる。体温がどんどんとあがる。
「エトワール…貴様を裏切り者の容疑で連行させてもらう。疑いようがない…君は、死刑だろうな…残念だ」
「ふふ、ふふふ、ふふふふ……」
狂気的な笑みが溢れていく。クラスメイトから、軽蔑の目で見られているのがわかる。その視線すら、心地よかった。
剣を手にしたのは、アルフレッド王子だった。王子は、エトワールを見ようとしたが、その目を逸らした。何も言わず、彼はエトワールの首を切断した。
飛び散る血。
切った時の感触。
最後まで笑顔だった顔。
「……」
アルフレッドは、剣を強く握りしめた。
「これが…あなたの幸せなの…?」
セレナは、ぽつりとつぶやした。




